幽玄F [Kindle]

著者 :
  • 河出書房新社
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感想 : 11
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感想・レビュー・書評

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  • 元々は純文学でデビューした著者が、直木賞受賞後に「三島由紀夫に挑んだ」戦闘機乗りでエリートパイロットとなった主人公の生き様を描いた作品。
    三島を意識してはいるが、純文学ではなくて、読み応えのあるエンタメ小説となっている。主人公の名前と高校時代の友人の名前・空の青は死の補色・「護国とは」と問う僧侶の祖父・オルタナ右翼のキドとの会話などは、三島ファンにはたまらないかもしれない。さらに著者が追求したという「機械の官能」という戦闘機類の描写は、ミニタリー好き・航空ファンでなくても充分堪能できる。
    そして物語は、観光フライトのパイロットになっても〈脚のない机〉である主人公が、かつて拒否された音速の世界に再び…

  • 『幽玄F』
    佐藤究さんの戦闘機F-35と天才パイロットを題材にした作品。おもしろそうだと思い手に取った。

    主人公の易永透は幼少期から本能的に飛行機に惹かれる。高校生になり戦闘機に出会い、ただただ戦闘機F-35に乗るために生きる。
    毎日の生活も食事も勉強も訓練も全て、戦闘機に乗るため。厳しい訓練を経て戦闘機のパイロットになった透は周りから天才パイロットと呼ばれる。

    2000年から2037年?頃までの時代が時系列で進んでいく。3部からなり、幼少期から学生時代、日本とタイでの生活、バングラデシュでの生活からなる。
    読み終わった直後の感想は、『格好良い…。』
    でも、格好良いのだけど何が格好良かったのか上手くまとめられないので、格好良いと思った事をそのまま羅列していくと

    •易永透の戦闘機F-35への真っ直ぐで純粋な愛と執着。
    主人公の易永透は何を見ても聞いても動じず、心が動くのは戦闘機についての話、行動、実際の訓練や飛行の時だけ。毎日の生活も食事も勉強も仕事も呼吸する事さえも「戦闘機に乗る」ただその目的のためだけの行動。

    •天才パイロットと呼ばれた透のF-35の飛行技術。
    佐藤さんの短く区切った文章から(82p)実践さながらの飛行訓練の迫力と戦闘機を自由自在に操る透の天才っぷりが伝わってくる。この文章が本当に格好良くてしびれる。

    •3部バングラデシュでのすべて。
    戦闘機にあれこれするんですけど、少しテスカトリポカっぽい。

    •佐藤究さんの文章による表現力。
    戦闘機の専門的な事が書かれているけれど、どれもわかりやすい。
    全く知らなかった戦闘機の世界に引き込まれ、主人公、易永透の人生に魅了されて、静かだけど深い感動を与えてくれた表現力はすごいです。

    うーん、やっぱり上手く言葉に出来ないけれど

    今は佐藤究さんに未知の世界だった空とGと戦闘機の世界に連れて行ってくれてありがとうございますと伝えたいです。

  • あの『テスカポリトカ』の佐藤究の新作。ほとんど一気に読み終えたが、飛行機、戦闘機、空にあまり興味がなく、三島『豊饒の海』四部作も未読で、ちゃんと読むことができたのかどうかは疑問。『テスカポリトカ』が文庫化されるのを待とう。

  • 飛行機に魅せられた男の人生。
    後半以降がどうなるか全く検討つかず、文句なしに面白かった。

  • 全体として流れる不穏な空気感、主人公の何を考えているかわからない、というか主人公自身も自分をわかりきっていない、という感じの、先の不透明さ、薄暗さが、読んでいてワクワクする。
    あとは日本、タイ、バングラデシュとさまざまに移り変わる舞台の中で、それぞれの国の風景・人々を、人間の熱というよりも風景の描写という感じで表している感覚。
    結局主人公が何を求めて最後に何を得たのか、というのは、わかるようでわからないという感覚がずっとある。そこは三島由紀夫を読んでいくと補完されたりするのだろうか

