三匹のおっさん

著者 :
  • 文藝春秋 (2009年3月13日発売)
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本棚登録 : 6134
感想 : 1097
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◎ 本日のレビューは、さてさて親子の会話でお楽しみいただきま〜す!期待してちょんまげ!

さて美: パパぁ。この『ごほん』な〜に。
さてさて: 『ごほん』と言えば龍角散だな。
さて美: えええっ、いきなりオヤジギャグ言う歳になったのー。この瞬間にウィンドウ閉じた人いるよー。知らないよー。
さてさて: やばいなぁ。オヤジが出てくる本だから、つい。や、やり直そう。これは、有川浩さんって超有名な作家さんが書いた小説なんだよ。気になるなら貸してあげるぞ。
さて美: (パラパラめくる) なんだかすごく字が小さいし、分厚いよー。
さてさて: そうなんだよ。有川さんの本って出版社が違うと字の大きさがかなり違うんだ。この講談社出版ってところは妙に字が小さいね。
さて美: 読めない漢字もたくさんある。ふりがながふってあるものもあるけど、難しい漢字多すぎだよー。『疾しいところ』『竦み上がった』『呷るのかよ』『囓らせる』ってふりがなもないし読めないよー。
さてさて: 有川さんって、どうしてこんな難しい漢字使うのかなあって、パパもいつも思うんだ。他の作家さんでこんなこと感じる人あまりいないと思うんだよね。これはね、それぞれ『やましいところ』『すくみあがった』『あおるのかよ』『かじらせる』って読むんだ。漢字検定の勉強してるんじゃないんだけどね。
さて美: この本、パパはもう読んだんでしょ?だったら、どんなお話だったか教えてよ。
さてさて: えっ、パパ、そういうのは苦手だよ。
さて美: でもインターネットのサイトで気が狂ったように本のレビューを書きまくっているって有名だよ!
さてさて: どうしてそんなこと知ってるんだよ。
さて美: まあいいからさ。目の中に入れたら流石に痛いかもっていう可愛い娘の頼みなんだからさぁ。
さてさて: なんだそりゃ。まあ家族のコミュニケーションは重要だって、この本読んで思ったし、話してしんぜあげよう、でごじゃる。
さて美 : (面倒臭い親父だ) じゃあ、よろしく。
さてさて: さて美は定年って知ってるだろ?
さて美: おじいちゃんになったら会社を辞めなきゃならないっていうあれでしょ。
さてさて: そう。最近はその年齢が上がってきてるんだけど、この作品の主人公のひとりである清田清一さんはちょうど60歳になったんで会社を退職になったんだ。この人、自分家で剣道教室も開いていたんだけど、そっちも生徒がいなくなって一気にやることがなくなっちゃったんだよ。
さて美: そうなんだ。寂しそうだけど家族はいないの?
さてさて: 息子の家族と二世帯住宅に住んでるんだ。だから、定年退職の日に会社から帰ってきた日にお祝いをしてもらったんだよ。
さて美: なんだぁ、幸せそうじゃない。
さてさて: それがね。息子夫婦に、強引に還暦祝いの三点セットを着せられちゃったんだよ。
さて美: それ知ってる。うちもおじいちゃん着てたよね。赤いやつ。喜んでたみたいに思ったんだけど。
さてさて: 人それぞれじゃないかなぁ。清一さんは『カチンときた』みたいだよ。さらにね、息子夫婦が余計なことを言っちゃったんだよね。
さて美: 余計なことって?
さてさて: 剣道教室は生徒がもういないんだから、道場を潰して何か教室とか、お店に改造しないかって。
さて美: 道場なんて使わないんならそれでいいんじゃないの?
さてさて: いや、ダメなんだ。この親子何か確執があるみたいでさ。『呆気に取られて』清一さんが何も言わなかったら、清一さんの奥さんが『貴子さんがお店だか教室だかやりたいわけ?』という感じで『戦闘モードに突入』したんだ。
さて美: この息子の奥さんに何かありそうだね。
さてさて: そうなんだ。それで清一さんは『俺が死んだら、自分の好きなように使いなさい。しかし、せめて俺が死ぬまでは待ってくれんかね』と言ったっきり黙って家を出て行ってしまったんだ。
さて美: 最悪じゃん。でも、お父さんも昔よくおじいちゃんと揉めてたよね。
さてさて: 余計なことは言わなくてよろしい。えーっと、よくわからなくなったじゃないか。
さて美: 清一さんが家を出て行ったってとこからだよ。
さてさて: ああ、そうそう。それで清一さんは近所の馴染みの『酔いどれ鯨』って店に行くんだ。その店は清一さんの友だちの立花重雄って人が元大将の店なんだ。重雄さんは清一さんの落ち込みぶりを見て、有村則夫さんって人も呼び出して一緒に清一さんを慰めてくれたんだよ。
さて美: 仲のいい友だちなんだ。その三人って。
さてさて: そうなんだよ。それでその日は深夜まで呑んでお開きになった。で、その次の日なんだけど、その重雄さんが清一さんのところにやってきて『昨日、お前の愚痴聞きながら思ったんだけどよ。まだジジイの箱に蹴っぽり込まれたくねぇなぁと思ってよ。まだまだおっさんの箱に入っときたいと思うわけだ』って言うんだ。
さて美: 何か思いついたんだろうね。
さてさて: そうなんだ。ニヤリと笑って『「三匹の悪ガキ」のなれの果ての「三匹のおっさん」どもで、私設ボランティアでもやってみねぇか』って、提案したんだよ。
さて美: あっ、それって本の名前だ。
さてさて: そう。最近街が物騒になってきてるから、三人がボランティアで『私設自警団』みたいなことをはじめようと決めたんだ。
さて美: 正義の味方だあ。カッコいいかも。でもおじいさんばかりじゃ頼りになるのかしら。
さてさて: それが違うんだ。清一さんは剣道の師範代で、重雄さんは柔道が強いんだ。で、則夫さんは頭脳明晰。強力なトリオ誕生だよ。
さて美: でも、普通の街でそんなに何かが起こったりしないでしょ?
さてさて: そんなことないよ。世の中物騒だからね。この本は6つの章でできているんだけどさ、それぞれの章で事件が起こる。
さて美: 事件って大袈裟だね。例えば?
さてさて: 連続痴漢事件とか、オレオレ詐欺まがいの××詐欺とか。
さて美: ××詐欺って何?それじゃあわかんないよ。
さてさて: 言えるわけないだろ。ネタバレになるじゃないか。ネタバレと二度漬けは禁止だからさぁ。
さて美: 何それ、ここは串カツ屋じゃないし、しかもそのギャグ、パパ、前にも使ったよ。
さてさて: パパの自慢の持ちネタなんだからいいじゃないか。それにもし過去に使ったの覚えてくれてるフォロワーの方がいらしたら涙もんだよぉ。
さて美: パパ、脱線してるよ。もうかなり長くなってしまってるんだから。
さてさて: そうだね。ごめん。それで他にも、モデルスカウト詐欺とか、健康グッズ詐欺とか、いろんな事件に足を突っ込んで、一つひとつ解決していくんだ。これが面白い。
さて美: でもおじいさんばかりの小説って、なんだか私には関係なさそうっていうか。
さてさて: そうでもないぞ。清一さんの孫の祐希、それから重雄さんの娘の早苗っていう高校生も出てくるんだ。
さて美: 片方は孫で、片方は娘ってなんだか変だね。
さてさて: そうなんだ。どうしてそうなのかは読んでのお楽しみ。それと、二人の関係がモニョモニョモニョとなっていくんだ。いいねえ、青春だよぉ。ここではハッキリとは言えないけどね。
さて美: ネタバレと二度漬けは禁止だもんね!
さてさて: そうだ!さすがはパパの娘だ。理解が速いねぇ。
さて美: あとは何かないの?
さてさて: 007じゃないけど、秘密兵器というか、秘密道具が登場するんだ。
さて美: えっ、なになに?それ。
さてさて: 『盗聴探知機〜!』、『ルミノール調合液〜!』、『高電圧大電流銃〜!』
さて美: う〜ん、007じゃなくて、それってドラえもんだよぉ。でも、なんだか面白そう。自分でも読んでみたくなったかも。
さてさて: それでよろしい!では、最後にもう一つ。この作品がいいなって思うのはそういったエンタメ的面白さと、同居する様に有川さんらしいメッセージがきちんと入っているところだと思います。
さて美: な、なに?急に真面目になっちゃって。あっ、流石に長いと空気読んだから、レビューを締めたいのね。じゃあ、あとよろしくね、真面目パパ!ママと先にご飯食べてるから!
さてさて: 第四話で、学校を舞台にある事件が発生します。三人の連携プレーで見事に事件を解決するおっさんたち。でも、その結末はとても後味の悪いものになりました。有川さんは、ここで清一の語りを通して『閉じた輪の中』という問題提起をします。一般社会から閉ざされた学校という閉じられた世界。世論の声に押されて、以前よりは外に開かれてきたものの、その開かれ具合は今も揺れたままだと思います。何に公権力の介入を許し、何は教育の名の下に守らなければならないのか、『守るための閉鎖と守るための解放、世間はどちらかを決めかねてその隙間から悪意の手が子供をつまんでいく』という皮肉。『閉じた輪の中』をどうしていくか、大人が迷っている間にも悪意の手が学校現場を襲っていく現実。そして、『安全に正しく育てようとしながら何かが歪んでいく』という悪循環。さらには萎縮した学校現場を象徴するように『閉じた輪の中に更に閉じようとする輪』が生まれてきてもいる学校現場。作品全体の中でも、この箇所は、清一さんの向こうに有川さんの姿がはっきりと浮かび上がるのを感じるとても印象的な展開でした。

