メモリアル病院の5日間 生か死か―ハリケーンで破壊された病院に隠された真実

  • KADOKAWA/角川マガジンズ (2015年4月24日発売)
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感想 : 6
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以前から「読みたい」に登録はしていましたが、Apple TVでドラマ化されたのを機に読んでみました。
500ページくらいのボリューム(それでも日本語版は抄訳らしい)ですが、あっという間に読んでしまいました。
トリアージという、非常時における「最大幸福」とは何か?について考えさせられる内容です。
神ならざる身の人間が人の生死を分けていく。その判断基準は何か。
残された患者たちは蘇生処置の拒否を申請していたとはいえ、病気ではなく外的要因で生命の維持が難しくなった場合にも果たしてそれは有効なのか。
医療従事者の職業倫理とは何か。
災害時の倫理基準において
「「災害時においては、利用可能な治療リソースで対応できない状態の患者は「緊急医療処置の対象外」と分類し、医師はあらゆる犠牲を払ってその命を維持するのではなく、患者に思いやりを示し、その尊厳を守る措置をとらなければならない。たとえば、他の患者と分離し、鎮痛と鎮静の処置を施すことである」
と規定されているものの
「医師たちの目的は、患者を助けることであって、彼らをみじめな状態から抜けださせたいと自分たちが望むゆえに患者を殺すことではない」
という意見もあり、どちらか一方が正しいとは言いがたいところがとても難しい問題だと思います。

病院内での混乱と同時に外部の様子も書かれていますが、略奪やら銃撃やらでこちらもまた地獄絵です。
我が国も自然災害国ではありますが、略奪はともかく銃撃というのは日本の被災地ではまず見られない光景です。避難も命がけですね。

巻末に「重いプレッシャーのもとでは、どのように行動すればいいのかわからなくなりやすい。それでも私たちは少なくとも、自分たちがどのような決断をしたいか、前もって考えておくことはできるはずだ。」とあります。
例えば、仮に我々が被災者になった場合、自分たちの生命を維持するための略奪は許されるか、優先権を主張することは許されるのか、自己防衛のための攻撃は許されるか等、平時では考えもしなかった決断を迫られる状況におかれる事になるかもしれません。先の略奪や銃撃もそうした判断に基づいての行動であったかもしれません。しかし、水や食料の準備はできても、こうしたモラルというものは個々人の資質によるところが大きく正解がないだけに、日ごろから心づもりをしておく、というのはなかなか難しいことであると感じます。

読書状況:読み終わった 公開設定:公開
カテゴリ: 未設定
感想投稿日 : 2022年9月11日
読了日 : 2022年9月11日
本棚登録日 : 2015年6月14日

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