リベラルのことは嫌いでも、リベラリズムは嫌いにならないでください--井上達夫の法哲学入門

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  • 毎日新聞出版 (2015年6月16日発売)
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日本法哲学界のドン、井上達夫による独自の法哲学入門。自説バリバリの本ゆえの長所と短所が。

いい点としては、分かりやすく簡潔で、バラエティに富んだ内容で飽きが来ない。200ページほどの分量ながら、第1部ではリベラリズムの概説と現代的な論点への言及、第2部では井上の研究生活に沿ってこれまでの法哲学の流れを通覧と、さまざまな話が展開される。
ロールズやサンデルなど大家の理論でも、井上が誤りだと思うものは容赦なく切って捨てている。そのため中立的な入門書にありがちな、どの説もそれなりに正しく聞こえて結局何が言いたいのか分からない、ということが起こらず論旨が明快。説明の巧みさもあり、これ以上分かりやすい本はないと言える。

裏返しになるが、井上の見解が前面に出過ぎているのが悪い点。自説と異なるものをきっぱり「ミス」とか「誤った論理」と断定しているが、失礼ながらイマイチ信用できない。ロールズやサンデルほどの学者が、素人の私が一読して分かるようなミスをするとも思いづらいし、せいぜい価値判断の違いなんじゃないか。
もう一つ、本書の第1部では憲法9条や天皇制といった現代的な問題も扱っているが、「天皇制は現代に残る奴隷制だから廃止すべき」みたいな空中戦が多くて、個人的にはあまり意味のない議論に感じられた。

総じて厳密で信頼のおける本ではないが、ライトに読むにはこの上なくおすすめ。井上が自分の文脈で喋っている分、専門的発展的な内容が急に出てきたりするので当たり障りのない新書よりも満足度は高いんじゃないかと思う。

読書状況:読み終わった 公開設定:公開
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感想投稿日 : 2023年4月13日
読了日 : 2023年4月11日
本棚登録日 : 2023年4月11日

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