異常【アノマリー】 [Kindle]

  • 早川書房
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感想・レビュー・書評

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  • 何やらフランスで売れまくっているらしいというのは耳にしていたが、著者がウリポのメンバー(というか会長)だというので俄然興味がわいた。

    著者のエルヴェ・ル・テリエは数学者、言語学者でもある。ウリポのメンバーらしい肩書きだ。

    さてそれで実際に読んでみたら面白すぎた。フランス小説らしくとても皮肉がきいていて好み。
    内容はSF。あるとき、すでに存在しているのとまったく同じエールフランスの航空機が出現し、アメリカに着陸する。中に乗っている乗客もみな同じ。

    つまり、まったくの同一人物が現れたわけだ。それによって、この当事者である乗客たちの人生はどうなるか、をシミュレーションした小説。この設定じたい皮肉だ。ネタバレになるから書かないが、最後の最後まで皮肉である。
    ドッペルゲンガーものとはいえ、本作では分身が200人以上いる(笑)

    そしてこれはまったく気が付かなかったが、解説によるとレーモン・クノーへのオマージュ小説でもあるらしい。
    なるほど、そう言われると、登場人物たちのさまざまな文体の試みなんて、『文体練習』を思わせる。

    また、これは気がついて笑ったが、トルストイの『アンナ・カレーニナ』の冒頭の一文のパロディをはじめ、随所にそうした遊び心が散りばめられている。

    もうひとつ笑ったのは、本作に登場する無能な合衆国大統領が、ドナルド・トランプを思わせるところ。さりげなく愚弄している。

    綿密な描写によってぐいぐいと読ませる一方で、メタフィクションの構造にまでなっていて、ほんとうに手がこんでいる。それにしてもこんな小説が100万部以上売れるなんて、フランスの知的水準はまだまだ高いなあ。

  •  設定が奇抜で面白いです。第二部から一気に読み終えてしまいました。

     フランス人らしいアメリカ人を皮肉る感じとかも面白いなと。あと、中国が不気味な感じもよかった。
     もう少し映画の教養があれば、ワハハと笑えそうな箇所はあったですが、そういったワキの内容を知らなくても、ホンスジの設定が上手いので、読ませる文章でした。

     しかしこのぶっ飛んだSFで、どうやって回収していくのかとか思ったのですが、そこはウリポ作家で数学者、言語学者だなあと脱帽しました。

     最後まで戦慄する内容で面白かったです。

  • 何も知らないで読むのがいいので、具体的な感想が書けない(笑)
    一つだけ言えるのは、ある地点まで読むと「?」となって、気になって一気に読んでしまった。それくらい強烈に引き込む力のある作品です。

  • 第一部、登場人物それぞれの人生の断片が語られる部分は少々かったるかったけれど、その終盤、何が起こっているのか明らかになっってからは、もうたまらん面白い面白い。登場人物たちの語る会話、思考(実験)が興味深く、宗教批評であり、人類・歴史・文明批評・科学批評になっている。また宇宙論、存在論でもあり、メタフィクションの面も持つ。途轍もなく知的で刺激に満ちた小説だ。そして随処にユーモアも利いている。今年度ベストかもしれん(2月にして何冊ベストがでるんや)。また、この複雑な物語を、章によってさまざまな文体を駆使し、理屈として難解な箇所(理解出来なかったというレビュアーさんも多いな)も分かりやすい日本語に移した訳業にも拍手! いや! 読んで良かった!

  • ゴンクール賞(フランス)
    ベスト・スリラー2021(ニューヨークタイムス)

    前半から中盤は特に難解で、確率論や幾何学の研究者の説明はさっぱりわからないし、あまりに多いカタカナの登場人物は人物紹介に載っていない人も多く、読むのが辛かったです。
    乗客それぞれのストーリーは読みやすいのですが、他人同士なので繋がりのない物語がいくつも続いて異常な状況までが長く感じました。
    自分がもう1人増えたらどうなるのか?様々な登場人物の展開が読めるのは面白いです。
    でもやっぱり殆どの場合は困難な状況になるし、自分に置き換えて考えても自分はこの世に1人がいいです(笑)

