金融庁戦記 企業監視官・佐々木清隆の事件簿 [Kindle]

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感想・レビュー・書評

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  • 日経新聞のコラム「私の履歴書」が人気コンテンツとしての地位をずっと保っているように、功成り名を遂げた人の回顧録は抜群に面白い。この「私の履歴書」は掲載されているのが日経新聞なので基本的にはビジネス界の大物が出てくる場合が多いが、時折政治家や官僚が取り上げられることがある。面白い割合を「打率」とすると政治家は大体が面白く打率8割ぐらい、ビジネスマンは5割、官僚は2割ぐらいだろうか。官僚としてトップに上り詰める人はリスク回避型の人が多いだろうから、どうしても面白い話が出てこないのかもしれない。

    本書はそういった”リスク回避型”ではないタイプのキャリア官僚人生を取り上げた一冊だ。元官僚の方が自分で書いた本は自慢話が多く、ジャーナリストが書いている場合もヨイショが過剰な場合が多いが、本書はそういった自己礼賛型からはかなり距離が遠く、読んでいて素直に楽しむことが出来た。巻末にしっかりと参考文献が載っているように、著者がちゃんと二次情報・三次情報に当たっているからだろう。

    そしてもう一つは、本書で取材対象となっている佐々木清隆という財務官僚(後半は金融庁)がいわゆるメインロードにはいなかったということが理由としてはある。開成高校 → 東大 → 国一をトップ合格という絵に描いたような学業エリートであるにもかかわらず、彼は大蔵省・財務省の本流を歩まずに、金融庁などの検査畑を一貫して歩いた人なのだ。傍流であるからこそ、その道を極めた人の話は面白い。

    本書はその金融庁、そして佐々木清隆が関わった多くの経済事件や大蔵省に関わる出来事が取り上げられている。36年もの間公職についていただけあり、この出来事のリストには大蔵省に対する過剰な接待(いわゆる「ノーパンしゃぶしゃぶ」)から始まり、山一証券の破綻、 ライブドア事件、 村上ファンドの問題、新興市場の「箱」企業問題、そして仮想通貨までをカバーしている。自分が経済や政治を理解するようになったのがちょうど山一證券の破綻だったので、ほぼ自分の人生と彼の職業人生が被っていることになるわけだ。

    この事件を追っていけばわかるように、金融庁(あるいは金融犯罪)のカバー範囲というのは、本書で言うところの流通市場(セカンダリー・マーケット)から発行市場(調達・株式発行)、そして非伝統的金融領域に広がっていったことがよくわかる。スタートアップの世界に長く身を置いている自分からすると、この流れというのはごく自然なもので、資本市場を守るためには発行企業までカバーするべきというのはむしろ当然にすら思える。そういった意味では、本書は一人の官僚の歴史を残しておくと同時に、今後の金融市場の規制・育成の方向性を示すものでもある。


    ちなみに本書では、著者が佐々木清隆を取材すると決めた時に「あの人はやめておいた方がいい」と言われたというエピソードが紹介されている。著者は妬みもあったのだろうと書いているが、おそらくその推測は正しいと思う。何度か言及されているように、こういったタイプの官僚は「面白いアイデアはぶち上げるが、法的な緻密さには弱かったり、ロジ周りに弱い」という共通点があるからだ。

    自分もいわゆるキャリア官僚には友達がいるのだが、こういったタイプの周りや下で働くと、それは大変らしい。ある意味でスタートアップの経営者のようなタイプで、遮二無二前に進んで行くので、後ろでゴミ拾いをしていく人が必要になるのだ。しかもこういったタイプは他省庁との細かい折衝や、政治家への説明はあまり上手くないことが多い。馬が合う人にはハマるが、そうでない人から見たら、適当に仕事をして手柄だけを取っていくように見えてしまうのだろう。

    そういう意味では、こういったタイプが本当のTOPを取るわけではないと言うのは、組織としては健全なのではないかと思う。 本書も他の類書と同じく、前例踏襲的な官僚に対して批判的な表現がないわけではないが、その筆の勢いは決して強くない。著者も官僚の世界を長く取材する中で、様々な人間が組み合わさって仕事が進んでいくということをよく知っているのだろう。

  • 大蔵省に入省しながらも、IMFやOECDという国際機関への出向という傍流を歩み、金融省発足から関わった官僚佐々木清隆氏のドキュメンタリー。

    山一證券や拓銀の飛ばしとそれに関わったクレディ・スイスとの戦いから始まり、カネボウの不正会計と関与した中央青山監査法人の解散、ライブドア・村上ファンド、AIJ投資顧問、オリンパスに東芝、最終的にはコインチェックと、世間を騒がせた金融取引関連の大きな事件のそのほとんどに関与してきた。

