平成のヒット曲(新潮新書) [Kindle]

著者 :
  • 新潮社
3.71
  • (1)
  • (3)
  • (3)
  • (0)
  • (0)
本棚登録 : 15
感想 : 4
本ページはアフィリエイトプログラムによる収益を得ています
  • Amazon.co.jp ・電子書籍 (243ページ)

感想・レビュー・書評

並び替え
表示形式
表示件数
絞り込み
  • 平成のヒット曲で時代を振り返る。
    90年代の曲が懐かしく、Youtubeで曲を聴いたりして読み進めるのに苦労した。おどるポンポコリンって平成の曲なのか!と驚いたり、ミスチルよく聴いたなぁ、サザン、奥田民生、小沢健二、hideのピンク・スパイダー、懐かしいと感慨に耽った。


    ・1989~1998年は本当の「ミリオンセラーの時代」。
    CDバブルだった。ドラマやCMとタイアップした曲がカラオケで歌われミリオン・ダブルミリオンと巨大なヒット曲が生まれる。ヒットの方程式と呼ばれるものが成立した時代だった。確かにドラマの主題歌から爆発的なヒットが生まれた。思いつくだけでかなりある。
    小田和正「ラブ・ストーリーは突然」。
    チャゲアス「SAY YES」。
    米米CLUB「君がいるだけで」。
    ミスチル「Tomorrow never knows」。
    ドリカムの「LOVE LOVE LOVE」。
    曲を聴いただけであのドラマ!と即答できる。
    なにより「史上最もCDが売れた年」が1998年であることに驚く。この年のCD生産高6074億円。凄い。97年~99年は山一證券の倒産や金融機関の破綻が相次いだ。深刻な不況へと進んで世相が最も暗かった頃だが、音楽業界は絶頂期。我が世の春だった。
    そんな混沌とした世の1998年にデビューしたのが、宇多田ヒカル、MISIA、浜崎あゆみ、椎名林檎、aiko。その後の日本の音楽シーンを変えるアーティストが次々と出てきた頃。その意味で象徴的な年だった。


    ・1999~2008年。スタンダードソングの時代。まだCDが売れたけど、段々とヒットチャートで流行歌が追えなくなった。
    この時代を象徴するのがサザンの「TSUNAMI」(2000年)。
    スマップの「世界に一つだけの花」(2002年)にセールス数が抜かれるまで、平成で最も売れた曲だとは知らなかった。東日本大震災が起きてから、災害の歌でもないのに震災後の10年間、公の場でサザンはこの曲を歌っていない。これはさらに知らなかったし驚いた。
    逆に爆発的なヒットではないが、歌い継がれる曲というものもある。一青窈の「ハナミズキ」(2004年)は平成で最も歌われた人気曲らしい。結婚式ソングの定番だと思っていたが、この歌のモチーフが2001年に起きた米国9.11同時多発テロ事件だという。歌詞を読んでも全く想像できない。
    2005年にYouTubeがサービスを開始し、スティーブ・ジョブズが初代iPhoneを発表したのが2007年。
    スマホとSNSが人間の行動と社会をこれほど変えるとは誰も想像していなかった。ゼロ年代後半は音楽を聴く形も明らかに変化し始めた過渡期だった。個人的はこの頃自分が何を聴いていたかあまり思い出せない。
    この頃に流行った音楽サービスが着うた。2008年は着うた全盛期。まだスマホが普及してない頃で、世の中の主流はガラケー。
    この年のヒット曲がGReeeeN「キセキ」。ただ、スマホの普及で着うた市場は急速に廃れた。2016年に着うた・着うたフルのサービスが終了。着うたはスマホ登場前夜のガラケーが生んだあだ花だった。


    ・2009~2019年。ソーシャルの時代。
    AKBの躍進と国民的アイドルとなった嵐がCDランキングを独占。ヒットの基準があやふやになり、音楽シーンは細分化が進む。CDの売り上げがもはや流行歌の指標ではなくなり、ヒット曲の生まれる場がストリーミングサービスへと移行した。
    2015年にアップルがサブスクリプション(定額制)の音楽ストリーミングサービスを開始する。ネットフリックスもこの年に日本でサービスを開始。音楽や映像をストリーミング配信で楽しむ時代が本格的に始まる。

