ワン・モア・ヌーク (新潮文庫 ふ 58-1)

著者 :
  • 新潮社 (2020年1月27日発売)
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本棚登録 : 447
感想 : 51
4

現代東京、しかも時は2020年3月。
東京オリンピックを目前に控えた国内の混乱を具体的に描写しており、舞台描写はこの上なくリアル。
対して、そこで展開されるイスラム圏やCIAを巻き込んだストーリーは壮大で。
このリアルさと壮大さのギャップにイメージを刺激される。

突っ込み処はいくつもある。
例えば女犯人、超人過ぎ問題。
この人が本気出したら大統領選に出馬しながら自前でロケットつくりそう。
また例えば警官・科学者ペアの、察し過ぎ問題。
あの情報範囲からテロ犯の動機と分裂を見抜くのは第六感に近い。
世界を混乱に陥れ、日本経済に壊滅的ダメージを与えた犯人に、この人たちは事件による死者の「数」を日常のそれと比較して慰めたりもしている。
余波を思うと絶対そんな場合ではない。

ただこうしたザラザラした違和感を呑み下して先へどんどん読み進めるほど、魅力的な物語ではあった。

その魅力の主軸になっているのがおそらく、先述のリアルさに込められたメッセージ性。
3.11以降の原発問題や9.11以降のイスラム圏テロリズム勃興、隣国での核実験と人権侵害など、現代日本が抱える社会問題が多く織り込まれている。
読み進む程に、「我々日本人」は、「日本人だからこそ」、核・原爆を遠い国や過去の問題とせず、原発問題を過ぎ去った出来事としないで、学び続けねばならないと思いを強くする。
読後に余韻を引く物語。

読書状況:読み終わった 公開設定:公開
カテゴリ: 未設定
感想投稿日 : 2023年8月19日
読了日 : 2023年8月19日
本棚登録日 : 2020年3月6日

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