雑誌『考える人』の編集長であった河野通和さんによるメールマガジンから、精選された37のエッセーをまとめた本。
明治の出版社草創期の辣腕編集者たちの生き様を紹介する回もあれば、その編集者たちと作品をやり取りしていた作家たちの姿を描写する回もあり、いわゆる「書評」を綴る回もある。出版業界の歴史を振り返る回は、こういう時代があったのか、という印象深いエピソードが盛りだくさんで、小説作品そのものは知らなくても、作家の素顔を垣間見ることができるという面白さもある。
書評の回も、単にその本の中身について触れるというのではなく、その本を書いた作家の姿や、その本からどういう物語が引き出せるのかを丁寧に述べていて、一冊の本を題材にさらにほかのストーリーを楽しめるようになっている。恐らく、意識してそうしているのではなく、河野さんの言葉の選び方、文章の綴り方が卓抜していることで、読む側が一気に引き込まれていく心地よさを生み出しているのだと思う。
「書評の本」とは言えず、「出版業界の歴史の本」とも言えず、「作家の素顔を伝える本」でもない。そのすべてが入っていて、そこから付随するほかの物語も読める。図書館でジャンル分けする時に苦労しそうな本だが、「本」が好きな人なら、きっと贅沢な娯楽として楽しめる本。
読書状況:読み終わった
公開設定:公開
カテゴリ:
随筆
- 感想投稿日 : 2023年2月11日
- 読了日 : 2023年1月4日
- 本棚登録日 : 2023年2月11日
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