長かったシリーズもついに完結!最後まで楽しく読ませていただいた。
これまで人と神との関わり、人間からの祈りと感謝、神から向けた人々への愛情、他者と触れ合うことによる自己の変化をテーマとしてきたシリーズであったが最後の最後に現れ、立ち塞がってきた神はまさに人へ愛情を注ぎ込んだ故に狂ってしまったアンチテーゼ的な存在であったことに読み終えてから気付いた。その彼女が最後に救われたのは、他ならぬ人間達が人間達同士や神々から受け取ってきた様々な思いが折り重なった温かい過去と、それを土台とする未来であったことも、過去と現在と未来を同時に貫ぬく神々の視点から希望と愛を描いてきたシリーズらしい決着であった。それによって主人公が選んだ道にも納得感があり、とても爽やかな読後感であった。
しかし今回もまたその構成力には驚かされた。こうした神との対峙と黄金の救出、脱出と和解までの現代の物語をスピーディーに描きながら、古代の人間達の絆、竜と人間達との絆を見せる過去の回想をしっかりと描き切っている。さらにその中でほのか、白、田村麻呂、聡哲、天石、アテルイ、モレ、シオヅチ、クニトコタチ、ククキ、アマテラス、タケミカヅチやツクヨミそしてスサノヲをはじめとする再登場の神々などのキャラの魅力をしっかりと出し切っており、登場人物の点においても豊富で豊かな物語が感じられる。もはや数巻分の物語を読んだかのような満足感だが、これほどの密度の物語を僅か300ページ足らずに盛り込んでおり、とても良質な読書をした気分になった。さらに今回登場した女神ヒナテルは、最初の巻で祖父から引き継いだ御用書に名前のあった神であり、彼女もククキと同じくその恩義で動いてくれたようであり、一巻からの仕込みに驚かされる。
また今回は神と対峙する要素が強く冒険感もあるためか、ビジュアル的にも距離的にも幻想的でワクワクする描写が多かったように感じられ、読んでいて新鮮なワクワク感があり、最後まで楽しませてくる作品であった。このほかにも不意に挟まれるくすりと笑えるやり取りなど、重苦しいテーマでありながら軽やかに楽しく読めたのは、暗くなりすぎない作風によるものが大きいだろう。
今回登場してきた神様でシオヅチのことは古事記を読んだ時に英雄的存在の困りごとを助けてくれる神として記憶していたため、ついにここできたか!という感じで最終章に漂う冒険感に一花添えてくれたように感じる。また驚いたのが、良彦の祖父の御用の御朱印に載っていた神再登場であり、彼の献身が最後に助けとなる展開も、祖父の継いできた縁、ひいては人々が受け継いできた縁を神が伝えるというこの作品に現れるテーマを思い起こしてとても熱くなった。また一巻を読んでチラリと登場した主人公の祖父の受けてきた神々について調べてみるのも面白いかもしれない。