正体 (光文社文庫) [Kindle]

著者 :
  • 光文社
4.30
  • (77)
  • (80)
  • (15)
  • (3)
  • (1)
本棚登録 : 576
感想 : 80
本ページはアフィリエイトプログラムによる収益を得ています
  • Amazon.co.jp ・電子書籍 (578ページ)

感想・レビュー・書評

並び替え
表示形式
表示件数
絞り込み
  • Audibleで聴きました。
    ドラマにもなり映画化の話もある人気小説。
    根底には冤罪についての問いかけがあるが、社会派ドラマというより、激しく感情を揺さぶられるようなエンタメ作品。
    地頭の良さと容姿の良さを兼ね備えた主人公、なんとなく、ゴルゴ13やブラックジャックのような不可能を可能にするヒーローたちを彷彿とさせられた。ただし、銃やメスの代わりに損得勘定抜きに人を助けたいという優しさを武器にしたヒーローとして…
    あの結末も納得はできないけれど、あとがきの作者の言葉から仕方ないと受け止めた。そして、これも立原正秋の「冬の旅」を思い浮かべた。

  • 長いけど最後は少し感動

    評価4.2
    audible 20時間3分
    kindle 578ページ

     まずは脱走から始まるが、物語はいっきに一年以上経過する。グループホーム面接に現れた脱獄犯鏑木は腰の低い親切そうな若者。働きも問題なく正社員になることも勧められている。そんな中、そのグループホームに被害家族の母親が若年性アルツハイマーで入居していることが明らかとなる。この時点で序盤の驚き。進行はここからは遡り脱獄後の経過を時系列で追っていくらしい。
     自分で殺害した家族の生き残りに罪滅ぼしをしてさあ感動と言うわけには行くはずもなく、どのような物語になるのだろうか? 
     脱獄後の軌跡をたどるように話は進むが常に身元がばれる心配は読者も強いられる。全部端折って最初と最後を教えてほしいとおもうがもちろんそうも行かずこの長編小説の先の長さにゾッとする。
     さやかとの同棲、ジュンジの痴漢冤罪、いろいろと寄り道があり面倒くさいなと思っていたが、脱走犯は無罪?との雰囲気が漂う。少なくとも脱走犯を信用するものがいるし、逃走中に接した誰も彼を嫌う者はいない。

     話はグループホームに戻りクライマックスに向かう。鏑木は生き残りの被害家族の母親の事件時の記憶にこだわっている。これだけ優しく描かれていた脱獄犯が被害家族の苦しい記憶を引き出そうとするのはもはや彼が無罪で冤罪であるとしか説明がつかない。この時ばかりはいろいろと勘ぐるまいちゃんに邪魔するなとの思いが募る。

     警察に囲まれ、マスコミも集まりもはや万事休す。逃亡もここまでとなる。

     逃走中に出会った仲間達が鏑木の無罪を信じて活動する。弁護士が含まれていたのも、たくさんの同僚との出会いが描かれていたのも伏線となっている。途中はいらない、寄り道が長いなどと思ってしまったことは人には言えない。
     最後は司法の場で彼の無罪を勝ち取ることができ、分かっていても感動する。ただ、この感動の場に鏑木はいない。作者も後書きで述べているように彼を殺すことには賛否あったとのこと。個人的には作者が言うように彼が死ぬことによってこの小説のメッセージ性が強まるなどはどうでもいい。ただ、できれば生きて皆と無罪を分かち合ってほしかった。

    • paopaoさん
      コメントありがとうございます。ネトフリ会員なので見てみようかなと思います。でもドキドキハラハラが苦手で(つい早送りしてしまう)読書に逃げてき...
      コメントありがとうございます。ネトフリ会員なので見てみようかなと思います。でもドキドキハラハラが苦手で(つい早送りしてしまう)読書に逃げてきているところがあるので見れないかも、、
      2024/04/04
    • YUYAさん
      最後が…この先は言えません笑
      最後が…この先は言えません笑
      2024/04/04
    • paopaoさん
      わかりました。勇気を出して、確認してみます。どうもありがとうございました。
      わかりました。勇気を出して、確認してみます。どうもありがとうございました。
      2024/04/04
  • 久しぶりに本を読んで泣きました。
    なんて切ない話なのだと、読み終わった後の読後感が半端ない。
    無実の罪で死刑判決を受け、自分に降りかかる死から必死に逃げようと脱獄する鏑木が、姿形を変えながら様々な人と出会い、その人間性から皆から親しまれ、愛されるにも関わらず結局死刑囚であることがバレて逃げる連続。
    そんな苦境でも諦めずに身の潔白を証明しようとしてる鏑木が警察の身勝手さにより殺され、死んだ後に無罪判決を受けた結末の不憫さ、やるせなさに涙が止まらなかったです。

  • 死刑が確定した脱獄囚が名前や職を変えながら逃亡生活をおくるショートストーリーが基本的には時系列的に、一部順不同で綴られている。それぞれの短編がどのような相互関係にあり、どんな謎を秘めているのか、判然としないまま読み進めるうちにどんどん引き込まれていった。

    読み進めるうちに、そもそも脱獄囚の逃避行の目的は何なのか?散りばめられているエピソードはそのヒントかもしれないと思いはじめた。逃避行の目的は脱獄囚に殺害された一家の唯一の生き残りである、若年性認知症患者を探し出すことなのではないか。グループホームに入居している若年性認知症患者を探し出した脱獄囚は何をしようというのか。

