文庫 自分の「異常性」に気づかない人たち: 病識と否認の心理 (草思社文庫 に 3-2)

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  • 草思社 (2018年12月5日発売)
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衝撃的な表題『自分の「異常性」に気づかない人たち』。
自分の心臓の鼓動が速まっているのに気づく。私も「異常に違いない」と。

どこまでが「正常」で許容でき、どこからが「異常」なのかという線引きの難しさ。さらに当人の置かれる環境による問題表出の差異が認知や診断を難しくする。

今でこそ精神医療へのアクセスや理解が深まりつつあるものの、本書にもあるが私が育った昭和の地方においては「悪いことをするとあの病院に連れていかれるよ」「あの病院に入れられると出られないんだぞ」と脅しのような親の言葉で精神医療を想像したものだった。

本書のなかで典型例として呈されるいくつかの精神疾患は、その母親やきょうだいの「困った一連の言動」によるものだと理解するのには物凄い時間とエネルギーを費やし傷も負った。

私の生い立ち環境は私自身にとってあまりにも当たり前すぎて、「困りごと」と認識するのが難しく「家族であるにも関わらず、投げ出すのは私が我儘で自分勝手だからだ」とずっと自分を責め続けた。

実の家族たちによる攻撃性や暴言暴力に当惑し続け、私自身も母親やきょうだいのように、私の夫や子どもたちに牙を剥いているのではないかと、自分自身に猜疑心を抱く。

「自分は異常に違いない」という漠然とした不安や恐怖から逃れられずに苦しんできたことを読みながら噛みしめる。

P.74より一部抜粋
恵一郎が悩んだ恥辱や罪悪感、自責感、後悔の念、つまり否定的な自己価値観は、異常なものとは認識しづらい。自己価値観がいつのまにかネガティブに変わってきていると、いつのまにかその自己否定感に吞み込まれてしまい、自分の病的な変化として気が付きにくいのだ。

以上抜粋。

本書でキャリア官僚として身を削るように精進してきた恵一郎の心の動きが説かれているが、私自身が抱えてきた重荷が自分自身だけのものではないとぼんやり理解でき、言語化された感覚により、状況を客観的に見直す機会にはなった気がする。

医学博士であり、臨床現場でも多くの患者を診てきた精神科医の生の声に触れられる良書だと思う。

精神疾患と言っても千差万別であり、攻撃性や情動制御不全などパーソナリティや生い立ちにも大きく左右される部分も多く、医療や福祉をもってしても解決が難しいものも多いことは再認識できた。

読書状況:読み終わった 公開設定:公開
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感想投稿日 : 2024年2月6日
読了日 : 2024年2月6日
本棚登録日 : 2024年2月3日

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