2012年公開の米映画をアマゾンプライムにて。
日本では抱えるテーマの重さに公開がなかなか進まなかったらしいが、主演アラン・カミングの圧巻の演技に心揺さぶられる。
70年代のジェンダーや障害に差別や偏見が強く残っていた時代、ドラッグクィーンであるショーダンサーのルディと、クラブにふらりと立ち寄った検事のポールが互いに心奪われるところから物語が始まる。
恋に落ちる男性と男性。事の善し悪しというよりも、アラン・カミングがポールに心奪われる眼差し、逡巡、抑えきれない衝動が混在する様を卓越した演技で表現する。
そこに、母親が薬物中毒であり、ネグレクトの下育ったダウン症の少年マルコの存在が2人の間柄に新たなドアを作る。
男性と男性による、ダウン症の少年の養育。他人同士が家族となり、時と経験を共に重ねる。
70年80年代のアメリカは、トム・ハンクス主演の『フィラデルフィア』でも呈されるよう、同性愛は異端で忌み嫌うものという扱いが当然であり、本作ではさらにネグレクトの障害を持った子どもを養育するという"beyond tuff"という最難関に司法の場で2人が臨んでいく。
何が正しくて、何が間違っているのか。
差別がいけないとか、多様性は受け入れなければという、通り一遍のお題目にとどまらず、人の心は異なる立場をなかなか受け入れられないものだなと痛感。
そして正しさの軸は、時により、人により、場所により変わり得るし、それぞれ異なることを再確認。
アランが演ずる時代や社会への憤り、自分が疎外されている怒り、一方でマルコに向けられる慈愛に満ちた温かな眼差し、ポールに心酔する目の表情や声のトーン、間が余すところなく表現されている。
ルディ、ポール、マルコ、3人の男性がともに暮らし、自分たちの居場所と心地よさを共有できたシーンには涙。
挿入歌も抜群。特に"come to me"が良かった。
アラン・カミングはドラマ”The Good Wife”、”The Good Fight"の選挙参謀役イーライで馴染みだったけれど、演技は言うに及ばず、歌も上手。
悲哀、怒り、喜び、慈しみ等、人間の感情の奥行きを見せてもらった。
- 感想投稿日 : 2021年8月10日
- 読了日 : 2021年8月10日
- 本棚登録日 : 2021年8月10日
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