ゼロからの『資本論』 (NHK出版新書) [Kindle]

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感想・レビュー・書評

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  • ベストセラーとなった「人新世の資本論」に続いて手に取ってみた。

    難しいテーマを、分かりやすく。

    語りかけるような穏やかな話し方でありながら、鋭い論考が繰り広げられる。

    「あなたが、この入門書を手に取った理由はなんでしょうか。
     毎日が楽しくてしょうがない人が、この本を積極的に手に取る確率は低いはず。
     少なくとも漠然と、今の仕事や社会のあり方に生きづらさや虚無感を覚えたり、気候変動や円安のニュースを前にして、未来に不安を感じたりしている方が多いのではないでしょうか」

    (「はじめに『資本論』と赤いインク」より)

    「世界のいたるところで、これまでのやり方からの大胆な転換を求める声が高まっています」

    「現状への不満や未来への恐怖が排外主義などの反動的欲望へと転化しないようにするためには、別のより魅力的な選択肢が存在することを、説得力ある形で示す必要があります。けれどもそれは容易なことではありません」

    「だから、古典は面白い。今でも私たち自身の問題意識を映し出す鏡として、『資本論』は何度も違った視点から読み直す価値があるのです」

    (「あとがき 革命の時代に」より)

    誰もが、このままでいいなんて思っていない。
    でも、現実の中で生きていくしかない。

    知恵は現場にあり。

    地球のいたるところで、その萌芽は芽生えつつある。

    <本書から>
    ・「商品」に振り回される私たち
    ・なぜ過労死はなくならないのか
    ・イノベーションが「クソどうでもいい仕事」を生む
    ・緑の資本主義というおとぎ話
    ・グッバイ・レーニン!
    ・コミュニズムが不可能だなんて誰が言った?

  • 1年ほど前に、「人新世の資本論」を途中で挫折してしまい、こちらに挑戦することに。内容も分かりやすく、あらためて「人新世」という言葉の意味が腹落ちしした。人間の経済活動が環境に影響を及ぼすようになってしまった現代。
    これまで、あまり意識したことがなかった搾取という言葉。資本家が労働力を搾取し、すべてを商品化する資本主義。
    社会の「富」(自然も含め)が「商品」とされるのではなく、みんなで「富」をシェアして、自治管理していく平等で持続可能な定常型経済社会を目指していくべきと著者は記している。各人はその能力に応じて(人々に与え)、必要に応じて(人々から受け取る)という言葉が胸に響くが、具体的に何を実行していけばいいのかと考えると、途方に暮れる。人新世の「資本論」を読めば、もう少し自分のやるべきことが見えてくるのだろうか。
    「きみのお金は誰のため」「ザイム真理教」「13歳からの地政学」「家事か地獄か」と同時期に読んだことも良かった。経済と世界、家計と家事を考えた。自分のお金も社会のお金も、考え方は同じ。どのような生き方をし、その結果どういう暮らしをしたいのかということを、見直す時期にきている。見直すではなく、変更せざるを得ない。環境問題を考えると、もう間に合わないかもしれないと絶望的な気持ちにもなるが、人類の叡智を信じ、そして自分が当事者であるという意識で臨むしかない。

  • マルクスの資本論を、現代社会に照らし合わせて解説する本。
    資本主義を批判する一方、ならば社会主義が理想だという単純な結論にもならず、そちらの問題点も指摘する。
    かなり分かりやすく読みやすい。

    ・資本主義は、それ自体が膨張する構造を持っている
     ・他者より安くて良い商品を作らないと、シェアを奪われてしまうかもしれない。そうならないためには利益を上げ続けるしかない。
    ・資本主義の下では、労働者には部分作業しか回されない。その方がコントロールしやすく、交換もしやすいため。
     ・しかし部分作業しか出来ない労働者は、資本主義の外では働けなくなる。なので不利な条件を強いられても、そこで働くしかなくなる。
     ・そして何より、決定権が無い労働は苦痛である。
    ・この状況を脱するためには、賃金を上げることよりも、まずは労働時間を短くすることを目指すべきだ
     ・交渉のためには、勉強したり話し合ったりする必要がある。余暇がなければ、その時間すら取れない。
    ・資本主義が進むと、全てを「コスパ」で判断するようになってしまう
     ・しかし人生のほとんどは、資産形成とは関係ない。それらを切り捨てて本当にいいのか?
     ・コミュニケーション、文化、政治、結婚、友人…

    ・ならば社会主義はというと、国営であるという点以外、資本主義とほとんど変わらない
     ・生産手段の意思決定を行うのが、資本家か官僚かという違いだけだ
    ・そしてその過程を通じて、官僚は特権階級になり、独裁を生む
     ・「国有=共有」ではない
    ・結局、余剰価値を搾取する構造をどうにかしない限り、問題は解決しないのである

    などなど。

    全てを鵜呑みにするわけには行かないが、とても示唆に富んでいて学びが大きい。

    今、各所で「資本主義の限界」が囁かれている。
    ならばその先はどうすべきか?
    それを考える上で、きっと助けになるだろう。

  • こういう話が苦手な僕にもよう分かった。知人たちがマルクスの勉強会を行っていると聞いた時、なんで今更マルクスって思っていたけど、そうではなかったんや。でも、どうやってこの考えを広めるんやろう。そうこうしている内に格差はさらに広がり1984の世界になっていくんやろうか。

