農家はもっと減っていい~農業の「常識」はウソだらけ~ (光文社新書) [Kindle]

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感想・レビュー・書評

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  • 各章によって内容が異なる。
    やや主観に寄った表現も多いが、客観的に現在の日本農業の問題点を説明してくれる良著。

    本人の熱い想いにも触れられるので、また読みたくなる。
    個人で20年近く事業を続けている方。
    やはり言葉に力があるなあ。

  • 『キレイゴトぬきの農業論』の久松達央が、3冊目の本書を出した。私は、この本は農水省や農協にかなり鋭く切り付けたと感心した。不都合な農業の現実を突きつけたと言ってもいい。とても、刺激的な本であったので、ライン会議で、友人たちと「今出川方式」で読書会をした。
     農家のAさんは、「わかりやすかった。日頃思っていたことを代弁してくれた。農地の集約が困難なことを変える時代に来ている。また、農家が助けられる存在だという認識はやめてほしい」で始まった。私は、著者のいう「農家はもっと減っていい」という意見に全面的に賛成である。
     この本の要約を「『小さくて強い農業』を提唱する著者が、農家の高齢化、後継者不足、人口減少などの問題がありながら、収益なき農家はもっと減っていいという。農業は、ビジネスであり、「栽培時期、品種、鮮度」の3つが揃えば、美味しいものとなる。座組み力による身の丈にあった農業をつくり最愛戦略で乗り切る。(140字)」とまとめてみた。

    本書の指摘で優れていると思ったのは、以下の点だった。
    ① 引用されている図が優れている。農業の現状をきちんと認識している。
    「基幹的農家従事者は、136万人で平均年齢が67.8歳。65歳以上の割合は全体の7割です。2005年には、それぞれ224万人、64.2歳、57%でした」「販売農家107万戸のうち、売上500万円以下の零細農家です。零細農家層の総売上は、全農業産出額の13%しかない」
    5000万円以上売り上げている農家が、全農業産出額の40%を超えている。経営面積10ヘクタール以上の農家は2000年の26.1%から2020年には55.3%になっている。「農家の10人に8人は農業で食べているプロではありません」一方で、売上規模、3000万円以上の農家数は、増加している。
    →農水省の政策や農協は、零細農業者を支援する仕組みでしかない。零細農業者は、辞めたくてもやめられないので、やめる覚悟がいる。「産業としての農業の発展に寄与しません」という言葉に、全面的な支持をする。

    ② 農地は増えたが、耕地面積は減った。
    「農業委員会の農地の転用案件は、農業者以外の人が住むためのものばかりです」1961年の耕地面積は、609万ヘクタール。その後、公共事業で110万ヘクタールが農地が造成されているにもかかわらず、耕地面積は440万ヘクタール。差引280万ヘクタールの農地がなくなった。

    ③ 農業関連ビジネスの隆盛。
    農業が淘汰の時代であればあるほど、農業関連ビジネスのチャンスは大きくな
    る」幕張の農業展(10月12日〜14日)は、I Tやスマート農業や農業資材で溢れる。
    ④ 加工・業務用に対応する農業:フードバリューチェーンに適合する
    「現在の野菜の需要の6割は、家庭消費ではなく加工・業務用です」。大手量販店では、「品揃えよりむしろ、安定した価格で、説明なしで売れて行くものに品目が絞り込まれている」
    →大量の注文、定量、規格にあったものを供給するメガファームかメガグループ。本来は、J Aや市場が対応していたが、機能がなくなりつつある。一方で、生産過剰が生まれることになる。
    ⑤ バカにならない流通コスト
    「産地の直販体制への転換が定着した例はほとんどありません」
    ⑥ 小さくて強い農業:久松農園。美味しい野菜でお客さんに喜んでもらう。
    6ヘクタールで、ロジ野菜、年間70〜100品種で、売上5000万円。
    有機栽培であるが、有機栽培はあくまでも手段である。わからないことがあるので楽しい。その戦略は、「最愛戦略」。「拡大と成長は違う」「大きく仕掛けるか、小さく特化するか」「目利きの腕は、商品に合うお客さんを探す技術」(この言葉が、新鮮だった)「小さい農家は差別化してはいけない」「私にとってニンジンは、土と渾然一体となった香味野菜です」
    ⑦ Howではなく、Whyの領域に踏み込む。

