星を編む [Kindle]

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  • 「汝、星のごとく」のその後。北原先生と暁海、波乱だけど落ち着いた、“火花と海“のような人生。もう一度、「汝、星のごとく」を読み返してみようかな。

  • 「汝、星のごとく」の登場人物達の過去とその後を描いた作品。思ったよりしっかりと「その後」をかいてくれている。

    過去、現在、未来、人間関係が確かに繋がっているのだと実感できる。それぞれの過去を経て登場人物達も成長し、そのせいか暖かみのある雰囲気で読みやすかった。

    編集と作家の話は内容がすごくタイムリーで、色々考えさせられた。

    北原先生、暁海さんを中心とする人間関係は外から見れば不可思議なものだけど、キチンと収まるところに収まっている感じが読んでいて心地よかったです。

  • 「汝、星のごとく」の続編です
    やっぱり凪良 ゆうさんの物語は沁みる!
    人の心の深い部分をついてくるからグッとくる
    物語の構成力も圧巻だ


    読後 たくさんの付箋が付いた本を眺め この1冊の物語が私に届けてくれた感銘の多さにしみじみと感謝する

    以下 本文より付箋をつけた部分を挙げる

    ◯『私立高校をあきらめた時点で、奨学金制度を利用した時点で、遡ればどのような家に生まれてきたかで、ぼくたちはすでに選別されていたのだ。
      なんとかなるさと誰かが言い、みんなうなづいたが、ぼくたちはもう気づいていた。別段高望みでもなく輝かしくもない、ごく平凡で平均的な未来ですら、一度でもつまづいたら手に入れるのは難しいだろうという現実に。少年よ大志を抱けという言葉があるが、大志を抱けるその環境が、今や特権なのだという現実に。』
        (本文より)


    重い言葉だ

    我が子も奨学金制度にお世話になっている
    確かに 子どもは「どのような家に生まれてきたか」である程度将来が決まってしまう部分を持ち合わせると思う
    しかし その親もまた選べなかった誰かの子である
    遡り続ければ皆 猿だか魚かであったのだろうから これは運命の一端であると受け入れて あとは切り開けそうな部分を自分で開拓するか 強運力を発揮するしかない

    「大志を抱けるその環境」を 私自身 子におくることはできなかったが 「抱くだけならタダでもできる」ぐらいの想像力は 読み聞かせた絵本の量で育ってくれていれやしないかと期待する



    ◯『若者には無限の未来があるというけれど,現実にはそれぞれ『制限された未来』からしか選べない。裕福な家、貧しい家、才能のある者、ない者など。ぼくの手持ちのカードは常に不足していて、それでも,その中から最良のカードを選んだと自分を納得させている。』
         (本文より)

      「手持ちのカードは常に不足していて」という部分が切実
    でも こういう若者は少なからずというのが現状ではなかろうか
    元日に能登半島で大きな地震が起きた
    みな 多くを失い  「手持ちのカード」もまた失った

    生まれながらにして 家庭の状況でカードが少ない者
    避けることのできなかった事故や災害 病気でカードを失うことを余儀なくされた者
    自分の失敗で あるいは誰かの失敗が影響を及ぼしてカードを失った者
    カードはいつ どのように消えてしまうか 誰にも分からない

    しかし 日々は刻々と過ぎ去る
    私たちはその時持ち合わせたカードの中からの選択を常に迫られながら生きている

    ◯『いいことです。金銭的な悩みはパフォーマンスを低下させるので』
    (本文より)
    こう言った 北原先生の気持ちは分かりすぎて辛い


    前作「汝、星のごとく」同様、子どもの幸せは親や生まれた環境が大きく関わってくるという 誰にも動かせない ある意味辛くもあるこの現実が重くのしかかる雰囲気が 物語全域に滞る

    それは北原先生が歳を重ねてからの思考でも窺える

    ◯『若い時間の多くをケアに使ったわたしは、良い親の条件のひとつは、少なくとも自立したひとりの人間であることと言い切れる。親に限らず、人との関わり合い全般に言える。精神的にも経済的にもひとりで立てるからこそ、大事な人が転びそうな時に支えることができるのだ。』
    (本文より)


    それでも人は また生命を宿すし 生まれた子は生き延びようとするのが世の中だ


    ◯『なるほど。彼女が科学準備室に足繁く通ってきていたのは生命維持という切羽詰まった事情があったようだが、けれど最近になってカップラーメンも無理になり、今はポテトフライだけが食べられるという。きっとその他にもあらゆる体調の変化があるのだろう。身体の中に別の生命を宿すということの恐ろしさと神秘さが肌身に沁みる。』
    (本文より)

