実況!ビジネス力養成講義 ファイナンス (日本経済新聞出版) [Kindle]

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  • 分かりやすく書かれている。1回では全てを理解できなかった為、繰り返し読む必要があると感じた。

  • - 金融というより、企業財務寄りの解説。
    - 実務的に犯しやすい間違いなどを経験を元に解説。
    - ***
    - 1.ファイナンスと会計の違い
    - 利益は「意見」、こんなふうに言われるわけです。「意見」というのは、誰の意見だと思いますか。/// 経営者の意見です。/// それに対してキャッシュはファクト(事実) だよと言われます。
    - 利益を計算する目的は次の3つです。
    - ①  税金計算 のため──利益をベースに税金計算をします 7。
    - ②  配当計算 のため──利益をベースに配当を計算し株主に分配します。
    - ③  業績評価 のため──利益を使って企業の業績を評価する、あるいは評価されるということです。  最後の業績評価がおそらく皆さんの多くが関係するのではないかと思います。業績評価のためとは、 利益を使って、企業の業績について企業の内外の関係者とコミュニケーションを取るということです。
    - 会計の世界は「利益」を扱う のに対し、 ファイナンスの世界は「現金」を扱う。 会計は過去を見る のに対し、 ファイナンスは未来を見る ということです。
    - 「PLを真っ先に見るやつはアマチュアだからな。プロはBSを見るんだぞ」と言われたんです。今でも真っ当な銀行員であれば、例えば、半沢直樹であれば、PLよりもBSを重要視するはずなんです。なぜでしょう。それは、 PLよりもBSにこそ経営者のありよう、会社の方向性を読み解く鍵が隠されているからです。/// 私は「経営は逆算である 21」という言葉とセットで次のように理解しています。  まずは、経営者は3年後あるいは5年後のBSをこのようにしたいというのを思い描く必要がある。そこから逆算して今、何にお金を投下すればいいのかを決めるのが経営者である。つまり、 BSは経営者がデザインするもの なのです。
    - 私が言っているBS頭というのは、簡単に言ってしまうと、 アウトプット/インプットという分数で物事を考える ということなのです。ところが、多くの人は、相変わらず、売上や利益などのアウトプットだけです。売上や利益というアウトプットを獲得するためにどんな経営資源をインプットするかという議論は後回しなのです。
    - 上が思うように増えないとPL社長はすぐコスト削減と言います。それはそれで無駄なコスト削減はしていくべきです。ただむやみに減らしてはいけないコストがあります。これを私は「3大戦略コスト」と言っています。1番目は研究開発費や事業開発費、2番目は広告宣伝費や販促費などのマーケティングコストです。そして、3番目は教育、採用関連費用です。これら3つのコストに共通することは何でしょうか。/// 将来のアウトプットのためのコスト。言いかえれば、未来投資です。
    - 戦略とは、優先順位を付けること なのです。
    - 特許権やソフトウェアなどの無形資産の重要性が高まっています。2019年9月17日付日本経済新聞によれば、米国S&P500社の時価総額の内、無形資産が生んだ価値の比率は40年間で17%から84%に増加していると言います。/// アルファベット(グーグルの持ち株会社) の無形資産の価値を米国の評価会社が試算したところ、開示されている評価額の30倍以上だったといいます。実は会計の世界では価値を正確に把握できない限り、価値として認識しないのです。
    - 取締役というのは、本来は社長を取り締まるのがその役目なんです。 日本ではどうでしょうか。むしろ、取り締まられ役でしょう? なぜならば、社長の部下なのですから。日本の場合、業務を執行する人とそれを監督する人(取締役) が明確に分かれていません。CEO(Chief Executive Officer) は最高経営責任者と訳されますがOfficer(執行者) です。これに対して、取締役はDirector(監督者) と明確に分かれています。米国の場合、「執行」と「監督」の機能は明確です。米国企業のガバナンスがきっちりしているかはともかく、少なくとも取締役会の過半数が独立社外取締役という決まりになっています。日本の場合、取締役会の議長も社長という企業も多く、社長の暴走と逃走を防ぎ切れないのです。
    2.企業の運用利回り;投下資本利益率と資本コスト
    - 投資家である債権者や株主の立場からするとそれぞれのコストは要求収益率と言い方が変わります。資金提供の見返りとして債権者は「利息」を要求し、株主は「配当と成長(株価上昇益)」を要求します。
