不倫相手の女に子供を誘拐された母と、不倫相手の子供を誘拐した女。3年半親子として逃亡を続けた生き様と、事件解決後に誘拐された子の、その後の生き様が描かれた作品。
ズバリ、テーマは母性だ。
だが、原作を読んだおじさんの私はレビューに綴った通り、狂おしいほど愛おしい衝動に駆られた。
いつか映像でも観たいと思い続け、ようやくその機会がやってきた。
本来なら悪役となるべき誘拐犯を演じた永作博美の演技はとても刹那的で深い。子供に対する母親の愛情を見事に表現していた。
誘拐された娘であり、彼女もまた不倫相手の子を身籠りった女性役に、井上真央は適役だった。
そして、複雑な事情を抱えた新聞記者役の小池栄子。
彼女がいたからこそ、本作品が引き締まっていたと思う。
何より、原作でも同じ男として憤りを抱いたポンコツ不倫夫役も田中哲司と劇団ひとり。情けないほどに情けなかった。グッジョブ。
セミは数年から十数年の間を土の中で過ごし、成虫になって地上に出てから、七日ほどで死ぬという俗説がある。
作中で井上真央演じる薫は言う。
『七日で死ぬ蝉より、八日目の蝉の方が寂しくて悲しいだろう』と。
作中で小池栄子演じる千草は言う。
『私もそう思っていたけど、八日目の蝉は、他の蝉には見られなかった何かを見ることが出来る。もしかするとそれは凄く綺麗なものかもしれない』と。
失っていた記憶のカケラを一つずつ拾い上げながら、苦しんで苦しんで苦しみぬいた末に、薫が最後に覚悟を決めたシーンにはとてもグッときた。
まさに八日目の蝉が、新しい景色を見た瞬間のようで、原作同様に良き作品であった。
- 感想投稿日 : 2021年10月23日
- 読了日 : 2021年10月23日
- 本棚登録日 : 2021年10月23日
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