いや、これは凄い。傑作だ。
現在の事件のからくりに驚愕した後、過去とのつながりが明かされ、物語はさらなるカタストロフへ。戦時中の気配が残る寒村の雰囲気や、伏線回収、そして読者への挑戦状を思わせる一文まで飛び出し、これはもう徳間書店に感謝せざるをえない。
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まず、美緒が明かす赤髪連盟的真相。これがその後の智一の推理の土台になっていく。伏線は車を使うはずの花島先生が駅にいたこと、聞こえてきた電話での言葉など。ひき逃げの犯人が花島先生で、とすれば目撃者となっていてもおかしくはない都会風の男に脅されていたというのが巧い。
そして、現在の事件での一番の驚きは、やはり死体の身元だ。だが、最初は花島先生の智一を騙すための言葉もあり、見抜く手がかりはやや少ないように感じた。が、あの二又の道、何者かの尾行、「電線しか通ってない」と電話の矛盾、吉爺さんに会う日だけ薬を飲ませなかったこと、などを考えればフェアと言えなくもない。
そしてさらに驚くのが秀二は生きており、黒島先生と同一人物であるということだ。
まず、マキ子の”秀二さん”という呼び名の伏線が巧い。マキ子が知るはずのない智一の母の病気を知っていたことなども補強となっている。
そして犯人の黒島が、殺しても構わない(結局爺さんを一人殺しているのでむしろその方が楽)智一を殺さなかったこと、土地の者でないと知らない事実を知っていたことなどと組み合わせて秀二の現在の姿までも暴いている。
そして、秀二の二度の入れ替わりの真相を知ることで、一気に秀二に対する印象は変わっていき、それは智一にまで及ぶ。これが壮大なカタストロフを生み出し、読後の余韻を生み出す。
梶龍雄の今後の復刊も楽しみで仕方ない。
- 感想投稿日 : 2022年5月17日
- 読了日 : 2022年5月17日
- 本棚登録日 : 2022年5月17日
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