小さな港町の高台に、12歳の少年マイロの養父母パイン夫妻が経営している小さなホテルがある。
例年クリスマス前には宿泊客もほとんどなく、家族とゆっくり過ごせることを楽しみにしていたマイロだが、今年に限ってはなぜか次々に宿泊客が訪れる。しかも、彼らはそれぞれホテルに関わる秘密を抱えているようだ。マイロは、ホテルの料理人キャラウェイ夫人の娘、メディとともに、それらの秘密を一つずつ探っていく。
本書は二つの大きな要素で構成される。一つは、かつて有名な密輸人が住んでいたというホテルにまつわる謎と宿泊客の謎を解き明かしていく冒険ミステリの要素である。
マイロの家族が経営するホテル「グリーングラスハウス」は古い建物で、各階にはめられた大きなステンドグラスや、ほとんどだれも足を踏み入れない屋根裏の物置、といったわくわくアイテムがここかしこにちりばめられている。
さらに、宿泊客の誰かが落とした古い海図や、大雪の夜に宿泊客が語る古い伝承、ホテルで起こる不可思議な盗難事件など、謎が謎を呼び、最後の大団円までスピーディに話を進めていく。
二つ目は、肌の色の違う養父母に引き取られたマイロが、見た目が違うことに対する引け目や実の父母を知りたいという葛藤など、複雑な心情を少しずつ自分の中で消化していく成長譚の要素である。
マイロとメディは、ホテルと宿泊客の謎を解くために、冒険ゲームのキャラクターになり切ることとする。理想の自分を想像し、それに近づこうとすることで、予定外の事柄にも冷静に対処し、現実の葛藤と折り合いをつけられるようになっていくのである。
あとがきを見ると、本書の著者は本当に中国人の子どもを養子に迎えるべく、準備を進めているところなのだそうだ。本書は、著者家族から未来のファミリーに対して、マイロの養父母パイン夫妻と同様あなたをいつも見守り愛していくよ、というメッセージも込められている。
クリスマスの夜にぴったりなハートウォーミングストーリー。
- 感想投稿日 : 2023年12月27日
- 読了日 : 2023年12月20日
- 本棚登録日 : 2023年12月27日
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