台湾の歴史 (講談社学術文庫) [Kindle]

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  • 台湾は歴史上常に周辺部として存在。住民が自らの行く末を決めることはできなかった。しかし、民主化を達成したことで、住民自決の概念が台湾の歴史上初めて成立し、主体性を持ったファクターとして行動し始めるようになった。

    国民党が、中国全土を統治化と想定しつつ、実際は台湾のみを統治し続けるという歪な構造を維持するのは不可能だったと思われる。現実に目を向けさせたのは、皮肉にも70年代の米中接近であった。このままでは埋没すると危機感を強めた国民党は、台湾そのもの、民生に目を向けざるを得なくなった(台湾化)。また、米国の支援を得続けるためには、民主化を進めていかざるを得ないという構造であったことも興味深い。香港では成功しなかったが、台湾においては米国の政策が上手く機能したということ。朝鮮戦争勃発に伴う両岸分離の固定化でもそうだが、米国の影響力は絶大である。米国の顔をより伺う必要が生じたこと、台湾そのものを直視しないといけなくなったことから、マジョリティである本省人のための台湾化が進行し、民主化は驚くべきスピードで進行していった。中国という外部の脅威がなければ、台湾がここまでスピーディーに民主化を実現できたとは思えない。
    そして民主化、選挙が、より一層の台湾化を推し進める現実も興味深い。72年体制というルールは崩せないが、それを所与の条件であると台湾の人々はよく認知しており、現状維持という名目の台湾化を押し留めることはできないのではないか。少なくとも、すでに対中政策で、国民党民主党の差は実際は殆どない。強権な中国を見るにつれ、その思い、自分のことは自分で決めたいという台湾意識の進行は留めることはできないだろう。
    だからより一層、中国からしてみれば、平和的解決の手段はないとして思い切った行動に出ることを選択することが合理的と考えだすのではないか、という恐怖がある。これを押し留めるのは、日米といった地域大国のハードパワーのみであろう。そして台湾はそれらと良好な関係を構築し、極端な政策をとってオウンゴールを与えないことが、もっとも合理的な選択肢と思われる。

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著者プロフィール

若林 正丈(わかばやし・まさひろ):一九四九年長野県生まれ。東京大学教養学部卒業、同大学院社会学研究科国際関係論修士課程修了(国際学修士)、同大学院博士課程退学。社会学博士(東京大学、一九八五年)。在香港日本領事館専門調査員、東京大学教養学部助教授、同大学総合文化研究科助教授、教授を経て、早稲田大学政治経済学術院教授、早稲田大学台湾研究所所長、台湾・政治大学台湾史研究所兼任教授などを歴任。著者に『台湾抗日運動研究 増補版』(研文出版)。また『台湾──分裂国家と民主化』(東京大学出版会)、『蒋経国と李登輝』(岩波書店)などで一九九七年サントリー学芸賞受賞、二〇〇八年刊『台湾の政治──中華民国台湾化の戦後史』(東京大学出版会)でアジア・太平洋賞および樫山純三賞を受賞。

「2023年 『台湾の半世紀 民主化と台湾化の現場』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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