    - 資本コストは、デットの利息や配当などの実際に企業が支払うコストを意味しません。 資本コストは資本の機会費用 13 です。これは、企業にとっての機会費用ではありません。 資金提供者である債権者と株主にとっての機会費用です。
    - 資本コストは負債コストと株主コストを加重平均して求めます。そのため、資本コストは、加重平均資本コストともいわれ、通常は英語の頭文字をとってWACC(ワックと発音) と表記します。
    - WACC=負債比率×税引後負債コスト+株主資本比率×株主資本コスト
    - 支払利息が費用として計上できるので、法人税がその分安くなるのです。したがって、企業が負担する金利は3%よりも低くなるというわけです。これが デットの節税効果です。/// 税引後負債コスト=負債コスト×(1−法人税率)
    - 企業は右側からデット(有利子負債) とエクイティ(株主資本) で調達し、資産に投下(インプット) し、税引後営業利益というアウトプットを稼ぎます。この時の収益率を投下資本利益率(ROIC:Return On Invested Capital「ロイックと発音」) といいます。これによって、事業活動のために投下した資本に対して、どれだけのアウトプットを得ることができたかという企業にとってのリターン(=利回り=収益率) を求められます。
    - 経営者はWACC(ワック) より高いROIC(ロイック) を稼いで初めて企業価値を創造できる のです。
    - ROICとWACCとの差をEVAスプレッドといいます。経営者の使命は、このEVAスプレッドをプラスにする、そしてさらに拡大することにある といえます。ちなみにこのEVAスプレッドに投下資本(デット+エクイティ) を掛けることによってEVA(Economic Value Added) を計算することができます。/// EVA=(ROIC-WACC)×投下資本
    - 事業リスクが高いビジネスの場合はリスクを好むエクイティファイナンス、安定している事業の場合はデットファイナンスが基本 だということです。このように資本構成を考える場合、事業リスクに見合った資金調達をする必要があるのです。
    - 格付はあくまでも債権者の立場から企業の債務償還能力を分析評価している ものだとご理解いただければと思います。/// 債権者の立場からみて最高にいい会社になるには、債務償還能力が高い会社ということになります。言いかえれば、手元に現金が潤沢にあり、なおかつ借金はできるだけ少ない企業です。デットが少ないわけですから、結果的にWACC(ワック) は高くなります。  もちろん、格付が低すぎるのもよくありません。「投資不適格」などと格付けされれば、リスクプレミアム(信用スプレッド) 25 はぐんと上がり、企業にとっての負債コストがあがり、これに伴って株主資本コストも上がります。ということは当然、WACCが上がります。そして結果的に企業価値が減少してしまう のです。
    3.NPVとIRRによる投資判断
    - 残念ながら、NPV法はもはや古いのです。今やるかやらないかの投資判断しかできないからです。NPV法はNow or Neverの投資判断と言われています。  実際は投資後に予想よりもうまくいったら追加投資する。うまくいかなくなったらてこ入れする。それでもダメなら撤退する。このように、投資実行した後、いろいろな選択肢があるわけです。
    - 企業価値という観点からすれば、受け取る金額が大きい選択肢Bを選ぶべきです。経営者の目指すべきゴールは何かと言えば、それは企業価値を高めることです。「率」を高めるのではなく、企業価値の「額」を増やすことが大切です。言いかえれば、プロジェクトの利回りが単純に高くても、企業価値に与えるインパクトが小さくては意味がありません。大切なことを言います。 IRR法は投資の優先順位付けには使えない ということです。
    - 経営は率より額が大切。ご理解いただきたいのは、率が重要ではないということではありません。率だけを見て意思決定すると間違えることがあるということです。率と額の両方を見ることが大切です。
