おいしいごはんが食べられますように [Kindle]

著者 :
  • 講談社
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感想・レビュー・書評

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  • 職場にいるあざとくてか弱い女性社員の芦川をよく思っていない女性社員の押尾。押尾は仕事ができて頑張り屋であるため、芦川が優遇されるのが納得できない様子。

    そんな2人と食事を共にする男性社員の二谷。二谷は特に食べることに興味がなく、空腹になれば手軽な食事をするという生活。
    食に興味がないとキングコングの西野さんも言っていたなと本を読みながら思い出し、そのような人が信じられないが一定数いるんだろうなと思った。

    芦川さんはまさに女性に嫌われるタイプなのだが、職場では男性社員だけではなくパートのおばさんたちも芦川さんを支持しているのが違和感。他の社員が残業している中、定時で帰りその代わりにと手作りのお菓子を持ってくる芦川さんの神経を疑う。読みながら押尾さんを応援したくなるが、結局は芦屋さんのような女性に潰され負けてしまう。

    前職でハラスメントを受けていた芦屋さんだが芦屋さんが今していることはフードハラスメント。「おいしいごはんが食べられますように」というタイトルも読んだ後は芦屋さんの恐ろしい呪文のような気がしてきてゾッとした。

  • 綺麗事が大切にされるのをこんなに気持ち悪いと感じるとは想像しなかった。衝撃的。

    ざらざらしたものが心に残った凄い本。
    好きも嫌いも可愛いも気持ち悪さも内包したままで、人間関係を築く。(そんなことできる?)が、見事に描かれている。


    登場するのは
    仕事が辛くなるとすぐ"具合が悪くなる""可愛らしい"人。
    そのフォローをせざるを得ない仕事ができる人。
    フォローもするし、できない人を諦めてもいるけど付き合っている人。

    社会は今や、仕事ができずすぐに体調不良になっても許容するのが当たり前。些細な注意もハラスメント扱い。
    "弱い人"に優しい社会。みんなが安心して働けるように。
    それ自体はいいことだ。いつだれがどうなるのかわからないんだからお互い様。


    でもこのお話で語られるのは別の視点。
    "じゃあそういう人が疎かにした分の仕事は誰がするのか"。

    大抵の場合、割を食うのは"弱くない人"。

    病気にならずに働いている人だって、しんどいの我慢してたり、病気にならないように気をつけてたり、それが精神なら線引きを上手にできるよう努力して、仕事できるくらいには心身の健康を保っている。

    なのに、まるでそういった人は平気な人で、
    出来ない人のカバーをフォローをするのが当たり前で、守られるべきは弱くて、できない人。

    という社会を痛烈に皮肉りながらもその風潮はどうにもならない。

    断罪されるのが仕事ができる人の方なら、そんな社会では誰も真剣に仕事しなくなるんじゃなかろうか、というところまで想像してしまった。

    一方で、弱い立場ならその"優しさ"に救われるだろうなとも。


    そもそも人間は平等じゃないし、みんないろんな事情抱えてるもんだろうからせめて、休息くらいは割りに合わせて取れればいいのにと祈るように願ってしまった。
     

  • Audibleにて。
    職場の人間関係や食べ物を通じた葛藤が描かれていました。
    登場人物たちの複雑な感情や不満の描写が丁寧で、 読んでいるうちに考えさせられる場面がたくさんありました。 ストーリーでは二谷さん、 押尾さん 、そして芦川さんという3人の関係が中心となっています。 彼らはお互いの価値観や考え方が合わず、微妙な人間関係が築かれていました。心情が生々しく描かれ、常に不穏な空気が漂っていて緊張感を覚えます。現実の職場で起こりうる人々の相反する感情や、欲求の間での葛藤がリアルでした。 また食べ物に対する考え方の違いも重要なテーマでしょう。 さらに食べ物を通じて、 登場人物たちの個性や価値観が明らかにされています。 この作品は人間関係や、 食べ物のテーマから、 共感や考える機会を提供してくれます。
    心を揺さぶり、ストーリーから得られる気づきによって、自身の生活や人間関係に対する新しい考え方や視点などを見つけることができる作品。

