正体 (光文社文庫) [Kindle]

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感想・レビュー・書評

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  • Audibleで聴きました。
    ドラマにもなり映画化の話もある人気小説。
    根底には冤罪についての問いかけがあるが、社会派ドラマというより、激しく感情を揺さぶられるようなエンタメ作品。
    地頭の良さと容姿の良さを兼ね備えた主人公、なんとなく、ゴルゴ13やブラックジャックのような不可能を可能にするヒーローたちを彷彿とさせられた。ただし、銃やメスの代わりに損得勘定抜きに人を助けたいという優しさを武器にしたヒーローとして…
    あの結末も納得はできないけれど、あとがきの作者の言葉から仕方ないと受け止めた。そして、これも立原正秋の「冬の旅」を思い浮かべた。

  • 長いけど最後は少し感動

    評価4.2
    audible 20時間3分
    kindle 578ページ

     まずは脱走から始まるが、物語はいっきに一年以上経過する。グループホーム面接に現れた脱獄犯鏑木は腰の低い親切そうな若者。働きも問題なく正社員になることも勧められている。そんな中、そのグループホームに被害家族の母親が若年性アルツハイマーで入居していることが明らかとなる。この時点で序盤の驚き。進行はここからは遡り脱獄後の経過を時系列で追っていくらしい。
     自分で殺害した家族の生き残りに罪滅ぼしをしてさあ感動と言うわけには行くはずもなく、どのような物語になるのだろうか? 
     脱獄後の軌跡をたどるように話は進むが常に身元がばれる心配は読者も強いられる。全部端折って最初と最後を教えてほしいとおもうがもちろんそうも行かずこの長編小説の先の長さにゾッとする。
     さやかとの同棲、ジュンジの痴漢冤罪、いろいろと寄り道があり面倒くさいなと思っていたが、脱走犯は無罪?との雰囲気が漂う。少なくとも脱走犯を信用するものがいるし、逃走中に接した誰も彼を嫌う者はいない。

     話はグループホームに戻りクライマックスに向かう。鏑木は生き残りの被害家族の母親の事件時の記憶にこだわっている。これだけ優しく描かれていた脱獄犯が被害家族の苦しい記憶を引き出そうとするのはもはや彼が無罪で冤罪であるとしか説明がつかない。この時ばかりはいろいろと勘ぐるまいちゃんに邪魔するなとの思いが募る。

     警察に囲まれ、マスコミも集まりもはや万事休す。逃亡もここまでとなる。

     逃走中に出会った仲間達が鏑木の無罪を信じて活動する。弁護士が含まれていたのも、たくさんの同僚との出会いが描かれていたのも伏線となっている。途中はいらない、寄り道が長いなどと思ってしまったことは人には言えない。
     最後は司法の場で彼の無罪を勝ち取ることができ、分かっていても感動する。ただ、この感動の場に鏑木はいない。作者も後書きで述べているように彼を殺すことには賛否あったとのこと。個人的には作者が言うように彼が死ぬことによってこの小説のメッセージ性が強まるなどはどうでもいい。ただ、できれば生きて皆と無罪を分かち合ってほしかった。

    • paopaoさん
      コメントありがとうございます。ネトフリ会員なので見てみようかなと思います。でもドキドキハラハラが苦手で(つい早送りしてしまう)読書に逃げてき...
      コメントありがとうございます。ネトフリ会員なので見てみようかなと思います。でもドキドキハラハラが苦手で(つい早送りしてしまう)読書に逃げてきているところがあるので見れないかも、、
      2024/04/04
    • YUYAさん
      最後が…この先は言えません笑
      最後が…この先は言えません笑
      2024/04/04
    • paopaoさん
      わかりました。勇気を出して、確認してみます。どうもありがとうございました。
      わかりました。勇気を出して、確認してみます。どうもありがとうございました。
      2024/04/04
  • めちゃくちゃ泣いた。
    先に出しちゃう。めちゃくちゃ泣いた。
    読む前はまさか泣いちゃうような本だとは思わなかった。重ためのサスペンスって言うかミステリなのかサスペンスなのかもよくわかってないで読み始めたと言うか。
    いくつかの話に分かれていて、オムニバス形式かー、結構長いなー、なんて思いながらだったのに…。
    だんだん引き込まれていって、これ結末どうなっちゃうの、周りの人たちどうなっちゃうの、なんならわたしも巻き込まれてるんじゃないこれ、ってな具合で、黒子のまま最後まで連れて行かれちゃう。
    そしたら。終盤ボロボロに泣いてました。なんなら嗚咽漏らしてた。こんな泣く?ってくらい。
    感動作では売ってないよ?これ。
    構成がいい…本当それに尽きる…。
    登場人物もとても良かった。感情移入しちゃうよ。
    でも、これはフィクションだけれど、とっても考えさせられます。考えると怖くもなってしまう…。そんな作品でした。

