はじめてのゲーム理論 2つのキーワードで本質がわかる (ブルーバックス)

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  • 講談社 (2012年8月20日発売)
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感想 : 3
4

ゲーム理論。ある程度聞きかじってはいたが、大そうに語るには知識が不足であることを実感し、ブルーバックスの入門書を購読。

戦略的思考を行う上で、ゲーム理論が必要不可欠なツールであることが理解できた。

一方、内容は容易な部分から難解な部分までグラデーションがあり、全てを一読で理解するのは難しい。特に量子ゲームは量子力学の理解の及ぶ範囲までしか分からなかった。

ナッシュ均衡やパレート解析の正しい定義は本書で知ることができた。ついでに再読して、囚人のジレンマでは「互いに自白」がナッシュ均衡と知られていて、それは揺るがないことも分かった(「互いに黙秘」がナッシュ均衡になるのは例題の利得表が囚人のジレンマじゃないやつ)。

「互いに黙秘」はパレート効率が最適だが、相手が黙秘すると分かっている場合、自分は「自白」を選べば無罪放免だから「黙秘・黙秘」はナッシュ均衡ではない。

では、どうすれば「黙秘・黙秘」を皆が選んで幸せになれるか。

普通の道徳感覚では、「みんなが善良な人間になって理性的にパレート効率を高めればいい」となる。が、ゲーム理論では直接はそういう考え方をしない。

人の行動を変えたければルールを変える。どう変えるかはゲーム理論で考える。これがゲーム理論。

人に特別な善良さや良心や自制や努力など、そういった資質やコストを安易に求めない。人の感情や道徳意識は一種の関数として考慮する。

囚人のジレンマ問題で「黙秘・黙秘」が選ばれる方法は、繰り返し囚人のジレンマで進化的に安定な戦略(ESS)としてしっぺ返し戦略が知られている。これは相手が「裏切り」をしない限りは「黙秘・黙秘」のパレート最適解を選び続ける。しかし、相手が裏切れば、次の一回だけは「自白」を選ぶ。

本書は繰り返し囚人のジレンマについては触れておらず、上記はリチャード・ドーキンスの『利己的な遺伝子』が詳しい。この本にも書いてあってもよかったとは思う。

ルールを変えて人を動かす、はすなわち政治。政治への応用として選挙に関する問題が出ている。ここでは不可能性定理から選挙で民意を完全に政治に反映することはできない、とある。

不可能ではあっても、可能な中で最善は尽くせる。そのためのツールがゲーム理論として整理されているということ。

政治的イデオロギーに執着し、敵対勢力を攻撃して相対的に自分たちの陣営を有利にしよう、などという一部の「政治的活動」とはまったく次元の違う政治の研究がここにある。

貨幣と商品の等価性というルールが厳然とある経済も当然ながらゲーム理論の応用範囲。

政治や経済の分野でゲーム理論で検索すればじっさいに相当数の論文を読むことができると思う。

その他、人工知能のディープラーニングのアルゴリズムにも組み込まれていると聞く。

理論モデルを作れば容易にコンピュータで検証できる。ゲーム理論は実は古くから同じ考え方があった。それが戦後理論化されて今に至る。この古くて新しい世界はとても気になる。時間があれば自分でシミュレーションしてみたいくらい。

(紙版にレビューしたものを電子書籍版に移植しました)

読書状況:読み終わった 公開設定:公開
カテゴリ: 科学
感想投稿日 : 2019年9月19日
読了日 : 2019年9月19日
本棚登録日 : 2019年9月19日

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