ホロコーストについては、ナチスドイツの敗戦後、おびただしい事実の発掘や研究がなされてきたが、第三帝国という特殊ドイツ的な事情が反ユダヤ主義と結び付いて起こった事象と捉えられがちであった。
特に、社会学等の社会科学の領域では、通常の歴史の流れの中断、文明社会の身体にとりついた腫瘍とみなされた。
著者、バウマンにとってもそうであった、ユダヤ人の妻ヤニーナの戦争時代を書いた手記『冬の朝』を読むまでは。
本書の執筆動機、目的は、緒言に端的に記されている。「本研究の種々の検証の目的は、…専門研究者による発見を社会科学全般に提供し、社会学的考察の主要テーマと関連させる形で解釈し、社会学の主流に合流させ、現在の周辺的位置から社会理論と社会学的実践の中心的位置に移すこと」とされる。
キーワードは、『近代』、特に官僚制である。
ホロコーストに関する歴史学等の先行研究、ーヒルバーグ、アーレント、ミルグラムなどの研究ーを丹念にたどりながら、著者の社会学的考察が進んでいくところは、大変読み応えがある。第7章の「道徳の社会学的理論に向けて」は、デュルケム、サルトル、アーレント、レヴィナスの議論を参照しながら理論的考察がなされていて、予備知識がないと理解が難しいが、著者の言わんとすることは明快に示されている。
ホロコーストの問題が決して過ぎ去った過去のことではなく、現代を生きる我々は、何をどのように理解しなければならないのか。いろいろなことを、深く深く考えさせてくれる一冊であった。
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- 感想投稿日 : 2021年4月26日
- 読了日 : 2021年4月25日
- 本棚登録日 : 2021年4月25日
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