ここでは学校現場のことを一例として取り上げましたが、この作品で描かれた世の中に巣食う数々の犯罪は我々の社会のそこかしこで問題になっているものばかりです。そんなリアルな社会問題を、三匹のおっさんが大活劇的に大立ち回りで一つひとつ解決していくというこの作品。エンタメ的なわかりやすい見せ方をとることで、難しい問題を一見とっつきやすくして読者のハードルを下げます。でも、その芯に描かれているのは、現代社会が抱える極めてシリアスな問題であるというこの落差に読者は驚かざるをえません。

『イマドキのお年寄りって若いよなぁ、と思ったことがこのお話のきっかけ』という有川さん。三匹のおっさんが活躍する場がなくなることが理想社会、でもまだまだ彼らに引退の二文字が浮かぶ日は来ないでしょう。
絶妙な構成の妙にすっかり夢中にさせられた読書、読み味スッキリのとても楽しく痛快な作品でした!

読書状況:読み終わった 公開設定:公開
カテゴリ: 有川浩さん
感想投稿日 : 2020年6月23日
読了日 : 2020年6月22日
本棚登録日 : 2020年6月23日

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コメント 2件

アールグレイさんのコメント
2021/03/07

さてさてさん、3匹のおっさんは本当に痛快でした。感想文を読ませて頂いたところ、
さてさてさんはパパさんですか?(^_^)

さてさてさんのコメント
2021/03/07

ゆうままさん、鋭いです。
はい、パパさんです(笑)ただ、これはあくまで創作ですから(汗)。

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