毎日のように手紙は来るけれどあなた以外の人からである 枡野浩一全短歌集

著者 :
  • 左右社 (2022年9月29日発売)
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感想 : 49
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はじめて(本で)出会った歌人は穂村弘さん(『世界音痴』というタイトルのエッセイ)だけど、はじめて買った短歌集は枡野浩一さんの歌集だった。
どうして知ったのかは覚えてないが、16年ほど前にハマっていたヤフオクで買った。
届いた商品には手紙がついており、丁寧な人だな〜と思いながら、本を開いて驚愕した。
なんと、乾いたハナ◯ソがびっしりとあちこちのページについているのだ。
わたしは混乱した。なぜ?なぜ、こんな状態に?
やりとりのときも、手紙の文面もフレンドリーで何の問題も感じなかったので、そのことに逆に恐怖を感じ、泣き寝入りしてしまった。
ハナ◯ソは意を決して全部取った。
本の内容は素晴らしく、こんなわたしでも短歌が作れそうな気がして、一首作ったが、それで終わった。
それでも、枡野さんの歌には心が震えた。
この短歌集の前半で、その短歌を読んでいた時間と空気を思い出して懐かしかった。
しばらく心の友として、手帳に書きつけて持ち歩いていた歌もあった。
その歌を思い出すとほんの少しだけ強くなれそうな気持ちになった。
全然強くなれなかったけど、気がするだけで生きのびられた。
他人の作った歌だけど、自分の歌みたいに感じた。
この歌集の栞の俵万智さんの枡野さんへの返信に書かれている通り、「(枡野浩一さんの短歌の)もうすでに読者のものという顔つき」に、多くの人が助けられたと思う。
「みんなが使う言葉」で、短歌を知らない、興味ないひとたちにも、伝わるように、届くように、短歌の世界の裾野を拡げてくれたのは、うれしい。
4月から、NHK短歌の選者を勤められるということで、今からドキドキです。
どんな歌を選ばれるのだろう。







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感想投稿日 : 2024年2月13日
本棚登録日 : 2024年2月13日

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コメント 3件

たださんのコメント
2024/02/13

5552さん、こんばんは。

いや、これは凄いですね。
というか、酷すぎる!
そのあまりに衝撃的なエピソードに驚きましたが、それでも、今の5552さんを形作ったのだと信じたいですし、これを書かれた5552さんのこと、尊敬いたします。
『事実は小説よりも奇なり』とは、よく言ったもんですよね。

それでも、枡野浩一さんのこと、よく知らなかったので、歌集に興味を持つことが出来ました。
俵万智さんの言葉も素敵ですね。
ありがとうございます!

5552さんのコメント
2024/02/14

たださん、こんばんは。

今、思えばひどかったなー、抗議すればよかったのかなーと思うのですが、当時は相手がどういう思いでこんな状態の本を売ろうと思ったのか、それが全く分からず(今もですが)恐怖でした。
でも、大抵の人はその本、気持ち悪くて捨てると思うのですが、ハナ◯ソ取ってまで読んだのが我ながら自分らしいと思いました笑

枡野浩一さん、いいですよ。
俵万智さんもですけれど、わかりやすい=浅い、ではないことが良く分かります。
俵万智さんの言葉もいいですよね。
生み出したのは作者だけれど、作品そのものは、読者のものでもある、といってもいい、と、作者の方に許されたような気がしています。

たださんのコメント
2024/02/15

5552さん、お返事ありがとうございます。

いや、おそらく私も抗議出来ないと思います。
何というか、怖い上に、揉めたら面倒くさそうで嫌だなという気持ちが芽生えそうで・・・。
それでも、5552さんにとって、思い入れの強い作品と出会えて良かったと、思います。

わかりやすい=浅い、ではないことは、簡単に出来そうで、最も難しそうな気がしまして、本書のタイトルも何気ないようでいて、心惹かれるといいますか、そんな魅力も感じました。
市の図書館にあれば、是非読んでみたいと思います。
改めまして、ご紹介ありがとうございます(^-^)

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