初めて読む作家さんですが、読み口はとても軽く感じます。まるで大衆小説のような軽い感じで読み進められます。選評にもあったとおり、視点が移り変わるのに、とてもスムーズに読めるところが、文体として洗練されているのだと思います。
人物造形も巧みだと思います。3人が3人とも、独特の感覚を持ち合わせているところや、人間としての怖さの表現はとてもうまいと思いました。
通り一遍で読むと、こういう職場あるあるみたいな感じですが、その実は、最も弱いものの無意識の暴力的な攻撃性が、とてもうまく表現できていると思いました。そしてそれは、登場人物の誰にも両面を持つことの怖さとなって、人物が立体的に見えるのだと思いました。
ちょっと気になったのが、作者の受賞のことばで、「むかつくことを書き続けたい。」と言っていたことです。そのあたりが、少し違和感を感じるところなのかも知れません。確かにそうなのかも知れませんが、どこか「書かずにはいられない。」という感じが希薄な気がしました。書き続けているのだから、書かずにはいられないのだとは思いますが。