  • サクサク読めて面白かった。

    行き過ぎた資本主義をいさめ、コミュニズムの良さをわかりやすく説明してくれている。

    以下、印象的だったこと。
    コモン、とは資源。資本主義の仕組みの中で、すべてのものは商品化されてしまった。水でさえも。
    生きるために必要なものを手に入れるためには稼がなければならない。
    奴隷と違って、労働者は自分の時間を誰、どの会社に渡すかを自由意志で決められる。自分で意思決定をしている分、奴隷よりもロイヤリティが高く死ぬまで働くようなこともある。
    行き過ぎた資本主義では、お金を増やすことだけが目的になってしまっている。満足することがない。
    ゴミを売るためにブルシットジョブにあるようなマーケティングなどの仕事が増えている。
    社会主義国家といっても、国が資本家になっただけのもので労働者から見れば国家資本主義。
    脱資本主義は社会主義国家を目指すことでも福祉国家を目指すことでもない。
    アソシエーションというコミュニティがより強まるべき。アソシエーションを通じて横のつながりを強くすることが大事。
    労働時間の削減がアソシエーションの増加につながる。
    各人はその能力に応じて、各人にはその必要に応じて!

  • 素晴らしい本だとは思うのですが、ちょっと初期の本に比べて背負ってるものが大きいような印象を受けました。個人的には筆者のもっと自由に書いた本が読みたかったです。
    ウーバーの本の頃から言われていることへの反論をベースにしている気はしているのですが、かつて実現していないものからの反論なのでどうしても理論上になってしまうため、地に足がつかない印象を持ってしまいます。概して人間や実社会の解像度が低く見えてしまいます。
    また、マルクスガブリエル的なSNS論、大量生産大量消費、グローバルサウス、フェミニズム、福祉国家、土壌汚染まで…リベラル系で流行りの論点が網羅的に盛られており、これも反論を意識してるようにも見えてしまいました。
    コミュニティ、コモンなどどの規模で行うのか、国全体なのか一部で運用するにしてもどの範囲で行うかがより興味深いと思うのでお話聞いてみたいです。結局これまで実現していないことは重要視すべきと個人的には思っていて、脱成長コミュニティがこれまでの共産主義とは違っていて、どんな社会でどんなメリットがあるかの話も良いのですが、それを扱いうる人間がどのような人で、そのような人間になれるのか?が個人的には大事なのではと思いました。どんな世界でも利権保持の動きが出ることや権力が偏ることはどうしても避けられないと思うのですが、この辺はどちらかというと宗教的な話に近くも感じました。

  • マルクスに偏見があった。
    咀嚼し切れてはいないけれども資本主義に代わる可能性がない今、読んでおくべき書籍と思える。

    自然・労働を含めた富を商品に囲い込む資本主義は際限なく資本を拡大させる。それに伴い余剰は廃棄となり地球を毀損していく。
    コスパを徹底したところで人生の豊かさは得られない。

    経済的成長を脱していくこと、それは豊かさを失うこととイコールではない、アソシエーションと表現されるように連帯・紐帯による贈与経済とも言える助け合いが求められる。

    超えるべき課題や整理はあるものの興味深いと思えた。

  • 本書では、マルクスの考えをベースに、コモンやアソシエーションをキーとした、資本主義や新自由主義の先の可能性や期待について述べられている。

    やや、現状分析(現在の社会の課題)について、恣意的、強引なところは感じた。とはいえ、課題は確かにあり資本主義の次の世界を構想するという意図や意義は十分理解できる。

    いっぽうで、「自然の一部」としての「人間」を考えたとき、本書で称揚される、格差の解決や「平等や公平の実現」が、むしろ「歪」な状態ではないかという、私の直感/疑念はぬぐい切れず、どうしても本書の内容を素直には受け取れない自分がいる。

    めざしたい(「べき」とはあえて言わず)社会とはなんなのか。
    直感的には、WELLBEINGを、より多くの人が得られる社会なようにも思うが、これが功利主義的なものとのどう違うか自分自身理解を整理できない。
    また、トリクルダウン理論が眉唾だというのは、その通りだと思う一方、公正や公平が答えだとはどうしても、すっきりとは理解できない。

    社会のWELBEINGを最大化するには、各人が身体性を受け入れつつアイロニストを自覚し、自然のままを受け入れるということではないかと思うと、どうしても、公正/公平が、人間の身体性を基盤に考えると歪に感じられるのが自分なりに消化できないのかなと思う。

  • 《アメリカが自国で余っている小麦や脱脂粉乳の販路として、占領下にあった日本の給食に目をつけたのです》
    どこかのデマ屋と同じことを言っている。

    参考文献が無いので確認できない怪しい記述が多数ある。
    https://seisenudoku.seesaa.net/article/499904196.html

  •     -2023.06.12読了

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著者プロフィール

1987年生まれ。東京大学大学院総合文化研究科准教授。ベルリン・フンボルト大学哲学科博士課程修了。博士(哲学)。専門は経済思想、社会思想。Karl Marxʼs Ecosocialism:Capital, Nature, and the Unfinished Critique of Political Economy (邦訳『大洪水の前に』)によって権威ある「ドイッチャー記念賞」を日本人初歴代最年少で受賞。著書に『人新世の「資本論」 』(集英社新書)などがある。

「2022年 『撤退論 歴史のパラダイム転換にむけて』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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