    これは死刑囚であり脱獄囚と逃亡中に彼が出会った人々の物語である。そしてその人々は一家殺人事件は冤罪なのだと信じて、逃亡の末に警察により射殺された彼の名誉回復のため行動をおこす。
    警察、検察という国家権力による冤罪被害者の戦いへ思いを馳せ、このような悲しい間違いがない未来が訪れることを祈らざるを得ない。

  • 殺人犯の逃走劇を描くとともに、日本の司法制度の問題点を描いた小説。
    殺人犯の逃走先で関わる数名の人達の視点で各章が展開され、次第にこの殺人犯の性格がわかってきて、なぜ殺人を犯したのかと興味が湧いてくる。
    また、終章にかけて逃走の目的が判明し、物語の展開が変わってくる。
    久しぶりにシリアスな本格小説を読みましたが、丁寧な描写とリアリティでどっぷりこの世界に浸ることができて、染井為人さんのファンになりました。
    文句なしで面白い一冊。

  •  どんな時にも誠実な鏑木慶一が、殺人事件にどう関与しているのか気になって、一気に読んだ。フィクションとは、分かっているがやるせない思いが込み上げてきた。あとがきを読んで、この作品に対する筆者の思いがわかったが、それにしても切ない。

  • 届いてねぇよ、そんな声!死んだ慶一には無いも届かないよ。
    死んだ後に逆転無罪がでても慶一は救われない、生きてる人の気持ちが救われるだけだろが!
    と熱くなったが、物語はフィクションなので不幸な慶一君は存在しなかった、と気づいて ホッ。

    とはいえ冤罪事件は実際にあるし、殆どの警察官も怠けてる訳じゃ無い。悲しい現実。

    じゃあ冤罪撲滅の為に、国民に外せないスマートウォッチでも付けさせて、監視してみるか?誰が作り、監視、解析する?それもまた人がする。人が関わる以上はミスが起こる、何かしらの冤罪が起こる。悲しい現実再発、防げないね。

    人の社会は「真実」よりも「噂話」のほうがホントになりがちだし、人は他人の「真実」になんか興味がないってのが実情だと思う。
    「親しい人」ってのは「噂話」じゃなくて「真実」に興味を持ってくれる人のことなんじゃないかな、と思った。

    他人とか社会が「噂話」ばかり信じる事にはウンザリするけど、「あーまたそんなふうに思ってんのかー」と妥協するのが一番楽なんだろうな。

    でもやっぱり妥協しなかった慶一君には死んでほしく無かった、私の現実では妥協ばかりだから。

  • 少年死刑囚、鏑木の逃走撃。
    捕まったら死刑になってしまう中で、出会う人々を主観にして物語が進み、鏑木の人間性が見えてくる。
    出会う人々はみんな鏑木を好きになっていく、私も好きになっていました。

    鏑木の正体を明らかにしていく物語。
    謎めいた彼が気になり読み進め、ギリギリの逃走撃にハラハラして、途中胸が苦しくて、最後は感動して、読み進めていくうちに夢中になる一冊でした。
    この作家さんの本をまた読みたいと思います。

  • 最後まで夢中になって読んだ。
    久しぶりにこんなにのめり込んだな…と思うほど続きが気になって気になって、割と分厚い本なのにあっという間に読み終わってしまっていた…

    なんならあとがきまで良くて、まだ読んだことのない方には一度読んでもらいたいなと思いました。

    罪のない一家を殺害し死刑を求刑されている少年の脱獄
    そしてその少年の逃走劇、彼の周りの人々
    少年の正体は………

    すごく感情を揺さぶられました。
    終わってほしくない、終わらないでほしいと私も少年のそばにいる一人となって一緒に走り抜けた感覚だったのだと読み終わった後に感じました。

    すでに2周目を読め始めています、やっぱりこの「お話」は終わらないでほしい。

  • それぞれのシーンの描写があまりに巧みでリアルなため、まるで自分が物語の中の一員としてその場にいるかのような感覚に陥った。

    常に登場人物の感情や心拍数を一緒に体感しているようで、ページを捲る手が止められなかった。

    最後は、、、そう来ますか、、、、(良い意味で)

    久しぶりに、没入できる小説に出会えて幸せでした。

全80件中 1 - 10件を表示

著者プロフィール

染井為人(そめい・ためひと)
1983年千葉県生まれ。芸能プロダクションにて、マネージャーや舞台などのプロデューサーを務める。2017年『悪い夏』で横溝正史ミステリ大賞優秀賞を受賞しデビュー。本作は単行本刊行時に読書メーター注目本ランキング1位を獲得する。『正体』がWOWOWでドラマ化。他の著書に『正義の申し子』『震える天秤』『海神』『鎮魂』などがある。


「2023年 『滅茶苦茶』 で使われていた紹介文から引用しています。」

染井為人の作品

この本を読んでいる人は、こんな本も本棚に登録しています。

有効な左矢印 無効な左矢印
呉勝浩
東野 圭吾
宮部 みゆき
川上未映子
有効な右矢印 無効な右矢印
  • 話題の本に出会えて、蔵書管理を手軽にできる!ブクログのアプリ AppStoreからダウンロード GooglePlayで手に入れよう
ツイートする
×