日本の包茎 ――男の体の200年史 (筑摩選書) [Kindle]

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  • 医学書というより社会学の本だ。仮性包茎は医学上、病気ではなく、手術も不要である。それが、金儲けのために手術をしまくって儲けた一部の整形外科医がいる。まさに、コンプレックスを商売にした商いだ。

  • ふむ

  • 男性を貶める架空の女性の言葉が男性間の支配・被支配関係に利用され、その上それが女性嫌悪の温床になっており、その一例として「包茎は恥」言説があると知り、本書に興味を持った。

     医学的に問題が無い仮性包茎が、包茎手術で儲けたい医者とタイアップ記事で儲けたいメディアによって作為的に「恥」にされていく様が順を追って分かりやすく書いてあった。

    私はもうロンハーやゴッドタン他バラエティでの包茎イジリで笑う事は無いだろうなと思った。 それを笑う事はなにより男性を無用に傷つけ生きにくくさせるし、女性嫌悪を温存する遠因にもなると思うので。

  • 日本の包茎
    男の体の200年史

    著者:澁谷知美(東洋経済大学准教授)
    発行:2021年2月15日
    筑摩書房

    医学書ではない。社会学者、それもフェミニストを自称する女性学者が書いた本。書評でちょくちょく見かけ、評判がいいので読んでみた。
    いわゆる仮性包茎は、日本人ではマジョリティらしい。統計によって違いはあるが、最低でも6割ぐらいは仮性包茎らしい。欧米人はもっと多く、アメリカでは9割ぐらいとも。それなのに、日本では、なぜ「異常」「病気」扱いされてきたのか、歴史資料やその研究書、記録などを調べ、さらには戦後の雑誌を中心に「包茎」とつく記事などを可能な限り調べ上げ、どのように扱われてきたのかを紹介している。調査対象外なのはインターネット情報のみだが、それは1990年代までの雑誌情報そのままだから必要がないとしている。
    膨大な作業だったことが伺いしれるが、噴飯物の記事を含めて繰り返し「包茎」や「短小」などの記述が出て来て、読んでいて段々飽きてくる。

    高須クリニックに代表される「包茎手術」ビジネスによる捏造であると一刀両断にし、反高須的な論を展開するジャーナリスティックな書かと思いきや、そうでもない。もちろん、高須クリニックを含めた男性性器美容整形術の悪質性も暴露しているが、高須院長が包茎ビジネスはドイツ留学中にひらめいたアイデアであり、自分が捏造してぼろ儲けしたことを自慢げに認めている雑誌インタビューを紹介した後、著者はむしろその一部を否定するなど、そこにとどまらない。高須院長よりはるか前からそうしたことは存在していたことを、資料を示して証明し、彼の〝はったりぶり〟を明らかにして軽くはねのけている。

    著者は社会学者でありジャーナリストではない。このようなビジネスを蔓延らせた真の原因はどこにあるのかを分析している。それは、「男による男差別」だと結論する。包茎をばかにする発言は男性がしてきたこと。そして、70年代から美容整形との編集タイアップでその片棒を担いだ雑誌メディアは、編集長を筆頭にみんな男たちであったこと、女性の口を借りて「包茎はいや」と雑誌で語らせてきたのも男が作ってきた雑誌であったこと。そしてなにより張本人である包茎手術医師は男ばかりであること。結局は、男が男の首を絞めて金を巻き上げたということになる。さらには、このようないい加減な状態を放置してきた性教育の不十分さ、修学旅行で集団入浴させる問題点など、学校教育にも改善を提案している。

    話は、1600年代から戦前、そして1940年代までの章、戦後復興から1960年代までの章、1970年代から1990年代のインターネット普及前夜までの章、そして、包茎手術ビジネスの終章、という区分けで語られていく。メインは1970年代からの話だが、高須クリニックをはじめ包茎手術ビジネスは、手を替え品を替え、本当に悪辣に儲けてきたことがわかる。

