近年、地形とその性質を知らないまま開発された都市部や住宅地において、水害や土砂災害に被災するケースが増えている。
本書は、そのような事態に警鐘を鳴らし、歴史学と地理学を組み合わせた「歴史地理学」、特に景観の変遷を分析する「景観史」の視点から、地形がどのように成り立ち、日本人がどこでどのように暮らしてきたのかを紐解く。
人が多く住む平野部は、山地から平野への出口付近に形成される扇状地、その下流に、氾濫により土砂が多く堆積してできた微高地である自然堤防、その背後に広がる低湿地で形成される。
おもに河川によって作られたこのような自然景観に対し、人は、増水時の影響を受けにくい自然堤防に集落や畑をつくり、低湿地には水田や遊水地を設けるなど、人為的な文化景観を形成していった。
しかし、都市が形成されるにつれ、居住地はどんどん低地へと広がっていく。また、築堤技術が向上したことに伴い、沿岸には連続した堤防が築かれ、広く安価な低地には工場や商業施設、公共施設などが建設されるようになった。
さらに、海岸が埋め立てられ、圧密や地下水の汲み過ぎにより地盤沈下が起きると、河床が高くなって水害が起きやすくなる。それを防ぐため、より高い堤防が築かれていった。
本書は、自然による地形の変化(自然景観の変化)と、人為的な地形の変化(文化景観の変化)について説明し、強引な文化景観の改造により災害が起こりやすくなっている状況を明らかにする。
現代的なテーマで興味深い内容なのだが、話題が散漫してしまい趣旨が伝わりにくいうえ、最後は概念的な話でしめくくられるため、読み終わっても、かみくだけなかった異物が残っているような違和感を覚えてしまう。
また、できるだけ視覚的に理解できるよう地形図や古地図などを多数掲載しているものの、肝心の図は小さく、白黒なので地質の違いがわかりにくい。
新書という限られた字数、紙面の中で、できるだけ多くの内容を取り上げたい、という著者の思いが感じられ、テーマも興味深いだけに、構成をもう少し工夫することでもっと面白い本になったのではないか、と残念に思う。
- 感想投稿日 : 2022年5月8日
- 読了日 : 2021年11月13日
- 本棚登録日 : 2022年5月8日
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