欲望の錬金術―伝説の広告人が明かす不合理のマーケティング [Kindle]

  • 東洋経済新報社
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感想・レビュー・書評

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  • 一見不合理と思える施策がどれほど人間に影響を与える可能性があるのか、を多くの事例をもとに説得してくれるような本。

    行動経済学、心理学的なアプローチの施策の策定プロセスを教えてもらえるようなものではなく、哲学に近いが、だからこそ自身を戒めるのに良い内容。

    ロジックに凝り固まってしまったときに読み返したい。

  • 私は、どちらかといえば、感覚を大切にする。その感覚を基礎にして、ロジカルに説明しようとするのだが、それは感覚が出発点なので、ロジカルにならない。よく考えたら、ロジカルである必要はないのだ。私の日記には、「ロジカルに考えろ」と繰り返し書いてあるが、ロジカルに考えることができないからだ。
    この本を読みながら、なんとなく理解できたことがあった。ロジカルに考えること。しかし、それでは説明できないものがあり、心理ロジック(サイコロジカル)が必要だという。世の中には表と裏があると言うのだ。そうすると私は、あまり表(ロジカル)から考えずに、裏(心理ロジック)から考えて、ロジカルにしようとしていたから、苦労していたのだと気がついた。つまり、私は形容詞から考えるタイプなのだ。悲しい。嬉しい。寂しい。と思って、そこから、その形容詞を一生懸命説明する。
    本書では、レッドブルがよく売れるのはまずいからだと言う。世の中には不味いものが多い。それで売れないものが多いから、この説明は、成立しないが、売れていることから考えて、不味いを探り当てている。効率性や無駄がなくちゃ、面白くない。四角いものを四角く扱っちゃ面白くない。四角いものに、まあるくなーれ。まあるくなーれと呪文をかけることも必要なのだ。
    タバコは、健康被害があることがわかっている。ロジカルに考える人ならば、タバコを吸うと言う行為を健康のためによくないと思いながらも、吸ってしまう。そのことによって、精神の安定を図る場合もあるだろう。しかし、私がタバコを吸わない理由は、煙いのは嫌だからだ。煙が出ない電子タバコが出てきたが、困ったもんだ。煙いのが嫌いという理由を無くしてしまった。だとしたら、なぜ煙の出ない電子タバコを吸わないのだろうか?ロジカルに考えるとやはりややこしい。
    現在、一線を超えてはいけないと言われる愛の行為も、社会的に許されないから燃え上がるのだ。
    私は、今エンターテイメントが必要だと思っている、それよりもウップンバラシの方が大切だと思う。それは、コロナ禍によって、行動様式が制限されているからだ。マスクをしろ、多人数で宴会するな。海外には行くななど知らない間に、自由を奪われている。だからと言って、マスクを外して外を歩くこともできない。結局は、マスクをしなくていい家の中にいた方が自由がある。この考え方は、実にロジカルだ。自由を基準にしているから。
    タレブはいう。「連邦政府のレベルでは、私は自由主義者である。州のレベルでは、共和党員だ。街のレベルでは民主党員である。家族内では、私は社会主義者だ。そして犬といるときの私はマルクス主義者である。それぞれの能力に応じて、また要求に応じて変わるのだ」。この指摘は正しいようにも思える。人間は守備一貫して守る主義は、いらないのだ。
    常識を疑えとよく言われるが、ロジカルに常識を疑うことは難しい。ロジカルであることは、常識的なのだ。心理ロジックで言えば、常識というルールに縛られるのが嫌だからだ。人と同じことをして楽しいわけではない。まして、老人が常識に縛られていたら、老人になった意味がない。
    遺伝子組み換え食品を嫌う人が、遺伝子組み換えワクチンを体内に注入する論理矛盾は、いかにご都合主義だと言っても、論理的に説明できない。
    原子力発電が、地球温暖ガスを発生しないから、地球にやさしいと言っても、メルトダウンすれば放射能を撒き散らすわけだから、地球にやさしいと言えない。放射能を撒き散らしたという事実は、存在している。まして「原子力発電使用済み燃料」をきちんと処理できず、どこかに隠さないといけない。日本人は、隠して仕舞えば、それでOKというロジカルな思考ができるのだ。
    著者はいう「真の意味で顧客中心のビジネスにするためには、人々の意見を無視すべきである。その代わり、人々の感情に注意を向けよう」ふーむ。日本のお客さまは神様であるという素晴らしいロジカルな思考が貫かれている。
