方法序説 (ちくま学芸文庫 テ 6-3)

  • 筑摩書房 (2010年8月9日発売)
3.77
  • (12)
  • (28)
  • (18)
  • (4)
  • (0)
本棚登録 : 615
感想 : 38
4

これまで飲茶氏の著作に代表されるような、哲学に関する読みやすい入門書を好んで読んできたが、代表的な古典哲学の訳書も読んでみたくなり、まずは読んでも疲れなさそうなボリュームで、かつ近代合理哲学の出発点ともいえるデカルトの『方法序説』を選んでみた。ページ数では岩波文庫版が一番少ないのだが、単に日本語訳されたものではなく解説が充実しているものが良かったので、山田弘明氏訳のちくま学芸文庫版にした。

本書の特徴は、充実した解説だけでなく、読みやすさを意識した構成である。具体的には、要点が一目瞭然となるように、序文にしたがって訳者の判断で表題が付けられ、さらにそれをいくつかの節に分けたうえで小見出しも付けられているため、自分のような初めての読者にとっても非常に読み進めやすい。

50歳目前にして、デカルトに関しては、高校の倫理の教科書や哲学の入門書に述べられていること以外は全くといっていいほど知らず、『方法序説』の存在すら知らなかった。有名な「われ思う、ゆえにわれあり(コギト=エルゴ=スム)」の言葉は知っていても、その真の意味するところやどのような経緯で生まれた言葉なのかなど、本書を読むまで知る由もなかった。

『方法序説』の研究や解説は数多くなされているため自分なりの解釈などは控えるが、本書を読んで率直に感じたことは、執筆時の若きデカルトの意外なまでの行動力と精神力であった。とかく歴史に名を刻む近代哲学者に対しては、内省的で内にこもりながら自分なりの哲学を構築していくイメージが強く、実際にデカルトも軍人として冬営地に留まった際、炉部屋にひとり閉じこもりながら存分に思索に耽ったことで、4つの規則(明証の規則、分析の規則、結合の規則、枚挙の規則)を導き出している。
しかしながら青年期のデカルトは、当時の学問に対して批判的な立場をとりながらも、部屋に引き籠もって同じ場所に留まって考えるだけでなく、長い時間をかけて旅をし、時には他国に移り住みながら自身が発見・構築した理論をひとつひとつ丁寧に検証していくという行動的な側面を持っている。しかも、4つの道徳的格率を己に課し、それらを頑ななまでに守り抜くという強い精神力(理性)を併せ持っている。
つまりデカルトは、自身が切り拓いた学問の地平を、実社会における実践知にまで昇華して役立てるものとするために、強固な理性を基盤にして意識を内と外に向けつつ思考を極限まで研ぎ澄ませたからこそ、「われ思う、ゆえにわれあり」という究極的な思考の境地に辿り着いたのではないだろうか。

『方法序説』においては、いわゆる「神の存在証明」や、後半に述べられている自然学の諸問題に関して、論理が飛躍し過ぎていたり、現代の常識からすると解釈が誤っていたりする部分があることは否めない。ただ自分の高校時代を振り返ると、カタカナ用語が乱発する倫理の授業は苦痛で仕方なく、単なる面倒くさい暗記科目としてしか捉えていなかったが、VUCA時代といわれる現代だからこそ、ブレない道徳観や格率に基づいて学問を再構築しようとした、デカルトの愚直なまでの姿勢に学ぶことは多いのではないだろうか。
改めて古典哲学を学ぶことの意義を再認識できた一冊であった。

読書状況:読み終わった 公開設定:公開
カテゴリ: 哲学
感想投稿日 : 2022年9月7日
読了日 : 2022年9月4日
本棚登録日 : 2022年3月11日

みんなの感想をみる

コメント 0件

ツイートする