  •  周囲は納得なのに自分だけが持つ違和感、自分には迷惑な親切や思いやりなど、身近に抱く負の感情が鋭く描かれていて、何とも後味の悪い気分になった。著者の他の作品も気になるけど、連続は厳しい。別ジャンルで中和しないと。

  • 2022年7月第167回芥川龍之介賞受賞作

    それぞれ、年の近い二谷、芦川、押尾の3人が登場する職場の話。

    備忘録なので、好き勝手書くと、
    感じたのは二谷は2人と関係をもてば、「おいしいごはん」が隠語となり
    ドロドロ感があるなと思った。後半の展開が際立つ気がした。

    TVの食レポでみんな侵されていて、旨いものを食べている時は
    すぐ完食する気がする。友達の寿司屋の親父が旨いか?と五月蠅かったが
    食べていたら、話せないのが伝わらず、残念。
    不味いのは残す、旨いのは完食。フレンチレストランの考えと同じ。

    世間一般に頭痛も色々あるようだが、過度な気温変化、気圧変化の時だけ
    四六時中、吐き気が酷く、眠れず、仕事にならないことがあり会社を休む。
    何もできない(芦川のお菓子を作ることは有り得ないことでイラっとした)
    TVの食レポ同様、頭痛も誤解を招くのが怖いと思った。
    頭痛が収まったときは2倍速で仕事しているけど。
    時折、吐いたものが喉に詰まって死ぬのか?と考えたこともある。

  • 何を伝えたかったのか終始わからなかった…
    食べることは生きる上で必須だけど、食べ方や食べることに関する流儀、美味しいものの感じ方は人それぞれなんだなと思いました。

  • Audible読了
    芥川賞つながりでボクが来たよ〜、だったのだが、さすがに毎度毎度ハードルが高い。読み終わってもしばらくポカンだった。
    ただ、不思議と面白い。
    そもそも、か弱い人といえば自然と守りたい気持ちになるし、でもって美味しくて温かい料理は好きだし、さらに華奢で、天然ぽい、甲斐甲斐しいとくれば、もはやカレーとチャーハンと寿司のブュッフェみたいなものでしかない(そんな不味いチェーン店もあるが)。
    そんな中央値の男にとっては、この主人公を理解しろというのが難題。なんなんだモテ男!キサマその態度は。

    とか言いつつ、共通点ゼロでもない。
    食事で言うと私は、朝食、昼食が毎日365日同じでも構わない人間だ。言い訳としては、栄養価とコスパを計算し尽くしたMY理想メシだから。気分とトレンドはあるが。ただしヘタに外圧で変えてもらいたくはない。これを周りから見たら、薄気味悪いただの頑固者だろう。
    頑固さ、というとニュアンスが違ってしまうかもしれないが、価値観と言えばいいのかな。
    カップラーメンをすすりたくて堪らない人間に、手料理=健康という価値を押し付けても、摩擦になるだけだろう。表面上はへつらってしまう人間だとなおさらに根が深い。物語終盤で支店長が語る、「丁重にお断りすればお互い傷つかないじゃん」的な発想は、同調圧力の輪の中心近くにいる人の考えじゃないのかな。
    小動物は保護しよう、LGBTは尊重しよう、離婚は、別姓は、ハラスメントは─。
    多様性という便利な言葉は、それ自体がある方向に導いているようにも見える。そこに頑固者が居てもいい場所は、そう多くはない気もするのだ。

    ── 結局、我慢する人と、できる人でこの世界は回っていく。世界。この世界。私が生きて、手の届く範囲の世界。

    これが一番刺さった。


    全く別件で、レビューを書くことを通じて、最近少しずつ考えがまとまるようになってきた。という辺りで、いっちょ芥川賞受賞のコメントなんかも参考にしてみようと思う。自分の浅はかさにひっくり返ったっていいじゃない。
    もっと深く世間とか、人間を知ることができるようなるならば、我慢とか切磋琢磨とか苦手なこともできるような気がする。