    - さらにIRRには、注意すべき点があります。それは、プロジェクト期間中に得られるフリーキャッシュフローをIRRで再投資できるという前提があることです。/// 特に、発電所や道路などインフラに投資する場合、20年や30年もの長期のキャッシュフローを予測してIRRを計算します。仮にそのプロジェクトのIRRが15%と算定されたとします。それは20年、あるいは30年の間に得られるキャッシュフローがそのプロジェクト終了まで15%で再投資できて初めて達成できる数字なのです。長期にわたって15%で再投資できる案件がその都度あるというのは現実的ではありません。  IRRのこの隠れた前提を理解している人は少数派です。ただ、この本をここまで読んでいる優秀なあなたには知っておいてほしいことです。 IRRが高いプロジェクトであればあるほど、注意しなくてはいけません。 なぜなら、そんな高い投資機会はおいそれと見つかるものではないからです。結果的に当初計画していたIRRは達成できませんでしたということになりかねません。/// この再投資の前提によって、IRR法は投資によって現実に生み出されるリターンを過大評価している可能性があります。/// キャッシュフローが早期に生まれるプロジェクトでは、計算上回収後の再投資も考慮することから、結果的に投資利回りが過大に算出される ことを私たちは覚えておく必要があるのです。/// 成長ステージにある企業は得られたキャッシュをむやみに寝かせておくようなことはしないはずです。私がお勧めしているのは、 その事業のハードルレートを再投資率とすること です。これはプロジェクトから入ってきたキャッシュは、他のプロジェクトで回して少なくともハードルレートの利回りを得ることができるという前提に立っています。つまり、NPV法の再投資率の仮定と同じにするということです。
    - IRR法は得られたFCFをIRR(内部収益率) で再投資する   NPV法は得られたFCFをプロジェクトのハードルレート(割引率) で再投資する  という隠れた前提がそれぞれの方法にはあるということです。
    - NPV法の再投資の前提が企業のハードルレートですので、IRR法よりNPV法の方が現実に合っているでしょう。
    - 結局のところ、NPV法は企業価値を高めるのに最も優れた投資判断手法だということです。IRR法や回収期間法には注意すべき点があります。そのことを認識した上で、あくまでもNPV法の補助的な手法として使用すべきでしょう。
    4.FCFとはなにか
    - この運転資本の1年間の増加分をマイナスすることで、売上高や売上原価とキャッシュの動きのズレをなくす必要があります。/// 実務ではこの運転資本の回収をしていない財務モデルが散見されます。もったいないことですから、ぜひ回収してください。
    -   私は撤退基準があれば、社内のみんながハッピーになるのではないかと思います。 経営トップは事業撤退となかなか言えないのもわかります。覚悟と勇気が問われるからです。
    - 「With-Withoutの原則」はとても重要です。Withとはプロジェクトを実施した場合のことをいいます。Withoutとはプロジェクトを実施しない場合のことです。 プロジェクトのNPVやIRRを計算するフリーキャッシュフローは、WithとWithoutのフリーキャッシュフローの差額である ことは実務家でもうっかり忘れる方がいますから要注意です。
    - その担当者が本来やらなければいけなかったことはWithoutのフリーキャッシュフローをマイナスすることです。つまり、10億円を増設しなかった場合に工場全体のフリーキャッシュフローがどうなるのかを予測し、With(投資した場合) のフリーキャッシュフローからマイナスするのです。
    - 投資判断は、いつのときでも増し分フリーキャッシュフローで考えなければいけない。言いかえれば、その投資によって変化する部分に着目する必要がある。
    - 事業リスクに見合った割引率を適用する のが原則だったはずです。本来ならば、投資をした場合としない場合のそれぞれのシナリオの事業リスクに見合った割引率でNPVを算出し、どちらが大きいかで判断すべきということになります。ところが実務ではWith-Withoutのフリーキャッシュフローの差額しか算出できないケース、あるいは、その方が大幅に手間が削減できるケースはいくらでもあります。したがって、私たちは With-Withoutの原則には、それぞれのシナリオが同じ事業リスクだという前提がある ことを頭の片隅においとけばいいと思います。
    5.企業価値評価方法
    - 企業価値評価の方法は、一般的にインカムアプローチ、マーケットアプローチ、コストアプローチの3つに分類されます。各アプローチには複数の算定方法があります。実務でよく使われるのは、インカムアプローチのDCF法(Discounted Cash Flow法)、そしてマーケットアプローチの市場株価法と類似会社比較法です。
    - 「事業価値」は、まさに企業が行っている事業の価値です。これは、 その事業が将来生み出すフリーキャッシュフローを現在価値に割り引くことで求めることができます。そのときの割引率はWACC(ワック) です。では、なぜWACCで割り引くのでしょうか。WACCは、債権者と株主の要求収益率です。要求収益率=割引率の関係はここでも成り立っています。WACCで割り引くということは、経営者に対して、「少なくともWACC以上の収益率で運用してくれよ」という債権者と株主の願いが込められているとも言えるのです。