  • 幽玄;奥深く深淵で計り知れないこと

    主人公も誰も、そんなに深淵に書かれているのかなってなりました…
    飛行機への描写はすごい。
    人への描写がそれへの対比として薄いのか…

    うーん、テスカトリポカがすごすぎたからなのだろうか…

  • ”飛ぶ天才”だった透は、天空に棲む太虚の蛇に呼ばれたのかもしれない。技術の天才であるニューランドがF-35Bにおびき寄せられたように。

    蛇は王に味方して精霊と戦ったナーガであり、重力を振り切ろうとする意志であり、その願いが果たせずに天空でとぐろを巻くモラトリアムな存在でもあるのだろう。それは円環をなして時間を生成するが、おそらく蛇自体は牢獄からの脱出を望んでいる。美しい戦闘機のフォルムにたわめられた力は、スピードそのものだ。戦闘機を駆る透は、護国の水平面を越えて垂直に飛び立つ力であり、太虚の蛇自身のアフターバーナーとして呼び込まれたのではなかろうか。

    フレッチャーの悲劇的な不時着から2年以上を経て透の前に現れたF-35B。ベンガル菩提樹の樹上に鎮座する機体は、まさしく孔雀明王そのものだ。ただしその真の役割は蛇を退けることではなく、蛇を食べて自らが蛇になることだったのではないか。透の敷いた計画に乗り、降りる場所をも放棄して垂直に飛び立つF-35Bは、帰るという行為を切り捨てたことで天空の蛇となった。

    タイ空軍の蛇・サイドワインダーにとらえられ、円環をなすウロボロスと化した後、重力を振り切ることができたのかどうかはわからない。あるいはループを描く時間の中で、蛇(透)は航空事故で死んだ子どもの幽霊となって永遠にめぐっているのかもしれない。

    ただし作者は、重力に閉じ込められた円環世界の中に小さな突破口を設けている。

    ショフィクルの紙飛行機は、たぶん、あらゆるしがらみを断ち切って飛び立つことができる。燃料を食うエンジンもなく、制御系も武装もなく、パイロットすら乗せていない。しかしそれゆえに軽い翼はどこまでも飛んでいく。そのやさしくかろやかな機動は、蛇として爆散した透が転生した姿に見えなくもない。さんざん苦しみ駄々もこねてあがいたけれど、ほしかったのは結局これだったんだなと、幽かに笑う声が聞こえる気がしないでもない。乙女チックな感想として。

    太虚を求めてなおも見つからず。心もち肝要にて候
    ふるまひをやさしく、幽玄に心をとめよ

    (精神科医のタルボットとか、透の勤める会社の女性事務員とか、ゲリラの女性幹部とか、生物学教授に見える謎の男とか、盲目の僧侶とか、ほんの少ししか出てこない人々がすごく魅力的です)

  • 戦闘機F35乗りの主人公の鮮やかな操縦テクニックと超音速で飛ぶことへのこだわり。バングラディシュの生活描写も非常にリアル。見えない蛇に噛まれて超音速で飛べなくなった主人公が、ウロボロスの蛇の循環に思いを馳せて、戦闘機乗りになった当時の自分と今の自分を重ね合わせて時間を無限循環する。誰にも理解できない飛ぶ衝動に突き動かされる主人公をえがきながら、読後の爽快感が残る。

  • 話のテンポ感もよくスラスラ読めたが、内容が内容だけに凄かったとしか言い表せない自分の語彙力のなさが憎い。

  • FはファントムのF。幽玄白書と思いきやトム・クルーズのトップガン マーベリックでした。テスカトリポカに共通するマッチョな主人公。少し読んだだけで佐藤究とわかるストーリー。たまりません!

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著者プロフィール

1977年福岡県生まれ。2004年、佐藤憲胤名義で書いた『サージウスの死神』が第47回群像新人文学賞優秀作となり、デビュー。2016年『QJKJQ』で第62回江戸川乱歩賞を受賞。『Ank: a mirroring ape』で第20回大藪春彦賞、第39回吉川英治文学新人賞を、『テスカトリポカ』で第34回山本周五郎賞、第165回直木賞を受賞。

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