- Amazon.co.jp ・電子書籍 (93ページ)
感想・レビュー・書評
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まず現実世界。語り手の16歳の「私」、そして彼女の父親。二人は別々に暮らしている。「私」は碧くんというアプリの開発者とマンションに暮らし、そこから学校に通っている。碧くんには紗季さんというアーティストの恋人がいたらしい。いまいち状況がつかめない。
一方、本書では「私」がプレイする「浮遊」というゲームの内容が描写される。彼女が操作している少女は記憶がおぼつかない。なぜか行き先々でゾンビみたいな亡霊が襲いかかってくる。目的のないゲーム。
現実世界。そしてゲームの世界。どちらにも明確な目的がない。ただ漫然と生き、漫然とゲームは展開する。
いちおう、そのゲームには終わりがある。少女がある記憶を「思い出す」というかたちで。それは決して幸せな結末ではないが、しかし結末があるだけましな気がする。
「私」の生活はどちらかといえば何不自由ないものだ。しかし「私」はどこか虚無的だ。だから彼女がゲームをプレイし終えた時、それでも続いていく彼女の人生を思うと、痛みに似た感覚さえ走る。
脈絡もないことだが、碧くんなる人物と暮らす「私」は今、どちらかといえば幸せそうなのだが、ひょっとしてなにかたいへんな状況にあるのではないか、そんな気さえしてきて最後にはぞっとさせられた。
たんたんと語りは進むが、著者の、真顔のちょっととぼけた語り口は健在。やはり笑える。とくに絵馬に書かれた願いの列挙に笑った。リアルすぎた。ほんとにどっかの神社に実在するのではないか。あれが全部著者の思いつきだったらすごい。詳細をみるコメント0件をすべて表示 -
最後まで読んだ、よくわからない。現実とゲーム。なんか漂っているぐらいしか。
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面白い。遠野作品には、自己管理が徹底され、裕福で、かつ感じが良い、要するにスマートな人物が必ず登場する。
スマートなはずの恋愛が滑稽に狂っていくのが「破局」、スマートな自己管理の徹底がディストピアの域まで達したのが「教育」であった。
今回の作品は、注文すれば荷物が運ばれ、代行業者が料理を作り、父親とはメールだけでつながり(しかも父親の方がすごく気を遣っている)、裕福なパパ(交際相手)のタワマンに住み、移動はタクシーで、価値観の違う人物同士の出会いや対立はない。前作まで頻出したセックス要素もない。
交際相手の元彼女は登場しないままだが、彼女が置いていったというマネキンだけが妙な存在感を残している。ホラーゲームの中でだけ人々がゲームオーバーを繰り返しながらも懸命に試行錯誤している。父親からのメールは無視されがちで、友達すら登場しないまま誰が見ているかも不明なSNSに320度パノラマの夜景の写真があげられる。
父親はパパ活をしている娘に正面から向き合おうとせず、飼い猫が肥満になっても餌を与え続ける。娘は無視されたことにならないように母親に話しかけることをやめる。交際相手は誕生日に金を使って高級ホテルを手配してくれるが、パソコンと向き合っている。
生活感、泥臭さが徹底的に除去された無味無臭のスマートな世界は、ホラーと言いたくなるが、ホラーいうよりは、とにかく虚しい。「浮遊」というタイトルは、そんなスマートな世界の中の人間の存在の軽さのことのようだ。