    ⑧ 重要なのは、「現場、近くの手本、習熟する時間」目ならい、手ならい、指ならい。農業のモジュール化と百姓仕事。「職人とは、ものを作る手立てを考え、そのための道具を工夫する人」。好奇心・持続性・楽観性・冒険心の5つの行動指針。計画的偶発性理論をベースにする。
    「農業人の目指すべき人物像のキーワードは自立と自走です」2
    「自分のプロジェクトをタスクに要素分析し、その遂行に必要な人や組織とつながる力。私は、これを『座組み力』と呼ぶ。→この座組み力がもう一つよくわからないなぁ。 
    「自分を大切にしない人」「未来への自己投資ができない人」「身の丈に合わせる」
    ⑨ 自立した個人の緩やかなネットワーク
    適正規模を決めて、維持すること。そのためには、経営の自由を他者に奪われないこと。最も有効な手段は、乗り切ることである。
     ふーむ。この指摘は、素晴らしい。日本の未来を作るネクスト・ファーマーである。

     このことを論議してみると、「効率化すれば商品の画一化が進むため、逆に小規模農家はニッチを攻めよ。同時に、自分の商品や仕事に共感するファンを増やしてブランド化せよ」ということであり、オーソドックスなマケーティング戦略(ランチェスター的なやつ)であることが窺われる。常識的論理を切り口にすることで、農業が奇形的産業であることを際立たせている。そして、優良なアドバイスがなされている。「小さい農家に必要なのは、その人が好きとか、味が美味しいとか、箱が可愛いとかいう小さなフックをたくさんつくって、結果的に他と比較されにくい良さを醸成してファンを獲得することです。大切なのは、拡大と成長は別だということ。規模を大きくしなくても、強さを磨いていくことは可能です」

     著者は、有機農法はあくまでも手段という。難しいからおもしろいと言っている。確かにボタンの掛け間違いや農水省が指導して補助金を出して、官製有機農業をすべきではないと私は思う。討論に参加したBさんは、有機農業でなくても、オリンピックの選手村に提供できるGAP認証でもいいのではないかとしてくる。その方が、ハードルは低くなる。
     ただ、著者は、有機農法について、土壌分析、土づくりなどは一切触れていない。また問題とされている硝酸態窒素についても触れない。確かに冬場は、窒素の吸収が抑えられるが、夏場は難しい。また、100種近くの品種を栽培する場合に、硝酸態窒素が日本では問題にされていないが、欧米基準をクリヤーできるか難しい問題もある。
     確かに、著者のやっている都市を相手にした農業は、適しているかもしれないが、地方での限界集落などの農業は、地域の振興という側面もあり、どう地場産業を組み立てていくのかが課題となるだろう。今後地方の農業を、どうプロデュースするのかは、重要課題だ。
    とにかく、本書は刺激的な指摘と提案に満ちており、現在の日本農業の現状をきちんとつかむことができる好著である。農業に関心のある人には、是非とも読んでいただきたい。

  • これはすごく面白い。

    ・日本の農業について、構造的な問題を、情緒に偏ることなく史実やデータも使って分析
    ・長らくの実践者として、農業ーというか、職人かつ経営者としての仕事観・人生観

    農業分野を語りながら、普遍的な説明になっているため、多くの人に入りやすいんではないかと思う。

    農業を特別視せず、ひとつの産業と捉えてバリューチェーンの変化や経営上の課題を規模・経営形態を切り分けながら分析している本は、他にあまり見つからない。

  • ●農業に関する古い常識に反論し、これからの農業はどうあるべきかを説いた本。
    20年超の経験の裏付け+客観的ファクトに基づく考察が多く示唆に富む1冊。

    ●大規模農業法人への集約 / ニッチな個人農園(小さくて強い農業)しか生き残れないし生き残る必要無し。
    ※農家の7割は売上500万以下販売なしが1割。1割弱1000万円以上上位層が販売の8割弱を占める。(=零細小規模農家が中途半端に農業を行うことで値崩れ、農地集約を阻害)。手厚い補助金を受けても失敗する農外からの新規就農者たち。

