わたしたちの怪獣 (創元日本SF叢書)

著者 :
  • 東京創元社 (2023年5月31日発売)
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本棚登録 : 234
感想 : 19

SFを4遍収録した短編集。作者の小説ははじめて読んだのだけど、4編どれもがさらりとした手触りでありながら、サブカル愛や映画愛を感じるもので、馴染みの店で定番のメニューでも食べているかのような安心感がありました。

表題作「わたしたちの怪獣」は父親を殺した妹の罪を隠蔽するために怪獣が出現している最中に死体を遺棄しようとするお姉ちゃんのお話。主人公の心情にフォーカスしつつ、突如出現した怪獣によって社会が混乱する様子を描くという、小さな「個」と大きな「社会」を対比させた物語。最終的にそのふたつが重なる瞬間をとらえることで、主人公が「世界」とコンタクトする瞬間を描こうとしたのかなと思いました。つまりこれはかたちを変えたファーストコンタクトSF。展開は荒っぽい部分もありますが、主人公の情緒の流れがわかりやすく、絵的な強さもあり結構好き。

「ぴぴぴ・ぴっぴぴ」では歴史改変された世界の秩序を守る仕事に就いている者の話を、「夜の安らぎ」では吸血鬼に魅入られた少女と実在した吸血鬼の出会いを。二編ともさくさくと読めちゃうわかりやすいお話で、やはりここでも個と社会の対比みたいなテーマが読み取れる。

「『アタック・オブ・ザ・キラー・トマト』を観ながら」はZ級映画である『アタック・オブ・ザ・キラー・トマト』を映画館で観ている最中に街がゾンビに襲われ、館内に残っていた8人が映画についておしゃべりしながら籠城するというお話。映画についてのあれやこれやな知識が披露されつつ、軽妙な会話によって登場人物を掘り下げ、Z級映画に対する愛をさく裂させます。オチの付け方はなんだか投げやりっぽい気もしましたが、登場人物の会話ややり取りがコミカルで楽しい。『アタック・オブ・ザ・キラー・トマト』観たくなっちゃった。

現実の中に突如虚構が侵入し話を駆動させるという、ティーンが好きそうな話が多く、この前読んだばかりの『SFの気恥ずかし』に書いてあった”若気の至り”的な妄想譚はある意味ただしく「SFやってんなあ」という印象。話の飛躍具合からすればサイエンスの要素は少ないので、SFに「科学」を求めている方からすれば物足りなさを覚える可能性があるけれど、過重労働やパワハラ、家族間の問題、いじめ、経済格差といった部分がテーマとして用いられているため、社会学SFという観点からみるともっと色々掘り下げがいがありそう。

読書状況:読み終わった 公開設定:公開
カテゴリ: 未設定
感想投稿日 : 2024年3月17日
読了日 : 2024年3月17日
本棚登録日 : 2024年3月17日

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