―― 植原 亮《遅考術 ~ じっくりトコトン考え抜くための
「10のレッスン 20220830 ダイヤモンド社》 [Kindle]
http://booklog.jp/users/awalibrary/archives/1/B0B718TCW5
「優秀なのに自分を過小評価しすぎる人」が今すぐやめるべき思考の
クセ 202209925 ダイヤモンド・オンライン
https://diamond.jp/articles/-/309887
…… 論理的な思考が苦手で、いつも「考えが浅い」と言われてしまう
……。もっとキャリアアップしたい、自分をより成長させたいと思う
ビジネスパーソンにとって、「情報を正しく認識し、答えを出すこと」
は大きな課題だ。しかし思考力を高めたくても、具体的に何から取り組
み、どう訓練すればいいのかわからない人も多いだろう。
そこで参考になるのが、《遅考術――じっくりトコトン考え抜くため
の「10のレッスン」》だ。著者は、科学哲学が専門の植原 亮教授。本
書では、意識的にゆっくり考えることを「遅考」(ちこう)と定義し、
本当に頭がいい人の思考のプロセスを解説。52の問題と対話形式で、思
考力の鍛え方を楽しく学べる名著だ。
20万部突破のベストセラー《独学大全》著者・読書 猿氏も推薦の本
書。本稿では、著者の植原教授に、「自分の努力・実力を正しく評価す
るためのコツ」をテーマにインタビューを実施。スピード重視で浅い思
考の呪縛から解き放たれ、自力で「深い思考」に到達するためのポイン
トをお届けする。(川代 紗生・取材・構成/疋田 千里・撮影)
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● 「頭の回転が速すぎること」の落とし穴
──『遅考術』を読んで、いかに自分が「バイアス」に左右されている
のか、実感しました。思い込みで短絡的に物事を結論づけたりせず、じっ
くり考えることに慣れていきたいなと思います。
植原 亮(以下、植原):そうですね、利用可能性バイアスや確証バ
イアスなど、バイアスにもさまざまな種類がありますが、これが思考の
誤りの発生源になることは多々あります。
用心深く、「遅く考える」ことができないと、人生における大きな課
題がやってきても、最初に頭に浮かんだ「思いつき」を考えたというこ
とにして、自分を無理矢理納得させる……なんてことに。
賢い人=思考が速いというイメージがありますが、よいアイデアや仮
説にたどり着くまで、状況に応じた思考の進め方で粘り強く考え続けら
れることこそ、重要なのではないかと思います。
● 私はダメな人間だ… 「利用可能性バイアス」がもたらす極端な
価値判断
──「自分に自信が持てない」という悩みも多く耳にします。「今の成
功はすべて自分の努力の結果だ」と自信満々になる人もいれば、逆に、
社会的な成功をおさめているのに、いつまでも自信が持てない人もいま
す。自分を過大評価しがちな人・過小評価しがちな人が、フラットに自
分の悩みと対峙するためには、どうすれば良いでしょうか。
植原:まず試してみてほしい攻略法は、「記憶」ではなく「記録」に
頼ること。
『遅考術』でも紹介していますが、人間には「利用可能性バイアス」と
いうものがあります。
「利用可能性バイアス」とは、記憶から呼び出すのが容易なもの(つ
まり利用可能性が高いもの)の方が、そうでないものに比べて実際に起
こる確率が高く、発生件数が大きいと考えてしまう、という思考の傾向
のこと。
たとえば、ネットを使って調べ物をするときに、検索して最初の方に
出てきたサイトに書いてあることを信用してしまうとか、よくあります
よね。
──たしかに!「トップに出てきたサイトなんだからきっと合ってるん
だろう」みたいに考えてしまいますよね。
植原:私たちは容易に手に入るものしか検討しない傾向にあります。
たとえ他の情報がまだ残っているとしても、すでに手元にあるものに