    1970年代以降の主戦場は、平凡パンチ、週刊プレイボーイ、ホットドッグ・プレス、ポパイ、スコラなどの青年誌。
    ・包茎は病気、恥垢がたまって陰茎がんや子宮がんの原因になる
    ・包茎はペニス成長の妨げになる、10代のうちに手術すべし
    ・女性の口を借りて「包茎はすぐ射精するので快感を得られない」
    ・女性の口を借りて「包茎は不潔だからいや」
    ・男性の口から「包茎は男じゃない」「男友達にばれたら一生笑いものにされるぞ」
    ・包茎手術は単なるカラダの手術ではなく、ココロの手術だ、という精神的問題
    上記のような切り口が、時代とともに手を替え品を替えて活用され、雑誌社と美容整形が一体となって儲けてきた。

    さらに、それまで包茎手術する若者をばかにしてきた中高年層に絞った包茎手術ビジネスもやりはじめた。週刊宝石などが活用された。切り口は3つだったとのこと。
    ①ゴルフ言説②お棺言説③介護言説
    ①は仕事のつきあいでゴルフをした後に入浴した際、包茎がバレると仕事もできないやつだと見下される
    ②は死んだ時の湯灌で親族に見られる
    ③は年を取って介護されるようになって若いヘルパーに見られる
    そんな脅しを中高年雑誌で展開して包茎手術を勧めた。中高年が本当にその気になったのか疑いたいところだが、日経新聞にタイアップでもなんでもない産婦人科医の包茎に関する語りが載ったときに、多くの中高年から問い合わせがあったから、やはり当時は真剣に受けとめられていたことがうかがわれる。

    しかし、90年代半ばになると、包茎手術ビジネスを批判する報道が起こり、また、2003年には東京地裁の判決でペニス増大術などの失敗が原因で自死した会社員のことが明らかになる。専門医も包茎は普通であること、包茎手術後にトラブルが多いこと(国民生活センターへの相談では手術後の4割に問題が発生)、例えば恥垢は逆に必要であるなどそれまでの〝通説〟が否定され始めたこと、などなど指摘し始めて、このビジネスは黄昏れていった(それでもネット上ではまだ展開されている)。
    あれだけ包茎手術を煽った同じ雑誌が、逆に批判的な記事を載せる、煽った医師が逆のことを言う、そんな矛盾点も著者は指摘している。

    高須クリニックの院長自身の発言などが紹介されている。よくこんなことを本人が言えるなあと、呆れるばかりだ。

    「僕が包茎ビジネスを始めるまでは日本人は包茎に興味がなかった。僕、ドイツに留学してたこともあってユダヤ人の友人が多いんだけど、みんな割礼しているのね。ユダヤ教徒もキリスト教徒も。ってことは、日本人は割礼してないわけだから、日本の人口の半分、5千万人が割礼すれば、こればビッグマーケットになると思ってね。雑誌の記事で女のコに『包茎の男って不潔で早くてダサい!』『包茎治さなきゃ、私たちは相手にしないよ!』って言わせて土壌を作ったんですよ。昭和55年当時、手術代金が15万円でね。・・・まるで『義務教育を受けてなければ国民でない』みたいなね。そういういった常識を捏造できたのも幸せだなあって(笑)」
    (週刊プレイボーイ2007年6月11日号)
    *なお、これは著者によって嘘が指摘されている。高須のビジネス前から日本人が包茎に興味があったことを解説している

    「香料、お茶、阿片と儲かる商品は移り変わる。今度は何かな?包茎は過去の商品になってしまったな」
    (2013年、自身のツイート)

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著者プロフィール

澁谷知美(しぶや・ともみ)
1972年、大阪市生まれ。東京大学大学院教育学研究科で教育社会学を専攻。現在、東京経済大学全学共通教育センター教授。博士(教育学・東京大学)。ジェンダーおよび男性のセクシュアリティの歴史を研究。共著に『性的なことば』 (講談社現代新書)など、単著に『日本の童貞』(河出文庫)、『平成オトコ塾――悩める男子のための全6章』『日本の包茎――男の体の200年史』(以上、筑摩書房)、『立身出世と下半身――男子学生の性的身体の管理の歴史』(洛北出版)がある。

「2022年 『どうして男はそうなんだろうか会議』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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