    私と一緒だ!
    と思った
    私も妊娠中 ポテトフライが無性に食べたくて仕方なかった
    普段はめっきり 食べることもないポテトフライを これでもかと食した
    食べている時は落ち着くが また食べたくなってしまうのが不思議だった
    身体の中にはいつもかわいいエイリアンがいた


    ◯『萎れた花のように彼女はどんどんうつむいていき、置かれた場所で咲くことを美徳とするこの国の文化について考えた。身の程をわきまえ、謙虚で心房強くあれ、それが真の美しさというものであるという無形の圧。けれど置かれた場所で咲ききれない花もこの世にはある。』
    (本文より)


    『置かれた場所で咲きなさい』というタイトルの本がベストセラーになった記憶がある
    未読だが タイトルだけ読めば それが意味することは分かるような気がする
    逆にそれが 苦痛となる場合もあるであろうかと上記の引用文から推測できる


    ◯『けれど今の時代、善であることと弱者であることは、ときに同じ意味を持つ。天秤はいつだって不条理に揺れ、与えた情けの分まで正しく秤られることは稀だ。父と母が他に分け与えた情けは帰ってこなかった。盾を持たない善人として搾取されただけだった。』
    (本文より)

    ◯『苦労が人を成長させるなどという話は、苦労した人を慰めるため、もしくは納得させるための方便だと才谷さんを見ているとわかる。苦労は経験値を上げるが、その圧の分、心を歪ませる。いやみでも皮肉でもなく、ぼくは才谷さんに憧れていた。』
    (本文より)


    世では「若い時の苦労は買ってでもしろ」とかいうが
    『その圧の分、心を歪ませる』
    こう思った北原先生の思考は まさに!と大きくうなづけた
    苦労した分「人の痛みがわかる」こともあろうし
    苦労した分「心を歪ませる」こともあろう

    「苦労は買ってまでするほどではない」…と 私の心の辞書は改めようと思う



    ◯『でも……女の幸せとわたしの幸せって、イコールなんでしょうか。』
    (本文より)

    これは「ノー」でしょう!
    そもそも これが女の幸せだっていうのを決めつけちゃうのが古い時代の考えだよね
    そこに縛られることなく生きれる時代が来ているのも事実(日本では)


    ◯『では、ぼくは、どうすればいい。ぼくの手には、彼女と子供が共に歩める救いのカードが1枚あり、けれどそれは同時にぼくの人生を破壊するだろう。
    「ええ、そうです」
    声が震え、ぼくは息を吸い込んで腹に力を入れた。
    「ぼくが子供の父親です」
    そのカードを切った瞬間、ぼくはそれまでの人生のレールから外れた。』
    (本文より)

     物語ならではの醍醐味が味わえた北原先生の決断部分
    他にカードはなかったのか…とも思うが
    現実では このカードを引く人はいなさそうなだけに 盛り上がっていく物語感にワクワクした


    ◯『いつの間にか雨が降りだしていて、フロントガラスを極小の水滴が覆っていく。灰と水色が混ざった空が脳内の喧騒を吸い取っていき、嵐が過ぎ去ったあと、強い波風に浚われつくした浜辺のような静けさがぼくを支配していく。』
    (本文より)


    ◯『癖のように抜けなかったその思考が、頼りなくからまりながら空気に溶ける細かな霧雨のように消えていく。』
    (本文より)


    上記2つの引用共に 手に取るように想像できる
    比喩が素晴らしいと感動する



    ◯『子供をいつ持つか、というのは我が家の一大問題だ。互いの努力で保たれている快適さを簡単に、いともあっさりと食い破る凶暴な獣が、いつも家の片隅にうずくまって私を見つめている。』
    (本文より)

    この獣がいろんな家にいて 夫婦に牙を向けているのだ
    世の夫婦の叫びを 物語を通して著者の凪良さんは訴えている



    ◯『〜櫂くんは ぼくにノートを渡してくれた。
    ー必ず形にするよ。
    ーええよ、別にどうしてくれても。
    頼むと言われると思っていたので、ぼくは肩透かしを食らったように感じた。
    ー約束なんかしたら、荷物になるやろ。
      ぼくは言葉をなくした。この子はどこまで優しいのだろう。そしてなんて寂しいのだろう。荷物の重さを知っているのは、それをずっと抱えてきたからだ。』
    (本文より)