    ●現在の野菜の需要の6割は、家庭消費ではなく加工・業務用。
    大手量販店では、品揃えよりむしろ、安定した価格で、説明なしで売れて行くものに品目が絞り込まれている。→大量の注文、定量、規格にあったものを供給するメガファームかメガグループ。規定外のフードロス削減を叫ぶ的外れな運動。そもそも適切な管理、スケーラブルに運用すれば規格外品は出ない。我流/なぁなぁでやってる零細農家の方が問題。

    ●「小さくて強い農業」
    筆者が運営する久松農園。美味しい野菜でお客さんに喜んでもらう。6ヘクタールで、ロジ野菜、年間70〜100品種で、売上5000万円。旬を逃さず定期購入で”半ば強制的に”消費者に野菜を味わってもらう。

    ●目利き=最高の1品だけを選別することではなく、需要側の要求水準/用途に合わせて適切にマッチングをすること。日常使いをするためのスーパーの大根と料亭の大根。

  • 慶應大卒帝人勤務後農業就業した久松達央さん著。農家の7割は売上500万以下販売なしが1割。1割弱1000万円以上上位層が販売の8割弱を占める。新規就労者75%農家の後継者その半数は65才以上。手厚い補助金を受けても失敗する農外からの新規就農者たち。農業に未来はあるのか

  • 農業、農家についてすごく詳しく書かれている。
    だけど説明文で大分読むのは重い。農家の感性、農業の実態とかを改めて知りたいと思った時に時間をかけて読む。

    お野菜の鮮度はすぐに落ちていってしまうから、単純に早く食べようと思った。

  • 農業に関する古い常識に反論し、これからの農業はどうあるべきかを説いた本。

    実際に「小さくて強い農業」を実践する著者が、現代農業が抱える本当の問題を示し、これからの農業への提言や農業に携わろうとする人々へのアドバイスが書かれています。

    農業問題に関して私たちは「古い常識」に囚われています。本書を通して実際の現場を知ることで、日本農業への認識がアップデートできます。

    本書は農業だけでなく、他のビジネスのヒントも書かれていると思います。

  • 好き。Audibleで聞いて、本も購入。

    農業は資本集約的におこなうレベルまで、資本のレベル、必要な技術水準が形式知化されてきている。だから、大規模農業法人への集約と、ニッチな個人農園しか生き残れない(生き残れなくていい)。
    農家は支援する対象であるという考え方は、能力や努力が足りない農家や、他で儲けている兼業農家を利しているのみ。

  • アグリビジネスに興味があり拝読。農業を多角的に分析し持論を展開。内容の濃い一冊。農福連携しかり、今後の農業改革・進化に期待。早速、平松農園の野菜セットを注文し堪能済み。

  • 煽るようなタイトルですが、内容は至ってまともです。
    デマ屋の東大教授・元農相などが読んだら破り捨てそう。
    企業もそうだが日本ではゾンビには退場頂かいないとダメですね。
    https://seisenudoku.seesaa.net/article/498994418.html

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著者プロフィール

株式会社久松農園 代表取締役。1970年茨城県生まれ。1994年慶応義塾大学経済学部卒業後、帝人株式会社入社。工業用繊維の輸出営業に従事。1998年農業研修を経て、独立就農。現在は7名のスタッフと共に、年間50品目以上の旬の有機野菜を栽培し、契約消費者と都内の飲食店に直接販売。ソーシャル時代の新しい有機農業を展開している。自治体や小売店と連携し、補助金に頼らないで生き残れる小規模独立型の農業者の育成にも力を入れる。著書に『キレイゴトぬきの農業論』(新潮新書)がある。

「2014年 『小さくて強い農業をつくる』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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