    立ったままで肉や寿司やフレンチやうどんを食べさせる店があるが、どんなに美味しくても、どんなに安くても、飯を食べるときは座って食べたい。座って歩くことはできない、もはや散々立って歩いているのだ。食べる時ぐらい座らせろ。著者は、GPSに従うなという。賛成だ。寄り道こそが楽しい。最短距離の道よりも、人様の庭にある桜を見て楽しむ方が、ずっと豊かだ。合理的は常に無味乾燥で、形容詞を殺してしまう。早い、安いという言葉だけを残して。
    市場調査、経済理論で組み立てたマーケティングは、成功すると限らない。なぜなら、みんながやるからだ。農業が、オーガニックがおしゃれだと消費者は思っている。でもねぇ。抗生物質の入ったクソを使って、作るのですよ。そして、硝酸態窒素が多いのですよ。オリンピック村に、硝酸態窒素の多い日本の野菜は入らない。どうして?健康だとか、安心だとか、頭に刷り込まれて、オーガニックを敬うのは、意味があるのだろうか。美味しい野菜の方がいいに決まっている。硝酸態窒素が多いものは、美味しくないのである。
    イチゴに練乳ほどマッチするものはない。いちごは甘味だけでなく、いちごの酸味が引き立つには、練乳がいるのだ。練乳とは牛乳に砂糖を加えて濃縮した加糖練乳だ。悪魔のような美味しさ。こういう悪魔のような美味しいものは、糖質制限をしている人には、味わえない美味しさなのだ。人生での美味しさを楽しめないで、死んでいくのは、生きている意味があるだろうか。
    確かに、なぜ歯を磨くのか?という理論を突き詰めるには、難しい。結局は、歯磨き屋の陰謀でしかない。なぜは歯磨きでは、25%の効果でしかないと、お口クチュクチュは言っていた。とにかく、除菌をしないと人間は生きていけないようになったが、人間の体の中に微生物がいるから、成り立っている。手も口の中も無菌して、無菌人間になったら恐ろしいばかりだ。
    この本を読んでいたら、次々にイマジネーションが湧く。まさに、イマジネーションの錬金術だ。
    「シグナリング」という指摘は、とても重要だ。価値はものにあるのではなく、心の中にあるのだ。心が安心すると、全て許されるのだ。結局は、プラシーボ効果で、自信を持ってしまうのだ。化粧品は、あくまでもシグナリングの一つだ。あれほど製造原価の安いものはない。広告費と容器代とパッケージ代が多くを占める。マスクをするというのは、その分だけ手抜きができ、化粧品や口紅を減らすことができるのだから、エコであり、SDGsとも言える。しかし、最近は目元の綺麗な人が増えた。
    錬金術のまとめがいい。①明確な交換条件に人は好感を持つ。②後悔を最小にする心理トリック。③同じ概念を別の表現にする。視点を変える。④選択肢を好む。⑤予測不可能なものになる。⑥些細な違い。針小棒大の論理。⑦小さなものに目を向ける。ふーむ。差別化というのは、いじましくもあり、人間の欲望に基づいたものだ。結局は、不合理ほど合理的なものはないのだ。そして、表面的なことにこだわることで、全く違った結果が出せる。真理はいらないのだ。結局は、わずかなことで、レバレッジをかけることができる。トヨタとイーロンマスクが、喧嘩した場合、誠実さではトヨタが勝つ(たまたまインチキをしたりするが)、奇抜さではイーロンマスクが勝つ。つまり予測不能な行動者の方が、支持を受けやすいということだ。Twitterで、イーロンマスクは株価を上げたりするので、結局はTwitterを支配する。トランプの人気ができたのは、Twitterだった。今の時代に何が必要なのかを知りぬいた人ほど、欲望を達成できるようだ。
    ふーむ。この本は面白かった。やっと、私がしようとしていたことが見えたような気がする。時代は、ロジカルに正しいことだけで成り立たない。

  • 人は客観的な品質や製品ではなく、私たちの見方を変えることで、「錬金術」は人々の心の中に価値を生み出すことを書いた本。
    広告代理店であるオグルヴィの英国支店の副会長で仕事をしてきた著者が最新の科学や多くのケーススタディ、心理学の知見をもとに、不可思議な人間の行動を読み解いています。
    合理的な決定を否定しているのではなく、合理的な思考にのみ基づいた決定を否定しているのが印象に残りました。

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著者プロフィール

ローリー・サザーランド
オグルヴィUK 副会長
世界的広告会社オグルヴィUKの副会長。『スペクテーター』誌のコラムニスト。広告やメディア、マーケティング・コミュニケーション業界の専門機関である英国広告代理店協会の前会長。出演したテッドトークは650万回以上再生されている。ロンドン在住。

「2021年 『欲望の錬金術』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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