    ◯『物語は不思議だ。内容は同じなのに、自分の気分や状況によって胸に残る場面や台詞が変わる。以前読んだときはあまり好きではなかった人物をなぜか好きになったり、苦手なままだけれど気持ちを理解できたりする。物語は『今の自分』を映す鏡のようであり、言葉という細い糸を手繰って、今も櫂と手をつないでいるように感じさせてくれる。』
    (本文より)
     
    そうだね
    物語の魔力はすごい
    だから 物語は何度でも繰り返し繰り返し同じものを読むことがあるのだろう
    そして 感銘を受けた本はそのとき この人に読んでほしいと思えば 共感を求めておすすめすることがある

    「手をつないでいるように」という感覚を得た場面と対照的に 現実で「手をつなぐ」場面も印象的に書かれていた

    ◯『うちなんてもうそういうの全然ないわ。旦那と手なんてと奥さんたちは笑う。本心半分、あとは照れ隠しなのを知っている。手をつながずともよい強固ななにかをあの人たちは築いているのだ。
     では、ぼくと彼女はどうして手をつなぐのだろう。ぼくと彼女の間にある温かく、けれど脆いなにかが、ぼくたちの手をつながせる。それをもう愛と名づけていいだろうか。』
    (本文より)

    いいよ!
    もう じゅうぶん「愛」だよ!


    ◯『ー先生、暁海さんは生きているんですよ。
    そのとおりだった。ただひとりに心を捧げ、喪に服して一生を終えるには彼女は若すぎる。どんな歓びも、哀しみも、時間は留め置いてくれない。優しく人を癒す、あるいは残酷に殺す薬のように、ぼくたちを次の場所へと連れていく。』
    (本文より)


    ◯『「忘れることはないけど、時間が経てば傷が塞がる。たまに古傷が痛んだりするけど基本的にご飯もお酒もおいしいし、天気がいいと気持ちいいと感じるようになる。すやすや寝てた五歳児が、結婚して子供産んで離婚して酒を飲むようにもなる。」
       ふたりで笑って、もう一度グラスを合わせた。人生は凪の海ではなく、結婚は永遠に愛される保証でも権利でもなく、家族という器は頑丈ではなく、ちょっとしたことでヒビが入り、大事に扱っているつもりが、いつの間にか形が歪んでいることもある。』


    時はさまざまなことを癒す力を持つ
    決して忘れられないことでも
    癒される部分ができれば 忘れられない部分が少しだけ寛容さを帯びて滲む部分をつくることさえある


    上記の引用部分 ある意味この物語の主題かなと思う
    人生も結婚も家族も 思うようにはいかない
    でも 辛いことがあっても時に癒され また人は新たに
    波にのまれに海に入るのだ


    ◯『的外れ、プラス勝手な決めつけ。それもしかたない。自分の価値観の中で整合性の取れる物語を作る。それが一番簡単で気持ちのいい他者への理解の方法だからだ。』
    (本文より)

    ◯『当事者よりも物事をよくわかっている、という顔をする人がいる。わたしは好き勝手に語られることに慣れている。言い返して波立たせるよりも、水のようにゆるやかに受け流せばいい。それでわたしのなにかが傷つくことはない。』
    (本文より)

    ◯『〜ぼくと暁海さんと櫂くんがどういう仲であろうと、他人には関係がなく、なにひとつ迷惑もかけていないのだが。
      けれど、どうしても無視できない人たちの気持ちもわかる。彼らが恐れているのは、それらがいつか自分の身に降りかかるかもしれないという危機感だ。そんな不道徳がまかり通る社会であってはいけないという自己防衛の一種が、他者への攻撃や無理解に転じるのだろう。』
    (本文より)

    ◯『留めておきたい喜びも悲しみも押し流され、どれだけ抗おうと朝陽と共に次のページがめくられ、また似たような一日がはじまる。それが現実を生きるということだ。物語のように美しいエンドマークはない。積み上がった記憶は整理も回収もされずに、ある日、散らかったまま終わる。』
    (本文より)



      どのフレーズも美しく 物語的で素晴らしく しかし現実を反映している部分もありながら…という 心に響く場面満載の物語だった


    生きていくことは平坦ではない道を通ることでもあるが
    通った道は 自分という物語を紡いでいくのだ
    どうせなら 読後感よいあたたかみのある物語を紡ぎたい

  • 汝、星のごとくのスピンオフ。

    汝、星のごとくの北原家の後日談を描いた「波を渡る」が一番好き。
    北原家に幸多からんことを、と祈った。
    それと北原先生凄い人だよ尊敬する、と思った。

