- Amazon.co.jp ・雑誌 (36ページ)
感想・レビュー・書評
-
『台風の科学』は、2012年発行なので、もっと最新の台風の科学について書いてあるのはないかを探して、見つけた。横浜国立大学先端科学高等研究台風科学研究センターの研究者たちの論文である。
坪木和久は、台風は、古来「野分」と呼ばれていた。吉田兼好は『徒然草』で「野分の朝こそおかしけれ」と言ったという。台風は風水害の最大要因という。損害保険の支払いでは、2022年3月現在で上位5位までは全て台風という。台風の観測は、コンピュータシミュレーションを用いた台風の研究が進んでいる。海洋研究開発機構の地球シミュレーター、理化学研究所の京、富岳をつかって研究されているという。地球温暖化に伴って北太平洋西部では、発生数は減るが強度は大きくなると予測されている。
佐藤正樹は、台風の年間積算強度が増加の傾向にあると指摘。海面温度の上昇によって非常に強い熱帯低気圧の割合が増加するという。
山田広幸は、1977年気象衛星「ひまわり」を使って、雲の形を見ながら、ドボラック法で、中心気圧などを推定していた。米軍の航空機を使って、台風の中心に行って測定したのは1987年で、それ以降はなされなくなった。それで高精度の観測機器を搭載した人工衛星のデータによって台風の勢力を推定している。2016年より、航空機観測の研究が始まって、より精度を高める目的がある。ガルフストリームで、ドロップゾンデを降下させて、測定の正確さを高めた。眼の中と壁雲の外側の気温差を調べ、それを中心気圧と比較することで、中心気圧が低い台風ほど、気温差が大きいことがわかった。この航空機観測プロジェクトは、2025年まで続くとか。
森信人は、台風による風水害の実態(風害、水害、沿岸災害)と災害リスクを減らす取り組みを研究している。どう災害を減らすかの研究は大切だ。
筆保弘徳は、「タイフーンショット計画」について説明する。一つは、台風の勢力を弱める手法の研究。1969年 アメリカ海洋大気庁が、ハリケーンの中心に形成される壁雲に、航空機からヨウ化銀を散布した。そのことで、ハリケーンの風速が30%減少したと報告があった。
日本では、「チームタイフーンショット」を計画して、台風の中心に氷を散布する方法で、勢力が軽減される研究をおこなっている。そのシミュレーションで、建物被害の30%が軽減されるとしている。
また、台風エネルギーを利用する台風発電も研究し、「台風発電船」を作って、電力を起こそうとしている。これは、面白そうだ。しかし、台風で沈没しないようにするのも技術がいる。
全体で、短い論文であまり詳しくないが、台風科学の進む方向が見えてきている。
自然の脅威に、脅かされることだけでなく、台風のエネルギーをどう使うかも重要な意味を持っている。詳細をみるコメント0件をすべて表示