制限時間付きのミステリーやサスペンスが好きということもあり、タイトルに目が行って読んでみた。
王室の流れを汲むオーデル公爵家の若き当主、アンセルが一目ぼれで交際を申し込んだ伯爵令嬢、グレイス。金銭的に余裕があるとはいえない領地で両親に代わって領地経営にいそしんできたしっかり者で、アンセルはそこにほれて熱烈にアタックし、彼女との婚約にこぎつける。そして結婚話がとんとん拍子に進み、挙式まであと3日。ところがグレイスはその夜に「あんな女性と結婚したくなかった(大意)」という婚約者殿の声を耳にしてしまう。公爵家が以前からある脅迫を受けていたこともあり、彼女は「公爵様の本命は他にいて、私は囮なわけか!それなら囮役を全うして犯人をあぶり出し、婚約解消して差し上げますわ!」と「納得」して周囲に迫真の嘘をばらまきつつ、レディースメイドのミリィを連れて公爵邸を出奔する。さてさてタイムリミット内に、このでかい釣り針に犯人が食いつくか?という大活劇の始まり始まり。
唐突に始まる囮作戦に、公爵家の蜂の巣をつついたような大騒ぎと、作劇のテンポがいいし、2人の間にガチの犯罪が絡んで解決しそうでしない、じらせ方も意外と巧み。それに、頭の回転が速くて行動力と瞬発力抜群のグレイス、グレイスにベタぼれすぎて彼女のことで判断をミスりがちになる以外は完璧な紳士でロマンチストのアンセル、そのアンセルのポンコツ部分をがっつりフォローするナイスガイな弟のケインと、メインの登場人物の役割がしっかりしているし、グレイスのためなら主家との衝突も辞さないミリィ、追うアンセルと「逃げた」グレイスの接点となる探偵トリスタンなど、脇役も上手く振られている。。絵柄もすっきりしながら可愛さも兼ね備えていて楽しい。特に、レディ・シャーロットの髪をショートウェーブヘアに見えるように結える、レディースメイドさんの腕はすごくないか。
冷静に考えれば、翌日の朝にでも「公爵様、ゆうべ聞き捨てならぬことを耳にしましたが」と確認すればおおむね解決とあいなるんだろうけど、その余地を劇中の早いうちにほのめかすとたちまち、グレイスの過失が100%の「無鉄砲なバカ女もの」的な作りになってしまうので、女性が多いであろう読者はかなりムカつくことが予想されるし、それは私も嫌だ。そもそも、グレイスには「どうして私が婚約者なんだろう」というぼんやりとした不安と自信のなさが当初からあるわけで、格式を重んじるであろう公爵家らしからぬスピード婚でゴシップの提供元になりかける中、「公爵にふさわしい婚約者」と評価されたい気分は理解できるよ、ソリューションが豪快だけど。それに、実際にはこの展開の種を(やむを得ず)まいた人物は他にいるので、そこでまあまあバランスがとれるかなという感じはする。そうはいっても、アクションを起こしたグレイスの損が大きく見えて不憫かなとは個人的に思う(火消しはできた感じが後日談からうかがえるものの)。
制限時間3日、実質2日の超高速ミステリーアンドサスペンス、ややトンチキなコメディに洋ドラ風味のロマンスこってりトッピング、うっすら魔法物語とてんこ盛り。マンガ、特に少女マンガの男女2人組ミステリーものはクリスティ「おしどり探偵トミーとタペンス」シリーズの枠組みでだいたい説明できると思っているが、この作品は「3日間」事件以降もかなりトミタペ度が高くて、創元推理文庫(ハヤカワ色ではないので)から出ていても驚かない。
1話ずつ電書を買って読めばいいのか、紙/電書の単行本を買って読めばいいのかという点については、第3章でメレディス様の却下する大量の文書の正体がわかるので、第1巻だけは単行本のほうがいいと思う。
まあ、とにかく、最新エピソードまで読んでも「事件」の火種はことごとくアンセルなので、貴君はグレイスに頭が上がらないままでいいんですよ、『奥さまは魔女』のダーリンみたいに。