  • ずっと積読にしていて
    読んだらあっという間に終わってしまい、
    短編集なのかと思ってしまった。

    個人的に年齢は関係なく
    二谷→綾野剛
    押尾さん→小池栄子
    芦川さん→山口もえ&松本まりか のイメージで。

    二谷も押尾さんも芦川さんも
    自分の中にいて。
    心の中で皮肉を言ったり拒絶したり、
    意地悪な気持ちになったり、
    媚びて自分の思い通りにしたり、
    うん、そうだよね、と思いながら読んでいた。

    人の本当の気持ちは外見からは量れないし
    読めない。
    難しい。。

  • 全然違う話だけど『コンビニ人間』ぽいなと思った。って書いたら他の方もそう思ってたみたい。
    世間との価値観が一部違っている人から見た世界。
    本書の方がはるかに些細な違いだけど。
    そしてこちらの場合1人でなく理解者がいる。

    多かれ少なかれ人はみな世間の「普通」と異なる価値観を持っていて、
    それが自覚的かどうかや他人とコミュニケーションを取る時に支障が出る価値観かどうかや、程度の問題もある。
    本書は一般企業で普通に仕事をする上では全く支障の無い価値観だし、ある程度他人と合わせることもできるレベルなのが面白い。
    「人の多面性」と言っていい範疇だと自分は思う。

    ただそういう人が2人いて、その反対の価値観が強い人が同じ部署でしかもあまり仕事ができなかった、、、。


    ケーキを咀嚼する描写をこんなに嫌悪感たっぷりに叙述されるとちょっと笑っちゃう!
    昔、伊集院光が「魚の死体を切り刻んでそれを生のまま皿にさらした上に黒い液体に浸して、、、、」と刺身を食べる描写をふざけて言っていたのを思い出した。

    最後に「私も頭痛持ちなんです」と打ち明けるシーンは痛快!

  • 登場人物の心情をすべて理解できるようでできない消化不良感がこの作品の醍醐味!
    ホラー小説とつぶやくひとがいて笑っちゃいました。(そういう読み方もできる)

    無欲で温度がないが環境にうまく順応する男性二谷、か弱く温厚な性格で男を立ててくれる芦川、芦川とは真逆の性格ではきはきしていて仕事のできる押尾の三角関係小説。
    食べ物を通して日常の社内人間関係を描いている。

    芦川さん目線で描写がないのが不気味・・・
    仕事はできないのに、お菓子を配って社員の機嫌をとったり、二谷へ夕食作りをしたり、、
    多分これをみてイライラするOLは多いと思う。(でも芦川さんが一番賢い、現実では無視するなり意識的に視野にいれないようにしましょう)
    最後の最後に”結婚”という都合のいい言葉だけ聞き取っているところが彼女の性格・考えのすべてだと思います。
    私は打算的で戦略家な彼女が一番賢いと思うけど大嫌いなので職場にいたら、最小限の関わりにします。

    途中でパート?かだれかが「月に2回集金して芦川さんにお菓子代渡しましょう」といったときは大馬鹿だなと読みながら笑ってしまったけど、いい人なんだろうな

    この場面一番すきでした。

    結局ケーキを捨てたの誰?二谷はなぜ芦川いじめに加担したの?芦川は最後二谷の”結婚”というワードだけ聞こえたのはなぜ?
    ここら辺がモヤモヤポイントなのだと思います。

    芦川賢っ!と思いながら実は二谷もノーダメージ。
    生存戦略について学ばされました。

    読者ハラスメントなこういう本大好き

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著者プロフィール

1988年愛媛県生まれ。東京都在住。立命館大学文学部卒業。2019年「犬のかたちをしているもの」で第43回すばる文学賞を受賞しデビュー。2022年「おいしいごはんが食べられますように」で第167回芥川賞を受賞。著書に『犬のかたちをしているもの』『水たまりで息をする』『おいしいごはんが食べられますように』『いい子のあくび』『うるさいこの音の全部』がある。

「2024年 『め生える』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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