卒業式まで死にません―女子高生南条あやの日記 (新潮文庫)

著者 :
  • 新潮社 (2004年2月28日発売)
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感想 : 212
5

すごく良かった。
私も彼女と同じ、学校に通えてなくて、うつになり始めた18歳の頃にこの本を読み始めて、読み終えた今では19歳になってしまったけど、依然としてうつ病で、リストカット癖があって、精神科に通ってて、文章を読んだり日記を書いたりするインターネットと夜更かしが大好きなサブカル系の女の子だ。

彼女はそこにいた。まるで友達みたいに。

読み始めたときは彼女の自傷と自嘲がとにかく悲しくて、なんて痛々しいんだろうと思って胸が苦しかったけど、合間合間に挟まれるユニークな言い回しと普通の女の子の日常にそれらの毒々しさが飲み込まれていってスルスル読んでしまう、過激ながらも楽しい文章だった。
本筋とは関係ないが、病院の処方のガバさとか未成年の精神的な病に対するアプローチの確立されてなさとかインターネットのアングラでディープな感じとか、90年代の空気感が素敵で、完全なる未知の世界を生の視点から見られて面白くもあった。
そんな簡単に酒も飲めたのかよ!?そんなに薬を処方しちゃうのかよ!?父親の分の薬を娘に渡すのかよ!?彼女はこんなにひどい状態なのに、もっと強力な介入はできないのかよ!
などなど。

おまけに未成年がこんな文章を書いてることを特集して記事でインターネット・アイドルなんかにしてしまう大人たち!どこまでも無責任だ。お前らがそれは、ダメだろう。痛みや悲しみを他人が、それも大人が子供の言い分にホイホイ乗っかってエンタメとして消費して拡散なんて、恥ずべき行為だよ。
おおらかっつーか、雑で野蛮な時代だったんだなと思いました。空気感、エモいがヤバいな。
そんなわけあるかい!それアリなんか!?の連続だった。

しかしそんなことを思いながら、そのうち、私は、いつの間にか友達みたいにくすくす笑いながら彼女の文章を読んでいた。

友達同士だからこそ、素直に心配されるより酷い現状を不謹慎に笑い飛ばしてもらいたいことがたくさんあって、私の身にもたくさんあって、そんな同世代の友達(インターネットでも、現実でも)の不謹慎さと刹那的な笑いに私は救われていたんだ。彼女の文章は、まさにそういうものだった。

傷の舐め合いというよりは、リスカ跡を見せ合って「お前やべーな」「やってんなぁ!」って笑い合うみたいな、無言の仲間意識みたいな。
どん底でゲラゲラ笑いながら一緒にトリップしてくれるみたいな。
道徳的じゃないけど、それもまた唯一無二の友達のスタイルだ。私はそれを思い出さずにいられなかった。

だから、その方が彼女にも私にもいいと思って、楽しく読んだ。途中から完全に友達の日記を読むような気持ちだった。
電車の中でこの本を読みながらついクスクス笑って、ふと車窓に目線を移して、「あー私が好きなあの曲、この子も好きだろうな。聴かせたかったな」とか「カラオケ一緒に行ったら絶対くたばるまで歌うのに」とか「休み時間に先生の悪口言って盛り上がりたいな」とか、私が生まれた25年も前に生まれた彼女のことをマブみたいに感じてた。
それは彼女の痛みと私の痛みがきっと同じだから。そして彼女が読者にそう思わせる文才を持っていたから。そんな彼女が書いてくれたから。
苦しみながらも表現することをやめないでいてくれたから。

読み終えた今は、私の心の中に友達が一人増えたみたいな気持ちになっている。
何かあると彼女のことを思い出す。
確かにそこにいる。
彼女が生きて、書いてくれて良かった。
だって私たちが会えたから。
そんな気持ちにさせられる文章だった。

タラタラ読んでいたら、私はいつの間にか彼女より年上になってしまった。
彼女はすごく頑張っていた。腕が象みたいな異形になるほど切るなんて、素人の注射で瀉血なんて、心臓が弱るほどの自傷行為だなんて、聞いたこともない。本人もはっきりと理由がわからないまま、文字通り血をダラダラ流しながらも懸命に楽しくやっていた。
だから私も。彼女があんなに頑張っていたんだから私も。あと少しくらいは、と思った。
19歳になったことのない南条あやちゃんに教えてあげたい。大学なんて大したところじゃなかったよ、そんなことよりカラオケ行こうよ、機種は絶対JOYSOUNDで!って言いたい。

本を読んでこんな気持ちになるのは初めてだ。
悲しいのにあったかい。出会って、そして、別れて終わる。不思議な日記だった。

南条あやちゃん、会ってみたかったな!大好きだよ!

読書状況:読み終わった 公開設定:公開
カテゴリ: 未設定
感想投稿日 : 2024年2月15日
読了日 : 2024年2月15日
本棚登録日 : 2024年2月15日

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