英語の感覚・日本語の感覚 <ことばの意味>のしくみ (NHKブックス)

著者 :
  • NHK出版 (2006年8月26日発売)
3.50
  • (8)
  • (11)
  • (21)
  • (3)
  • (1)
本棚登録 : 233
感想 : 13
3

著者の『日本語と日本語論』(ちくま学芸文庫)に続き読了。

a) I believe John is honest.
b) I believe John to be honest.
c) I believe that John is honest.(以上p.71)

これらは書き換え可能とした上で、上に行くに従って「自らの直接的体験」、下に行くと「他人の報告という間接的な証拠」になるという。

この理解があれば、下記2文の違いも理解しやすい。

a) She told him to leave.
c) She told him that he should leave.(以上p.74)

a)は命令、c)は伝えるという意味である。そうすると次の2文の差異も容易に理解できる。

a) I declare him innocent.
c) I declare that he is innocent.(以上p.75)

declareは遂行動詞だから発話が即ち行為となり、a)は裁判官など然るべき権限のある者が無罪を宣言し、その者の無罪を作り出す。一方のc)は、中立的に無罪だと言っているだけで、a)にある効果は生じない。

そうすると、以下の文の違いも明瞭となる。

a) I heard her scream.
c) I heard that she screamed.(以上p.76)

ここまでの理解の通り、a)は直接聞いたことを、c)は人づてに聞いたことを示す。

秀逸なのはこうなる理由の分析だ。上記英文に共通して言えることは、a)の英文では述語動詞の次の(代)名詞が目的格であるということ。一つ目のbelieveの英文を引いて筆者は、「〈目的格〉であるということは、ジョンが信じるという行為の向けられた対象として私の支配下に入っているという形で捉えられることを意味する」(p.77)と指摘する。

この理解ならば、2つ目のtellの英文においてa)が命令になるというのも分かりやすい。

更にはこれと関連づけて次の英文の比較。

a) John showed Mary a photo.
b) John showed a photo to Mary.(以上p.78)

a)ではMaryがいわば支配下という理解になるはずで、従ってメアリーが写真を見たことまでが含意される。他方、b)ではメアリーは見ていないかもしれない。

そうすれば、次の英文のどちらが自然かも感覚的に理解できる。

a) John kissed the Queen by the hand.
b) John kissed the Queen’s hand.

これは謁見の際の儀礼的な行為のはずで、ジョンが女王自体に影響を及ぼすことは通常できないはずだからa)では不自然である。

といった具合で、第3章は英語学習者にとって直接的に役立つ内容が多いだろう。

他にも、第5章における類似性と近接性の話は興味深い。白と黒というのは反意性の関係にはあるが、それは両者が共通の次元にあることを意味するから、「意味の類似性」があるのだという(p.132)。

内容があれこれと移る感は否めず、私自身あまり興味の湧かない章もなくはなかったが、全体的には今まで考えたことのなかった点に頷くことが多かった。特段はじめから読み進める必然性もなく、関心のある章から、あるいは関心のある章だけ拾い読みしても得るところがあるだろう。

読書状況:読み終わった 公開設定:公開
カテゴリ: 未設定
感想投稿日 : 2023年8月15日
読了日 : 2023年8月15日
本棚登録日 : 2023年6月13日

みんなの感想をみる

コメント 0件

ツイートする