    管理する側の金融省や取締りを行う委員会など、監督体制の変更によって徐々に健全なマーケットになってきたと言えるが、どうしても日本においては常に省庁の管理は後手に回る体制はなんとかならないものかと感じられた。

    また、バブル後の飛ばしに深く関与したクレディ・スイスの悪行、札付きの監査法人や会計士、弁護士、そして何より時代の時々で現れる野村證券OBと、本来正しい行動をすべき人たちが、マーケットを歪ませる悪事に手を染めることは、いかに証券業界が情報の非対称性が大きく、そしてそれを活用して儲けられてしまうか、というのを表している。

  • この書籍はノンフィクションだけど、実際の事件をもとに小説となっているものも多いし、実際に面白くてドラマ化や映画化されるケースがよくある。

    やっぱり金融業界って、なかなか表に出せないけど劇的な事件が多いんだろうなと思いました。

    一つ一つの事件ごとに章立てされているので、時系列が行ったり来たりしているので、少し混乱するところがありましたが読みどころ満載で面白かったです。

  • 個々の事件の良しあしは見方がことなることもあるでしょうけど、
    金融犯罪の歴史?みたいなところで全般的にとても勉強になりました。
    基本的にクソだらけですね。だから規制とかがどんどん厳しくなるんだな~~と思った。


    P157 検察はその一部を切り取って「粉飾」とみなしたが、一部を切り取るのではなく、一連の行為すべてが市場を欺く行為として断罪されるべきではないか、と佐々木は考えた。

  • (2022/45)金融庁が発足して20年か。財務省(大蔵省)では傍流と見られながらも、水を得た魚のように検査や監査、また制度設計などに取り組まれた佐々木氏の行政官としての記録に重なる。有名事件ばかりが登場するからか、内容の割に極めて読み易く、また楽しい。実際に知っている人の名前もチラホラ登場して、そんなことが起こってたんだ、と恥ずかしい野次馬根性も見え隠れ。

  • ノンフィクションだから、というのはあるでしょうけれどももう少し主人公を持ち上げても良かったのではないかなと思いました。ご本人の凄さがちょっと伝わりづらかったです。「異能」の具合がもう少し知りたかった。

  •  金融庁佐々木清隆総合政策局長の個人史を振り返りつつ、1980年-の金融自由化・バブル・バブル崩壊・金融再生の歴史を紐解いた秀作の書。さすが朝日経済記者である。
     日本の金融経済政策の成功は、優秀な官僚組織のキャッチアップの力に依るところが大きいが、先頭集団では逆に桎梏になっているとの見立ては、平成30年間閉塞の主要因に繋がる。
    1.バブル主因80年営業特金ファントラ→89年角谷通達
    2.外資の荒稼ぎ クレディ・スイス
    3.金融庁のミッション①金融機能育成②国富増大
    4.海外エリートとの格差 プロvsアマ過去問
    5.霞が関は机上の空理空論
    *理想のプレゼン スティーブ・ジョブズ

  • ドキュメンタリーというカテゴリーになるのかな。
    大鹿氏の作品は好きで何冊かすでに読んでいる。
    これも面白かった。
    が、役人的消化不良みたいなことが少なくなかったんだなという点に、残念さと、投資家としての目利きというかNGなものを見極める能力の必要性を改めて認識した

  • HONZに紹介されていたので電子版を購入。2日で呼んでしまった。

    バブル末期の「飛ばし」と山一やヤクルト破綻。カネボウ破綻。ホリエモン、村上ファンド事件、AIJ年金ファンド事件、第2次村上ファンド事件、コインチェック事件などの金融事件とこの期間に大蔵省入省から金融庁局長までの立場でかかわった変わり者の官僚のキャリアを本人取材と周辺取材でまとめた一冊。

    金融庁設立の経緯とか、毎回なぜか元野村証券社員が怪しい会社を作ってでてくるとか、色々面白いです。

    世にお金がある限り悪事はつきないです。

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著者プロフィール

ジャーナリスト・ノンフィクション作家。1965年、東京生まれ。早稲田大政治経済学部卒。88年、朝日新聞社入社。アエラ編集部などを経て現在、経済部記者。著書に第34回講談社ノンフィクション賞を受賞した『メルトダウン ドキュメント福島第一原発事故』(講談社)をはじめ、『ヒルズ黙示録 検証・ライブドア』、『ヒルズ黙示録・最終章』(以上朝日新聞社)、『ジャーナリズムの現場から』(編著、講談社現代新書)、『東芝の悲劇』(幻冬舎)、近著に取材班の一員として取り組んだ『ゴーンショック 日産カルロス・ゴーン事件の真相』(幻冬舎)がある。

「2021年 『金融庁戦記 企業監視官・佐々木清隆の事件簿』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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