「原因と結果」の経済学―――データから真実を見抜く思考法

  • ダイヤモンド社 (2017年2月16日発売)
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感想 : 30
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比較統計の大切さを解説した本です。あなたの周りの物知りが、「これは、統計的有意だね」とか言ってきたら、「具体的にはどの程度の誤差の有無をいうのですか?」と聞いてみよう。「5%以下」と即答できれば本物です。ちなみに、5%とはコインの表が4回連続して出る確率(6%)と5回連続(3%)の中間です。
本書では、我々の生活に直結する多くの政策(例えば、ゆとり教育)が、厳しい事前の統計的比較を検証せず、安易に進められ、結果失敗してもだれも責任を取らない状況に警鐘を鳴らしています。(P112)
また、「女性取締役の数を増やせば、企業価値が下がる(ニュージーランドでは女性取締役を10%増やすと、企業価値は12.4%低下)」という統計的事実は背景を知れば納得できる。取締り役員の女性比率を上げるという数値目標に縛られて経験不足で資質に欠ける女性の登用が増えたことに起因しており、少し前に盛んに言われた政府の「女性活躍社会」のスローガンの危うさを指摘。そもそも男女関係なく、働き方の柔軟性を高め、性別によらない公平な評価と報酬制度を構築するという労働環境整備の必要性を訴えています。(P129)とはいえ、経験値の少ない女性役員が多いという実態の原因は、女性に活躍できる機会を与えなかったからともいえ、そうなると鶏と卵のどちらが先かという議論にもなりそう。
また、気になった個所もいくつかありました。
「女性医師が担当すると患者死亡率が低くなる」その理由は、女性医師の方が診療ガイドラインに忠実で患者との密なコミュニケーションによる予後の回復の差にあるのではというところまではいいのですが、その後、「アメリカでは女性医師の方が男性医師よりも給料が安く、昇進が遅いことが社会問題となっている。この研究からも、女性医師の方が質の高い質の高い診療を行っていることがわかってきている」という説明(P83)はまったく意味不明です。
そして、「学力が高い友人に囲まれても自分の学力は上がらない」では、「自分の実力を棚に上げて、周囲の友人に過剰な期待をしてはならないということなのかもしれない」(P137)と結論付けていますが、「自分の実力の棚上げ」が前提であればどんな環境でも努力しないわけだから命題自体が無意味です。学力の高い友人のいる環境のメリットは、効率のいい勉強の仕方を身近で参考にできることや、静かに勉強できる環境(悪友がいない)や学校自体の高度なカリキュラムや優秀な先生の存在なども含めると、勉強へのやる気と環境は大きく違います。要は「勉強する努力」の有無で、結果はまったく違ったものになると思われます。現に、筆者も「学力の高い友人と付き合う因果関係に迫った研究では、同様(学力が上がらない)の結論に至っているものも多い」(P136)と書いているように、少なからず反対(学力向上)の結論の研究もあったはずでしょう。
統計設計や統計効果を吟味するのに慎重であるのはもちろん、出てきた結果についても評価は慎重であるべきだと痛感させられました。

読書状況:読み終わった 公開設定:公開
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感想投稿日 : 2020年8月30日
読了日 : 2020年8月30日
本棚登録日 : 2020年8月30日

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