    • うたえながさん
      私もこの本読みました!すごく感情移入しちゃいますよね!
      私もこの本読みました!すごく感情移入しちゃいますよね!
      2024/09/09
    • 結月さん
      ≡うたえながさん≡
      コメントありがとうございます(⁎ᵕᴗᵕ⁎)
      すごく考えさせられる作品ですよね。
      もしも現実でこんなことがあったら…なんて...
      ≡うたえながさん≡
      コメントありがとうございます(⁎ᵕᴗᵕ⁎)
      すごく考えさせられる作品ですよね。
      もしも現実でこんなことがあったら…なんて。いや、実際にあったかもしれないリアル感。
      終盤、苦しくなってしまいました。
      2024/09/09
  • 久しぶりに本を読んで泣きました。
    なんて切ない話なのだと、読み終わった後の読後感が半端ない。
    無実の罪で死刑判決を受け、自分に降りかかる死から必死に逃げようと脱獄する鏑木が、姿形を変えながら様々な人と出会い、その人間性から皆から親しまれ、愛されるにも関わらず結局死刑囚であることがバレて逃げる連続。
    そんな苦境でも諦めずに身の潔白を証明しようとしてる鏑木が警察の身勝手さにより殺され、死んだ後に無罪判決を受けた結末の不憫さ、やるせなさに涙が止まらなかったです。

  •  どんな時にも誠実な鏑木慶一が、殺人事件にどう関与しているのか気になって、一気に読んだ。フィクションとは、分かっているがやるせない思いが込み上げてきた。あとがきを読んで、この作品に対する筆者の思いがわかったが、それにしても切ない。

  • 主人公は本当に殺人犯ではないのか。
    顔を変え、名を変え、場所を変え、それでも信念だけは貫いた。
    どんな結末を迎えるのかハラハラしながらあっという間に読み終えた。

    特に息もつかせないラスト30ページは圧巻の筆致でした!

  • 死刑が確定した脱獄囚が名前や職を変えながら逃亡生活をおくるショートストーリーが基本的には時系列的に、一部順不同で綴られている。それぞれの短編がどのような相互関係にあり、どんな謎を秘めているのか、判然としないまま読み進めるうちにどんどん引き込まれていった。

    読み進めるうちに、そもそも脱獄囚の逃避行の目的は何なのか?散りばめられているエピソードはそのヒントかもしれないと思いはじめた。逃避行の目的は脱獄囚に殺害された一家の唯一の生き残りである、若年性認知症患者を探し出すことなのではないか。グループホームに入居している若年性認知症患者を探し出した脱獄囚は何をしようというのか。

    これは死刑囚であり脱獄囚と逃亡中に彼が出会った人々の物語である。そしてその人々は一家殺人事件は冤罪なのだと信じて、逃亡の末に警察により射殺された彼の名誉回復のため行動をおこす。
    警察、検察という国家権力による冤罪被害者の戦いへ思いを馳せ、このような悲しい間違いがない未来が訪れることを祈らざるを得ない。

  • 死刑囚の脱獄。
    少年は行く先々で名前を変え、たくさんの人と出会いながら目的を果たす為に逃げ続ける。
    せつなくてもどかしくて、冤罪が心底許せないと思った。
    罪のない人が罰を受け、本当の犯人はのうのうと暮らしている。こんなことはあってはならないが、実際に起こっているんだよなあ。

  • じわじわと、もしかしたらこの好青年はひょっとしてあの、という疑惑の発生から、徐々に確信へと続いていく描写が、彼が潜伏場所を変えるたび、その都度毎回胃がキリキリするほど辛い。

    そして次第に、逆に実は彼は真犯人ではないのでは?という、物語冒頭とは彼に対してまったく反対の感情を持つ事を余儀なくされてしまう我々読者は、まんまと作者の用意した周到な仕掛けにいつのまにか落とされていることに気づく。

    物語終盤、その緊迫感が絶頂を迎えるグループホーム。

    綿密に練られた構成のストーリーは、結末から冒頭へと見事に収束させていく。

    彼が逃亡中に関わってきた人達、彼の嘘を信じ、そして疑い、それでも彼を冷酷な殺人者とはどうしても考えられない其々が、微力ながら彼を弁護し、彼の無実を証明するべく立ち上がる。

    それはとても感動的なエピソードではあるものの、結末を知った上ではあまりにも理不尽で、切なくやりきれない読後感。

  • 殺人犯の逃走劇を描くとともに、日本の司法制度の問題点を描いた小説。
    殺人犯の逃走先で関わる数名の人達の視点で各章が展開され、次第にこの殺人犯の性格がわかってきて、なぜ殺人を犯したのかと興味が湧いてくる。
    また、終章にかけて逃走の目的が判明し、物語の展開が変わってくる。
    久しぶりにシリアスな本格小説を読みましたが、丁寧な描写とリアリティでどっぷりこの世界に浸ることができて、染井為人さんのファンになりました。
    文句なしで面白い一冊。

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著者プロフィール

染井為人(そめい・ためひと)
1983年千葉県生まれ。芸能プロダクションにて、マネージャーや舞台などのプロデューサーを務める。2017年『悪い夏』で横溝正史ミステリ大賞優秀賞を受賞しデビュー。本作は単行本刊行時に読書メーター注目本ランキング1位を獲得する。『正体』がWOWOWでドラマ化。他の著書に『正義の申し子』『震える天秤』『海神』『鎮魂』などがある。


「2023年 『滅茶苦茶』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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