  • 前情報を何も仕入れないまま読んだところ、途中で『汝、星のごとく』の続編だと気づきました。
    確かに、星というキーワードがあったので、そう気づくべきでした。
    『春に翔ぶ』『星を編む』『波を渡る』の三篇からなりますが、最初の『春に翔ぶ』では、まだ続編だと気づかずに読んでいたのですが、『星を編む』の途中で「あれ?」と気づきました。前作を読んでしばらくたっていたので、登場人物の名前をすっかり忘れていたのです。
    この本だけを読むのでは、話の内容と良さは伝わり切らないかも知れません。やはり前作の『汝、星のごとく』を先に読んでおくべきです。
    前作で気になっていたその後、ようやく知ることが出来て良かったです。

    いろんな家族のカタチがあります。
    今の時代、それが世間一般に眉をひそめられるような形態でも、愛や絆などのつながりは、それぞれが良しとしているものがあるのだと感じました。
    自分ならどうだろう?と考えてみましたが、内側の事情が分からなければ、やはり頭が固く、保守的なところもあるので、島の住人のように、色眼鏡で見てしまうだろうと思います。
    ですが、これを読んで、一方的に自分が噂だけ聞いただけでは本質は分からないし、自分が目にしたものを信じたいけれど、目で見ただけでもやはり、本質は分からないのだ、自分が他人を推測するには限界があり、誰にも迷惑をかけないのであれば、本人たちがそれでよし、という家族の形態があるのなら、それはそれで良いのだ、とストンと腑に落ちました。
    これからも、現実世界では、色んな家族形態が現れてくると思うけれど、暖かく見守らなくては、と感じました。
    年を追っての、櫂くんを無くした後の暁美さん、北原先生、結ちゃん、明日見さん、瞳子さん、お父さん、お母さん、それぞれの生き方、家族の移り変わりが良かったです。
    そして、自分にとって少し不思議で謎な存在だった北原先生の過去を知ることができ、ようやく納得しました。

  • 「汝、星のごとく」の登場人物達のその後の様子を描いている物語でした。年齢を重ね死を迎えていくその時まで悩みは絶えないけれども、今の自分を作っていたあらゆるものに対しての想いを感じました。本作を読んでから読んだので繋がりが良かったです!

  • 激しく儚い物語である前作とは一転、続編の本作は静かに燃える青い炎、そこから後半に向かうにつれて穏やかな海を連想させる作品。

    登場人物みんなが魅力的に見える作品で、でもそれはきっと暁海と北原先生のフィルターを通しているからなんだろうと思いながら読みました。
    胸を打つフレーズも多く、読んでいて自分自身も救われるような物語。まだまだ余韻に浸りたい。

  • 登場人物それぞれの紆余曲折がうまい具合に描かれてて傑作。汝、星の如くとあわせて何度も読み直したい作品。

  • いろんな受け取られ方があるんだろうし、
    それは十人十色でいいんだろうけど、
    自由に生きていいんだ、という主張ではなく
    周りとの差異とどう折り合いをつけるか、が
    この物語での注目点なのかなと思いました

  • レビューを見て、読みたいと思っていた。
    「汝 星のごとく」の続編、こちらの方が好きと答えた人がいるほどの内容。私はどっちも好き、また泣いてしまった。
    北原先生の行動は真似はけっしてできないが、理解はできた。そういうご両親に育てられたら、こういう考えにもなってしまのかもと。植木さんも二階堂さんも仕事だけではなく、家族がいる。そんな当たり前のことに前作は気付かなかったほど、櫂君と暁海ちゃんにのめり込んでいた。
    こちらの作品の方が言葉が刺さる。いつも、あやふやに誤魔化しいた自分の感情を逆なでする。自分の思い通りに生きられる人などいない。もしいるとしたら、周りや相手の人がかなりの我慢を強いられている。誰もが、すり寄って共に生活できるよう努力をしながら生きている。愛しているを言い訳に自分の思い通りに相手をコントロールしようとする。それぞれの愛し方、考え方は違う。

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著者プロフィール

1973年生まれ、京都市在住。2007年、BLジャンルの初著書が刊行され、デビュー。17年『神さまのビオトープ』を刊行し、高い支持を得る。19年『流浪の月』と『わたしの美しい庭』を刊行。20年『流浪の月』で「本屋大賞」を受賞する。同作は、22年に実写映画化された。20年『滅びの前のシャングリラ』で、2年連続「本屋大賞」ノミネート。22年『汝、星のごとく』で、第168回「直木賞」候補、「2022王様のブランチBOOK大賞」「キノベス!2023」第1位に選ばれ、話題を呼ぶ。翌年、同作の続編にあたる『星を編む』を刊行した。

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