恩師の条件: あなたは「恩師」と呼ばれる自信がありますか?

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  • リヨン社 (2005年4月1日発売)
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感想 : 10
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全国でも有数の名門校である灘中学校・灘高等学校で国語の教員を務めていた橋本武。「銀の匙」を使って三年間授業をしたということでメディア等で取り上げられた「名人」的国語教師である。本書は彼の教え子である黒岩祐治が、彼の授業を回顧しつつ、日本の教育に提言をする、という体裁の本。

「スーパー教師」の授業というのは「凄いなあ」とは思うけど、実際に真似のできるものではない。でも、同業者としては、やっぱり気になる。ましてそれが名門・灘の先生だとなれば。で、古本で読んでみたのだけど、「銀の匙」についてはたしかにユニークな授業だなと感心した。

それは、一言で言うと、「銀の匙」に出てくる言葉について注釈をしていく、しかも体験的に注釈していく授業なのだ。本の中で「百人一首」が出てきたら皆で百人一首大会をする、駄菓子が出てきたら駄菓子を食べてみる、というふうに。

こういう授業を本人は「脱線」と言っていたらしいが、それは生徒の手前。訓詁注釈は国文学の基本だろう。それを体験的に生徒に伝えようとしていたのだと思う。脱線のようで、学問の王道を言っていたと言える。だからこの人の授業は徹底して「言葉の授業」だったのだなと感嘆した。

「銀の匙」以外の授業(古典の暗誦や作文指導)についても紹介されていたが、課題本や生徒のレベルの高さへの感嘆を別にすれば、同業者の目から見ると、そこはさほど感心するほどでもない。ちょっと賛美しすぎなのは教え子の御愛嬌と言うべきだろう。

いずれにせよ、たしかなことは、彼のような授業には、不可欠の外的条件があるということだ。それは、教員の創意工夫が許される環境であること。残念ながら、いまの学校現場全般には、それが欠けている。したがって、灘という特殊な環境におけるスーパー教師を例にしても、教員は変わらない(変わりようがない)。変わるべきなのは、人ではなく、システムである。

読書状況:読み終わった 公開設定:公開
カテゴリ: 未設定
感想投稿日 : 2010年12月25日
読了日 : 2010年12月25日
本棚登録日 : 2010年12月25日

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