    - ここで思い出していただきたいのは、伊藤忠商事が事業別にハードルレート(割引率) を設定していたことです。つまり、 事業リスクに応じた割引率を適用すべきです。 ここまでご説明すれば、答えはおわかりになるでしょう。答えは、「バイオベンチャーの事業リスクが反映されたバイオベンチャーのWACCで割り引く」です。まとめますと、 事業価値を算定する際の割引率は買収対象企業のWACCを使う 4 ということです。
    - 実際に企業価値を算定するプロセスを見ていきましょう。
    - ①予測期間の事業計画を策定し、FCFを算定する
    - ②評価対象企業のWACC(ワック) を算定する
    - ③一定成長期間のFCFの価値(継続価値) を算定する
    - ④予測期間のFCFと継続価値をWACCで割り引いて事業価値を算定する(①~④は図5-4ご参照)
    - ⑤事業価値に非事業資産価値を加え、企業価値を算出し、デットをマイナスして株主価値(エクイティ) を算定する(図5-2ご参照)
    - この例では、事業計画の策定期間が5年ですから、6年目以降のフリーキャッシュフローは一定成長で伸びていくと考えるわけです。この期間を「一定成長期間」と呼び、この期間のフリーキャッシュフローの現在価値の合計を 継続価値(Terminal Value: ターミナルバリュー) といいます。
    - 例えば、初年度100万円のフリーキャッシュフロー(FCF) が永久に毎年3%で成長するフリーキャッシュフローの現在価値の合計は割引率を5%とすれば、次のように求めることができます。  この公式のことを、ビジネススクールのファイナンスの先生は、 ファイナンスで最も重要なフォーミュラ(公式) と言い、「卒業後も忘れないでほしい」と私たちに力説していました。
    - 具体的に継続価値を算定する場合、間違えやすいのが、分子にもってくるフリーキャッシュフローです。事業計画の策定期間終了時の翌年(今回の例で言えば6年目) になることに注意してください(図5-6)。したがって、次の計算式になります。ここは私もファイナンスを学んだ時によくわからなかった点です。
    - 類似会社比較法はDCF法と並んでM&Aの現場で、なくてはならない代表的な評価方法です。 評価対象会社と類似する上場企業の事業価値や時価総額などの財務数値を使って評価する方法です。 倍率を使って表現されることから、マルチプル(倍率) 法とも呼ばれます。
    - 世の中には、EV(Enterprise Value) を企業価値とする場合がありますが、厳密に言えば、企業価値ではありません。  EV(Enterprise Value) は一般的に次のように定義されます。 EV=株式時価総額(株価×発行済株式数)+ネットデット(純有利子負債)
    - それでは、EVは企業価値ではないとしたら、一体何なのでしょうか。仮に株式時価総額と株主価値が同じであれば、図5-9の通り、EVは事業価値になります。つまり、EVとは、株式時価総額から計算された、その企業の事業価値なのです。

  • ファイナンスはほぼ初心者だったこともあり、勉強になった。
    理論の説明も分かりやすかったが、伊藤忠のハードルレートやアップルのCCC等、先進企業事例があったのも理解を深めるのに役立った。

  • ファイナンスについて頭の整理をしたく。読みやすく、スラスラと読みすすめた。

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著者プロフィール

1991年上智大学理工学部卒業後、旧三菱銀行に入行。9年間勤務した後に退職後、米国インディアナ大学ケリースクール・オブ・ビジネス(MBA課程)修了。帰国後、日産自動車株式会社に入社。財務部にてキャッシュマネジメント、リスクマネジメント業務を担当。2007年より旧ブーズ・アレン・ハミルトン(現:PwCコンサルティング)にて企業戦略立案、実行支援等に携わる。2009年に同社を退職後、コンサルティング会社である株式会社オントラックを設立し、企業の投資判断基準、撤退ルールの策定支援、財務モデリングの構築、トレーニングを実施している。
著書に『道具としてのファイナンス』(日本実業出版社)、『ざっくり分かるファイナンス』(光文社新書)等がある。

「2021年 『実況!ビジネス力養成講義 ファイナンス』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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