  • 小島秀夫監督が選ぶ年間ミステリベスト12、いわゆる「ヒデミス2022」に本作がランクインしていたので手にとった。「ヒデミス」では基本的に受賞作品には順位をつけていないが、本作だけは例外で1位だとPodcastで明言していた。
    本作は群像劇であり、「異常事態」が発生するまではそれぞれの個性豊かな登場人物たちの性格や生活が綴られていく(監督はここは我慢だって言ってたけど、ここも十分面白い)。
    ジャンルを越境した膨大な情報量と著者の博識(ジャーナリスト、数学者、言語学者)に酔いしれた。
    ラストも好き。

  • 異常【アノマリー】を読み終えた!以下、ネタバレなし感想!!
    ラストまでたどり着きたくて仕方なかった小説は久しぶり。
    SF群像劇?それぞれの人物のそれぞれの人生がそもそも味わい深い。その上、ある事件、それこそ異常な事件に人々はどう向き合うのかという1本のストーリーラインもある。
    描かれる事態は確かに異常だが、その異常さゆえに、登場人物の人生の光と闇を浮き彫りにする。
    また、事件の特異性に目が行きがちだけど、文章表現の巧みさというか、パンチが効いててめちゃくちゃ好き。特に、ラスト近くのパンドラの匣、希望についてのくだりとか。
    自分の人生って、そうあるからそうなんだよ、という俺自身の確信も深められた。
    もっと早く読んでおけばよかったなあ。

  • ネタバレ厳禁のSF小説。
    殺し屋の顔を持つ”ブレイク”。売れない小説家であり翻訳では評価されるミゼル。ラゴス出身のラッパー・スリムボーイ。パイロットでありガン患者であるデイヴィッド。
    難病の妹を抱える黒人女性弁護士ジョアンナ。建築家のアンドレと、年の差のある恋愛関係にある映像作家のリュシー。アフガン帰りの父を持つ7歳のソフィアと母のエイプリル。
    一見交わらない各人の人生は、2021年3月のある日に乗り合わせたパリ・シャルルドゴール空港からニューヨークへと向かったボーイング787便において交わる。

    ミゼルは大荒れの同便にてニューヨークに着き、翻訳の賞を受賞したのち、パリに帰り、それまでと異なる文体の小説『異常』を執筆し、命を絶つ。
    2021年6月のある日にニューヨークのケネディ空港に着陸しようとする飛行機が現れる。
    プリンストン大学で教鞭をふるう確率研究者エイドリアンは"プロトコル42"が発動されたことを知る。
    徐々に”異常”の意味が明らかになり、そして世間がこの”異常”に触れあうことになる。

    ごく最近までの記憶を完全に共有する「もう一人の自分」が現れたとき,自分はどう対処し、周囲とどう折り合いをつけるか。
    家族、恋人、友人をどう”シェア”するのか。
    そして『シミュレーション仮説』に晒されたときの社会の動揺。この世界のアカデミアの世界はどうなっていくのだろう。
    一見地に足の着いたエンドを迎えながらラストはまた難しい。悪趣味な『シミュレーション』。

    ”異常”が明らかになっていく過程がとても面白い。エイドリアン教授がいかにもSF小説のキャラクター。
    緊急時に現れワチャワチャするだけのトランプ氏を模した米国大統領が笑える。
    正常とはなんなのか。"ID"の意味とは。サイコロを振れば解決するのか。
    世界観が揺さぶられるSFらしい作品で、面白かった。

  • 38%目のショック。
    文句なしに面白かった!

    著者が数学者、言語学者、作家、などなど、
    オールマイティというところも良い。
    言語学者といえばトールキンもそう。
    仕掛けがたくさんあって、色々な文学作品の引用があって。
    しばらくしたらもう一度読み返そうと思う。

  • 私が本書で感じたことは、人間は、何がおこっても、それぞれのやり方で、それに対応して生きていくしかないということ。

    本書では、重複者の発生という異常(最後まで読んでも、まったくなぜおこったのか、これからまたおこるのかも分からない)をトリガに描かれているが、結局、今の私の人生も、なぜ今こうなのかなんてまったく分からず、この分からなさをなんとかやりくりして生きているという意味で同じだなと感じた。

    本書では異常を発生させて際立させているが、登場人物におこっていることを、読者に自分の日常に寄せて考えて気づきに導く、これぞSFの醍醐味だなと思った。

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