エジプトの空の下 [Kindle]

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  • イスラム教研究者が、2011年から4年間、家族と共にエジプト・カイロで暮らした時の生活経験を綴ったエッセー。

    極端な男尊女卑(女は所詮「全身恥部」!)とセクハラの嵐、近親婚、倒壊していく建物、そしてスラム街の極貧状況などなど、強烈なエジプト情報満載で面白かった。

    著者によれば、「イスラム教徒は基本的に、人間に主権があるとする民主主義や個人の自由を尊重する西洋的リベラリズムを最高原理と考えることはありません。それは「神のみが主権者である」というイスラム教の教義に矛盾するからです」、「彼らにとって重要な「民主化」や「自由」とは、イスラム教を正しく信仰するための「民主化」であり「自由」です」、とのこと。欧米流の民主主義・自由主義がイスラムの人々には馴染まないものなのだとしても、抑圧され通しの生き方、窮屈でなかなか辛いだろうな(特に女性の場合)。

    2013年の第2革命(軍事クーデター)について、著者は独自の評価(肯定的評価)をしているようだ。そして、「エジプトの人々という当事者不在のまま、革命を悪しざまに言う日本や欧米のメディアや研究者に対し、私は心底、嫌悪感を覚えました」と憤っている。他にも著者は随所でイスラムに対する日本のマスコミや知識人のステレオタイプな見方、報道の仕方を批判している。ただ、立場変われば評価が真逆になることはよくあるから、著者の見解も鵜呑みにはできないよなあ。

  • 著者はイスラム教の研究者で、女性。さらに当人はイスラム教徒ではない。そういう人がエジプトに住んで、体験し、見聞きしたことを題材にしたエッセイだ。本人も書いているが客観的な研究書ではなく、本人の感じたままを書いたエッセイというのがポイント。マスコミを通して伝わってくる世界情勢は、往々にして生身の感覚を失っている。そのとき、その場所に住んでいた人がどういう体験をして、どう考えたか。それを知ることで世の中がずいぶん変わって見える。

    ぼくらは欧米流の価値観の中で生きているが、それは世界の常識ではないんだな、と目からウロコの感覚だった。男女差別はいけないとか、信教の自由とか、欧米流価値観では当然のことが当然ではない世界がある。それがいいとか悪いとか、2つの世界で議論をするにはある程度の共通認識が前提であって、これいったいどうすんだろうと思った。

  • 読むと飯山さんが、その他大部分の中東イスラム研究者を嫌悪している理由が良くわかりました。
    エジプトの色々なお話が分かって面白い。
    https://seisenudoku.seesaa.net/article/488736859.html

  • 最も印象的だったのは、貧困や暴力や差別などの社会問題について述べているところでした。
    「一番大切なのは自分と自分の家族」という現実と自分の中にある自己愛や利己心を正直に認めること。
    それでも問題を見なかったことにしないで、しっかり見つめて事実を受け止めること。
    自分のできる範囲で何かをすることが、誰かをほんの一瞬でも幸せな気持ちにするかもしれない可能性を信じていること。
    自分に何ができるのか、はっきりした答えが出なくても、模索するのをやめてはいけないということ。私もそうありたいと思いました。

  • イスラム思想研究者が娘とともにエジプトに住んだ。
    サラフィー(厳格なイスラム教徒)の運転手との交流。アラブの春の自由が、西側諸国の自由とは異なるもので、イスラムの神の下の自由で、イスラム原理主義者の台頭を許すものであったこと、スラム街の現実。。
    2011-2014いう時代の風を感じる。

    イスラム教徒の国のことは正直全く知らないし、本を読んでもなかなか頭に入ってこない。生活のエッセイだとああ、こう言うことなのかと腑に落ちる。
    根本的に考え方の異なる人が世界にはたくさんいるのだと分かる良本。
    家に一冊置いておきたい。

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著者プロフィール

飯山陽(いいやま・あかり)
1976年生まれ。東京都出身。イスラム思想研究者。アラビア語通訳。上智大学文学部史学科卒。東京大学大学院人文社会系研究科博士課程単位取得退学。博士(文学)。著書に『イスラム教の論理』(新潮新書)、『イスラム2.0』(河出新書)、『イスラム教再考』(扶桑社新書)、『イスラームの論理と倫理』(共著、晶文社)がある。

「2021年 『エジプトの空の下 』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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