不釣り合いなまでに重きを起きたがる。
これが「利用可能性バイアス」です。
この性質が、場合によっては過大評価・過小評価につながってしまう
わけですね。
──なるほど……。記憶から呼び出すのが容易なもの、インパクトが大
きい記憶を重視して価値判断をしてしまう、ということでしょうか。
植原:そういうことになりますね。
たとえば、自分を過小評価しやすい人がなぜそうしてしまうのか、考
えてみましょうか。
自分自身について評価を下すときも「利用可能性バイアス」のせいで、
記憶に強く残っていることや、直近にあったことの影響が大きくなって
しまうんです。
最近、仕事でやらかしてしまった、失敗してしまった。なんであんな
ことしちゃったんだろう。そんなふうに、ひどく落ち込んだ経験をする
と、記憶の中に強く刻みこまれてしまいます。
さきほどの例で言えば、脳の検索システムの中で「自分 評価」と検
索したとき、トップに出てくるような状況になってしまっているわけで
す。
すると、どうなるか。直近1週間程度で起きた話でしかないのに、ま
るで人格全体がダメであるかのような錯覚に陥ってしまう。
1週間ではなく2年、3年のロングスパンで見れば、そんなミスはほん
の数回、非常に限られた出来事かもしれないのに、トップに出てくるか
ら、どうしても「私はダメな人間だ」と極端な価値判断になってしまう
わけです。
●「客観的な記録」でフラットに自己分析せよ
──他人からは全然ダメな人に見えないのに、「いやいや私なんて」と
やけに謙遜する人や、自己評価が低い人がいますが、そういうメカニズ
ムだったんですね。
植原:こうした「利用可能性バイアス」が人間には備わっているので、
思い出しやすいことを中心に評価を下してしまうのは、ごく自然なこと
なんです。
だったらどうすればいいかというと、ある程度、「客観的な記録」を
用意するしかない。
記録があれば、「なんだ、冷静に考えればそこまでひどくないじゃな
いか」と、過剰に落ち込まなくて済みますし、複数の経験を並列で眺め
ることができます。
私は実際に、手帳へは予定だけでなく、「どの仕事をいつしたか」と
いうのを書き込んでいます。
とはいえ、「記憶」がすべて悪いというわけでもありません。中には、
「あのときうまくいったから大丈夫」というように、自分を動機付けて
くれるポジティブな記憶もあるはず。
「今はうまくいってないかもしれないけど、この仕事に自分はちゃん
とコミットするんだ」と、方向付けをしてくれるような記憶はちゃんと
取っておいて、記録と記憶、どちらも大切にするバランスが必要だと思
います。
【大好評連載】
第1回 「頭の回転は速くても考えが浅い人」と「本当に頭がいい人」
の根本的な違い
第2回 「理屈っぽくて高圧的な人」の矛盾を見抜く「最強の質問」
とは?
植原 亮 Uehara, Ryou 1978‥‥ 埼玉 /
/2008 東京大学大学院総合文化研究科博士課程単位取得退学。博士
(2011 学術)。現在、関西大学総合情報学部教授。専門は科学哲学だ
が、理論的な考察だけでなく、それを応用した教育実践や著述活動にも
積極的に取り組んでいる。
── 《思考力改善ドリル 2020‥‥ 勁草書房》
── 《自然主義入門 2017‥‥ 勁草書房》
── 《実在論と知識の自然化 2013‥‥ 勁草書房》
── ・共著《生命倫理と医療倫理 第3版 2014‥‥ 金芳堂》
── ・共著《道徳の神経哲学 2012‥‥ 新曜社》
── ・共著《脳神経科学リテラシー 2010‥‥ 勁草書房》
── ・共著《脳神経倫理学の展望 2008‥‥ 勁草書房》
── クレイン, T.・共訳《心の哲学 2010‥‥ 勁草書房》
── チャーチランド, P・S・共訳《脳がつくる倫理 2013‥‥ 化学同人》
ダイヤモンド社 書籍編集局
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