歴史学のトリセツ ――歴史の見方が変わるとき (ちくまプリマー新書 410)

著者 :
  • 筑摩書房 (2022年9月8日発売)
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本棚登録 : 289
感想 : 24
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 「歴史総合」が始まるからか、歴史とは何か、歴史を学ぶとはどういうことかに関する本が目につく。
 本書もそのような一冊であるが、“プリマー新書“ということで、高校生を相手にするようななやさしい語り口。
ページ数もさほど多くなく、とても読み易いが、その内容は濃い。

 ランケ流の近代歴史学=科学としての歴史学に対し、アナール学派、労働史学、世界システム論などの潮流が登場し、さらに言語論的転回とポスト・コロニアリズムの衝撃を経て、冷戦終結やグローバル化を背景として20/21世紀転換期には、記憶研究、グローバル・ヒストリー、パブリック・ヒストリーなど実践指向の強い新たな動きが出てきている。こうした大きな変化について、分かりやすく、骨太に解き明かしてくれる。

 
 それをまとめると、次のようなものになる。
 実証主義、公文書至上主義、資料批判、これらの背景あるいは結果としての記憶の排除、ナショナル・ヒストリー、欠如モデル(知識を欠如した非専門家に向けて、専門家が知識を与えるものとして捉えるモデル)の3点セットを中核とするランケ学派。
 これに対して、冷戦の終結によって解凍された記憶のあいだの対立や矛盾を解き明かそうとする記憶研究。排外主義に陥りがちなナショナリズムに連なるナショナル・ヒストリーを超克することを目指すグローバル・ヒストリー。そして欠如モデルを批判し、歴史学をコミュニカティヴな実践として捉え直すパブリック・ヒストリー。

 言語論的転回のところなど、多少の予備知識がないと、歴史学に対する衝撃や、反対に多くの歴史学者に無視されたのかが分かりづらい箇所もあるが、歴史「学」に興味を持つ者にとっては、入門書としてとても面白い。

読書状況:読み終わった 公開設定:公開
カテゴリ: 未設定
感想投稿日 : 2022年9月9日
読了日 : 2022年9月8日
本棚登録日 : 2022年9月9日

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