敵対的買収とアクティビスト (岩波新書) [Kindle]

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  • 世界各地の敵対的買収の実例とそれに対抗する買収防衛策について、一般向けに解説した本。多く事例が紹介されていることにより、ケースにより異なる対応策を知ることができた。今となっては、そんなこともあったなという事案がいくつも挙げられていた。

  • アクティビストの活動の活発化、敵対的買収の増加に伴った第一人者の弁護士による整理。欧米の事例と日本の比較も掲載し、種類株のなさなどの必ずしも欧米がフリーハンドでアクティビストの活動を許しているわけではなく、日本はむしろ未整備な状況にあるとしている。

  • 敵対的買収に携わった経験を数多く持つ弁護士による、敵対的買収に関する本。敵対的買収や買収防衛策について、実例を挙げながらわかりやすく説明している。法律の規制を含め日米欧の比較もされており、体系的に纏められている。勉強になった。

    「敵対的買収(Hostile Takeover)」とは「敵対的企業買収」の略語であって、対象(標的)となる会社を、その同意なく買収することをいう。その反対に、対象会社をその同意を得て買収することは「友好的買収」と呼ばれる」p2
    「「会社の同意なく」というのは、具体的にはいったい「誰の」同意がないことをいうのかが問題となる。その候補としては、論理的には、社長、株主、従業員なども考えられなくはないが、一般的には、対象会社の「取締役会の」同意なく、その会社を買収することを、「敵対的買収」であるとか「同意なき買収」などと呼んでいる」p3
    「会社の所有者は株主であると考えられているにもかかわらず、敵対的買収か否かは取締役会の判断によるとされており、このような「ねじれ」が生じている点こそが、敵対的買収をめぐるほとんどの法的問題の根源となっているといっても過言ではない」p4
    「敵対的買収が広く行われるようになれば、経営能力がない経営者は「会社の経営支配権をめぐる市場」において徐々に淘汰されていって、そのような市場が効率的である限り、最終的には経営能力に乏しい経営者は全て淘汰され、すべての会社が効率的に経営されるようになる。従って、社会全体の厚生は最大化されることになり、ひいては資源の配分も最適化されることになる、というのが、効率的市場仮説のエッセンスである。「会社の経営支配権をめぐる市場」の効率性を信奉する論者からは、このような考え方に基づいて、敵対的買収には企業経営を効率化し、社会全体の厚生を増大させる効用があり、そうであるが故に、敵対的買収をもっと促進すべきである、ということが唱えられるわけである」p25
    「敵対的買収に対して脆弱性を有する会社として真っ先に思い浮かぶのは、株価が「割安」な会社である。そして、株価が「割安」であるか否かを判別する最もわかりやすい指標が、PBRが1倍を割り込んでいるかどうかである」p102
    「敵対的買収に対して脆弱性を有する会社の第二の類型は、借入れ余力が非常に大きい会社である。というのも、無借金経営の会社など、借入余力が非常に大きい会社については、LBO(レバレッジド・バイアウト)が行いやすいからである。LBOは、手許資金それほどない買収者が、対象会社の資産を引当てとして行う多額の借入れを梃子(レバレッジ)として実行する買収の手法である」p104
    「フジテレビはニッポン放送と文化放送を主体として、東宝、松竹、大映などの映画会社が共同で出資して設立した会社であるため、長らくニッポン放送が筆頭株主である構造が続いていた。しかし、ラジオのメディアとしての存在感の大幅な低下とテレビのメディアとしての地位の大幅な上昇に伴って、ニッポン放送が保有するフジテレビ株式の時価総額がニッポン放送自体の株式時価総額を上回る、いわゆる「親子逆転」の状態が続いていた。その結果、2003年当時、株式時価総額約4600億円のフジテレビの株式の約34%を保有するニッポン放送の株式時価総額は、わずか約750億円に過ぎなかった。つまり、単純計算ではあるが、約375億円でニッポン放送株式の過半を買い占めれば、時価約1300億円相当のフジテレビ株式を保有するニッポン放送の支配権を取得でき、しかも、実質的にフジテレビの株式の1/3を掌握して、その経営に大きな影響力を及ぼすことができるという、極めて歪な状況にあった。このような状況に着目して、村上ファンドは2003年からニッポン放送の株式を市場で20%弱まで買い進め、ニッポン放送とフジテレビ両者による共同持株会社の設立を掲げて、2004年のニッポン放送の定時株主総会で村上世彰氏らの社外取締役への選任等を株主提案した」p106
    「(第4の類型:コングロマリット・ディスカウント)成熟事業を営んでいて成長力があまり高くないと考えられるような会社が、傘下に非常に成長力の高い優良な上場子会社を持っている場合や、成長の伸びしろが大きい事業を内部に抱えていたりする場合が典型である」p107
    「株価は会社経営者にとっての成績表」p112
    「米国では、州会社法において、一般に、「所有と経営の分離」が徹底されており、会社の業務執行に関する意思決定については、取締役会のみが権限を有するものとされている」p169
    「州会社法上、もっぱら取締役会の権限に属するものとされている業務執行に関する意思決定の問題については、株主は勧告的な提案しかできない。以上から、アクティビストが対象会社を揺さぶる手段として株主提案を用いようとする場合、米国では、基本的に、取締役の選解任に関する議案を株主提案するしかない」p169
    「ニッポン放送事件東京高裁決定を契機として、わが国の判例は、米国デラウエア州の判例とは異なり、買収防衛策の発動の是非につき、取締役会の判断ではなく、株主総会の判断を重視する方向に進んでいるように思われる。この点は、買収防衛策をめぐるわが国の大きな特徴であるといえよう」p222
    「2010年代後半から、コーポレート・ガバナンスをめぐる議論においても、従来の主流であった株主資本主義に代わって、ステークホルダー資本主義を強調する流れが強まっている」p232

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著者プロフィール

弁護士(西村あさひ法律事務所)

「2020年 『デジタルエコノミーと課税のフロンティア』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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