(べらぼうにネタバレしてます)ついに完結! この数年、本当にどうなるのか全く予想もつかないうちからこの作品を追いかけ続けられたのは本当に僥倖だった。
単行本派なので最終話掲載も知らずに乗り遅れるところだったが、ひょんなことから無料公開に気付いて最新刊以降を一気読み。読み終えてかみしめ、また読んで、ネットのみんなの感想も読んで、矢も盾もたまらずヤンジャンを買いに走った。何軒か売り切れていた。単行本はもちろん買うけど、この杉元の表紙(1巻の表紙と比べていい顔になった〜〜)だけでも買った価値があった。
最新刊以降は特にものすごい疾走感だった。怒濤。大きく広げられた風呂敷の端と端が衣擦れの音をさせながら急速に折りたたまれていく、その収斂の感覚。人は死ぬ。もうバッタバッタと死ぬ。大事な人ほど死ぬ。しかしそれは悲しいものではなく、必然として訪れる。皆、何かを信じ、何かに託して、何かのために死ぬ。それぞれの死に様はこれしかないものだし、多くを託されたアシリパさんは溶け出しそうになりながらも、受け止めてやり遂げる。
感動ポイントはそれはもういくつもある。アシリパさんの覚悟。その時の杉元の表情。でも結局彼女が殺したことにはならなかったこと。ヴァシリの弔い。鶴見中尉のあの目の光。あの時は干し柿の話で涙ぐんだ杉元が明るく言えるようになった台詞。生きているだけで幸せになれると感じられる場所を「故郷」と呼んだこと。房太郎を看取った白石がその夢を叶えたこと。(個人的には初期から鯉登少尉を推してたのは大当たりだったけど成長しすぎてちょっとさみしい思いもある)
生き死によりもっと大事なものがある、と伝えるのは実は難しいことだと思う。それは学校では教えられないことで、私たちの暮らしに現実感を持って食い込むには、よほどの裏打ちがいる。歴史はその裏打ちになりうるが、それだけでは足りない。下手をすると(下手とは限らないが)悲しい、切ない話になってしまう。
この最終回を読んで、たぶんほとんどの人が、「よかった」と思ったのではないか。ああよかった。杉元生きてた。生き残った人はみんな幸せになった。何より、アシリパさんと杉元が北海道で一緒に暮らしていく未来は、多くの人が心から希って、でも叶わないのではないかと半ば諦めていたものではなかったろうか(少なくとも私はそう)。作者の凄さが分かるからこそ、その物語を信じているからこそ、叶わなくてもそれを受け入れるつもりでいた。そこにもたらされた大団円エンド。ありがたすぎる。しかも安っぽくない最高の形。
話が逸れた。ゴールデンカムイはこれまでの膨大な裏打ちがあるから、あんなに人が死んだのに、悲しくない(最終章ではみんなの推しが死ぬたびにネットが阿鼻叫喚だったと思うしその気持ちは私もよく分かりますがまた違った意味で)。夢のために死んだ人は、みんな未来の礎になったことが分かる。生きている人たちの中にいることが実感として感じられる。ただ信念はそのまま引き継がれるわけではなく、ソフィアの言うように「自分で選んで」いくアシリパたちの未来。そのように人から人へ、紐のように揺らぎながらつないでいく未来は、名も無い人々の自然な生の営みを、どれだけ肯定してくれることだろう。
漫画を読むと、それがすごいものであればあるほど、しばらく生活がままならなくなるのが常だった。でもこれは、間違いなくすごいのに、私を私のままでいさせてくれた。そして世界は少し明るく姿を変えて、すべてを肯定できるような気持ちになる。全然関係ないけど私の中では雪舟えまさんの本を読んだ時とちょっと似ている。
普段なら使わないような言葉を使いながら、普段なら直してしまう文章のねじれも残したまま、このレビューを書いた。この稀有な体験を残しておきたかった。最高だった。単行本楽しみにしてます。