超限戦 21世紀の「新しい戦争」 (角川新書)

  • KADOKAWA (2020年1月10日発売)
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借りたもの。
現代戦争が「ハイブリッド戦」――多次元作戦――となることを的確に指摘した良著。
国家の総力戦を体現したWWⅠ,Ⅱ、ハイテク戦を駆使した湾岸戦争を経て、現代の戦争がどの様に行われるかを的確に分析した一冊。
この本が20年以上前に中国で出版されていたこと。アメリカではすぐさま英語翻訳版が軍上層部に配られたこと……この事実を重く受け止める。

(他の方のレビューによると、多少の齟齬があるとの事だが)丁寧に各国の特筆すべき戦争史をも分析し、時代ごとに兵器や戦略の革新があったことをふまえ、現代戦に話を持って行く。素人の私には流れを知るには良かった。

兵器の「慈悲化」傾向――戦争の目的は兵士を殺すことではなく、敵の中枢にいかに早く打撃を与えるかという気づき――が高まり、兵士損耗を避けるため、ハイテク戦の有用性を見せた湾岸戦争。
兵器のハイテク化だけの話ではない。
兵器革命はアメリカが提唱した、統合戦役の軍事、軍需に留まらなくなる変化を促す。戦争に合わせた兵器開発ではなく。
戦争は外交手段の一環だが、より明確な区別は無くなる。外交のための戦争は、戦争のための外交にもなることを。

「誰が」「どこで」「何のために」「どうやって」戦うのかが変化することを指摘。
それを経て、「武力と非武力、軍事と非軍事、殺傷と非殺傷の手段を含むすべての手段によって、敵を強制して自分の利益を満たす(p.84)」 ことが現代戦争では求められることを指摘。

【非軍事の戦争行動】
金融戦、貿易戦、、生態戦(天災、環境破壊などを利用したもの)

【軍事】
核戦争、通常戦、生物化学戦、生態戦、宇宙戦、電子戦、ゲリラ戦、テロ戦

【超軍事】
外交戦、インターネット戦、情報戦、心理戦、技術戦、密輸戦、麻薬戦、模擬戦(威嚇戦)

【非軍事】
金融戦、貿易戦、資源戦、経済援助戦、法規戦、制裁戦、メディア戦、イデオロギー戦
新テロ戦(最新技術を使った、伝統的手法とは異なるものを用いたもの / p.80)

これらを組み合わせ(超領域的組み合わせ、戦場の組み合わせ)、´どの領域を主戦場として選べば、戦争目標の実現のために有利になるかを考える(p.266)’。
前世紀までの正面対決、武「力」による現状変更だけではない。

2014年、ロシアがクリミア半島を“合法的に”併合したは、この超限戦の有用性を証明した。
ウクライナの該当地域にロシア人が多くいた事、ウクライナの国防にも関わるネットワークインフラをロシアに握られていた事……それらが布石となり、要衝の港を抑えられた上に住民投票の結果、ロシアに併合された。

読書状況:読み終わった 公開設定:公開
カテゴリ: 国防 / 軍事
感想投稿日 : 2022年5月22日
読了日 : 2022年5月22日
本棚登録日 : 2022年5月10日

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