    ジャニーズ事務所の元社長・ジャニー喜多川は「スマップを平成のクレージーキャッツにしたい」と言っていたという。そのクレージーキャッツのメンバー・植木等。世代ではないが、昭和を代表する歌手である。1990年紅白歌合戦に出演した時の歌手別最高瞬間視聴率が56、6%。その人気ぶりが分かる。
    歌手でコメディアンで役者だった昭和の植木等を平成に引き継いだのが星野源だったという件になぜか深く頷く。
    2017年のヒット曲「恋」。ドラマ「逃げ恥」との相乗効果もあるが、恋ダンスもネットで盛り上がった。ここもソーシャルの時代らしさ。そして昭和の植木等が醸す多幸感も星野源の曲にはある。

    2019年4月30日、平成が幕を閉じた。この月、米津玄師「lemon」がCD売上枚数とダウンロード数合わせて300万セール突破した。サザン「TSUNAMI」とスマップ「世界に一つだけの花」に次ぐ3曲目。平成最後の金字塔とは確かに。喪失を歌った曲がここまで売れるとは珍しい。
    米津玄師の名を知ったのはSNSだった。2010年代から音楽や流行歌がもう分からなくなった。流行曲や歌手についてネット上でコアなファンが騒ぐ。それがテレビメディアに取り上げられ紅白や歌番組で知る。そのサイクルの積み重ねで平成最後の10年が過ぎた。

    Official髭男dismの「Pretender」の発売が2019年5月。2021年5月に累計再生回数は5億回を超えて、元号が平成から令和へと変わったことを踏まえて令和最初のヒット曲と言われる。CDの売り上げ枚数に代わり、ストリーミング再生回数がヒットの基準となったことが平成最後の10年間の変化なのだろう。



    多様な選択肢を「豊かさ」と定義すれば、平成のポピュラー音楽や大衆文化は豊かさと共に顧みることができる。その意味において平成は幸福な時代だった。そう、あとがきに書かれた文章を胸に「平成のヒット曲」を読み終えた。子どもの頃や青春時代を思い出したり、感慨に耽りつつ楽しい一冊だった。

  • 平成の30のヒット曲を分析し、時代の実像に迫る評論。
    各年1曲なのでいいチョイスもあればなぜこれというのもあります。
    ターニングポイントが多すぎるのと論点が定まってない面があるような印象です。
    あと妙に反戦思想の記載が多いなと思いました。

  • 各年のヒット曲と社会の風潮がわかりやすく描かれていたと思う。好きな曲は人それぞれあれど、ヒット曲ってやはり特別なものだから。特別好きなわけじゃなくてもその頃の自分を思い出す曲、出来事だけじゃなく、その頃の思考や周りの雰囲気を思い出させる曲。そういった名曲たちが、製作者の様々な意図のもとにつくられ、そしてその意図・予想をはるかに上回って成長した先に私たち受け取る側の日常があることを感じた。 すんなり読めるし、歴史好きにもオススメ。

全4件中 1 - 4件を表示

著者プロフィール

音楽ジャーナリスト。1976年、神奈川県生まれ。ロッキング・オン社を経て独立し、音楽についてカルチャー・ビジネスの両面から考察する広範なインタビュー、記事執筆を手がけている。著書に『初音ミクはなぜ世界を変えたのか?』(太田出版)、『ヒットの崩壊』(講談社現代新書)、『平成のヒット曲』(新潮新書)がある。

「2022年 『ボカロソングガイド名曲100選』 で使われていた紹介文から引用しています。」

柴那典の作品

  • 話題の本に出会えて、蔵書管理を手軽にできる!ブクログのアプリ AppStoreからダウンロード GooglePlayで手に入れよう
ツイートする
×