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感想・レビュー・書評
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自国の利益を冷静に見つめ、アメリカとも中国ともロシアとも、完全に敵対することなく常にバランスを取り続けるインド。「われわれにとって一見、都合の良いパートナーに思えて、じつは非常に厄介な国」インド。「インドほど食えない国はない」。ただ、「インドという国とは、いくら嫌でも、厄介でも、やはり関わらざるをえない」。ではどう付き合っていけばいいのか。
著者は、「われわれにとってまず必要なのは、「どちらか」を選択せず、「どちらにも」関与するという、いまのインドの姿を受け入れるということになる。「われわれの側につくか奴らの側につくか」を迫らないということだ」という。
ビジネスライクに、しかも焦らず粘り強くじっくり、ということなんだろうな。詳細をみるコメント0件をすべて表示 -
インドについてはガンディーの国程度のイメージしかなく、それほど関心も持たずに来たけれど、最近は名前を聞くことが多くなったので、少し気になって読んでみた。
一筋縄ではいかない国だとわかったものの、やはり人権規範は守ってもらわないといけない。
インドは自由や民主主義の信奉者であり、中国への脅威認識も日本と共通している。若年層の多い市場にはビジネスの点で伸びしろがあり、成長率は中国に勝っている。チャイナリスクを考えれば、これから投資すべきはインドである、というのがインドへの投資を呼びかける際の合言葉である。
しかし、インドという国は、ほんとうに日本と価値や利益を共有しているのだろうか?
インドはアジアの大半が経験したようなクーデター、軍事政権、開発独裁とは全く無縁だった。1947年の独立以来、複数政党がマニフェストを掲げて競い合う選挙が定期的に実施され、政権が形成されてきた。手続きの面から見る限りでは、インドはまごうことなく「世界最大の民主主義国家」である。
しかしその内実を見ると、理不尽な差別や暴力が根強く残り、宗教的マイノリティに対する迫害も激しく、さらには野党指導者の拘束やインターネット規制なども行われており、とてもではないが民主主義国家とは思えないのが実情だ。
「選挙という市民の政治参加は、いったいなんのためなのか?それはひとびとの人権、暮らしと命を守るためではなかったのか?民主主義国というには、あまりにかけ離れた現実が、この国にはある。」p.7
それでも独立以来、「世界最大の民主主義国」として、一貫して、公正な選挙による市民の政治参加が行われてきた国であることは紛れもない事実だ。そうした看板と歴史を認めたうえで、今後もその看板と歴史に恥じない行動をともにとっていこうと呼びかけ、ビジネスと人権が不可分であることを伝え続ける必要がある。 -
【インドという国は、「どちらか」を選ぼうとしない】(文中より引用)
日本では対中国を念頭に、外交的な協力対象として名前が挙がることも多くなったインド。大国の知られざるしたたかな一面をわかりやすく解説した一冊です。著者は、防衛大学校で教授職を務める伊藤融。
専門家に向けて書かれている本ではないため、何ら特別な知識を持っていない人もインドの対外政策についてさくさくと学ぶことができます。一見するとわかりづらいインド外交の軸をいくつか紹介しており、本書から奥深いインドの世界に飛び込んでみるのも一興かもしれません。
いつか行ってみたい国の一つ☆5つ -
以下、メモ
・人口世界一14億超のインド、しかも人口ピラミッドは高齢化が進む中国と違ってピラミッド型。18歳未満が4億人もいる。
・GDPは世界7位(2019年)だが、2026年には日本を抜いて3位になると言われている。
・どの国とも同盟関係を結ばず、戦略的パートナーシップにとどめている。(ただし、モディ首相になってからは非同盟国会議に出席しておらず、「非同盟」について発言しなくなった)
・インド人は同じジャーティー(職業、カースト)の中では平等という考えがあり、職場内では上司、部下なく意見をぶつけ合う。
著者曰くインドは第二次大戦後のアジアにおいて一党独裁や軍事政権を経験したことのない稀有な国。ガンジー家&ネルー家が支配していた印象なのだが民主主義は守られていたということ?民主主義を大切にした分、強引な政策がとれず他国に比べて発展が遅れたという考え方もあるらしい。別の研究者の言葉を借りると、インドでは民主主義を生活を改善する「手段」として考えるより、それ自体を「目的」としてとらえる傾向があり、選挙などの制度がしっかりしていれば、自由や平等が達成されたかどうかは問題にならない・・。プラグマティックという言葉が何回も出てきたが、理念を語るより実利を見極める。ウクライナ侵攻で欧米が感情的にゼレンスキーを擁護した時、インドは空気をまったく読まず、ロシアを非難する国連安保理決議に棄権票を投じた。インドはいつもどちらにもつかないらしい。一方、G20では停戦と外交での解決を呼び掛けた。確かに、感情的になりすぎて武器支援をしている欧米と、理念がないように見えて実は冷静なインド、どちらが良い未来を実現するかと言ったらインドなのではないか。
モディ首相は今、ガンジー以来のセキュラリズム(政教分離)に反し、ヒンズー教以外の国民を弾圧したり、報道に圧力をかけている。中国(国境を侵され、死者が出たことがあるが最大の貿易相手国。ただし輸入超過)やパキスタン(テロリストの攻撃をしょっちゅう受けている)を強く警戒し、モディ政権になってからテロの報復としてインドがパキスタン領土を空爆したり、軍備を増強している。中国はインドの大国化を防ごうとしているのか原子力供給国グループ(NSG)にインドが加盟しようとしたとき、「NPT(核拡散防止条約)未加盟の国のNSG加盟はありえない」と反対した。しかし、インドにとって、西側先進国との連携だけではこれから成長するための有利な通商・金融環境を作れず、環境問題などでも利害が一致しない。中国はこの面では期待できるパートナーとなる。ただ、中国が支援したスリランカのハンバントタ港は借金のカタに取り上げられ、債務の罠への警戒ができてしまった。
ガンジーのイメージが強いと「道義を重んじる国」だと思ってしまうが、実は古代から実利重視の文化。マウリヤ朝の宰相、カウティリヤによる「アルタシャーストラ(実利論)は、統治者が実利を実現する重要性を説く。この古典は、現代の政治家、実務家も多く言及する。
ジャイシャンカル外相の著書より
ー各国はイシューごとに関係を構築していかなくてはならなくなり、そうした状況下では自国の進む道が行って井田はなくなるという事態がよくおこるだろう。多くの国と利益が重なることはあるだろうが、どの国とも一致することはないだろう。インドの外交は可能な限り多くの方面と接触し、得られる利益を最大化していくこと。
欧米の価値観が普遍性を持つものだと説教してはいけないが、価値観をめぐる問題に触れない日本の態度もよくない。特にビジネスにおいてはESG(環境・社会・ガバナンス)の重要性は求められてしかるべき。パートナーとしてこの理念に引き戻す努力をしなければ、リスク国として企業進出ができない。