弟は僕のヒーロー

  • 小学館 (2017年8月1日発売)
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感想 : 18
4

これから親になるかもしれない人は是非読んで欲しい。いい親がどういうものかわかるから。
若いときは自分の力で人生がどうにかなるものと思う。でも、どうにもならないこともあるということがだんだんわかってくる。子どもを持つこと自体、本当にそう。思い通りに行くことばかりじゃないどころか、どうにかしようとして親が頑張ると拗れて不幸を招くこともある。
この本は本人が書いているように、ダウン症や、ダウン症の子どもを持った家族のことを書こうとしているわけではない。(結果的にそういうところもあるけど。)
完璧な人間なんていない。ありのままを受け入れて愛することで、自分だけでなく周りも幸せにできる、というシンプルなメッセージが、心にストンと入ってくる。
とにかくね、ご両親が、素晴らしいの一言に尽きる。親が人間として立派なので、子どもたちもいい子に育つ。本当に、人間として見習いたい。
例えば、エリートとなった元同級生に、仕事は何してるのかと訊かれ(ビシッとスーツを着こなして、久しぶりに会った子連れのカジュアルウェアの相手に開口一番仕事のことを聞いてくるあたり、もちろんやなやつなんだけど)、「そうだなあ、メインの仕事は父親業だ。そのほか、空き時間には印鑑を押したり、収支報告書のミスを指摘したり、先生たちの機嫌をなおしたり、休み時間にはサッカーもする。(P245)」幼稚園の事務員をしていることがわかって「どうしてまた、そんな仕事を?」と言われると、「たしかに、楽な道のりじゃなかったね。(中略)大企業に勤めて、各種の福利厚生を受けていた時期もあった。でも、ようやくこうして希望が叶ったんだ」。家族を第一にしているだけでなく、ユーモアとアイロニーのある受け答えができる、優しくて面白い父親。最高では?
もちろん母親もいいんです。
弟の通う学校の先生もいい(「戦争」の絵に対する評価のエピソードはグッとくる)。
弟自身も魅力的だけど、ダヴィデというダウン症の少年の言葉も忘れられない。誰だって何らかの障害を持ってる。そのなかでダウン症はかなりいい。学校でいじめに遭ったこともあるけど、「おかげで僕は、僕のことをいじめる連中みたいに生まれてこなかったことを神に感謝するようになったんだ。だってそうだろ?あいつらの運命のほうがよっぽど悲惨だ。なんてったって心がないんだからね。そう考えたら、自分の一本余分な染色体に感謝できるようになったんだ。(P205)」さらに「たしかに僕は科学者にはなれないかもしれない。でも、僕ほどおいしいドーナツを揚げられる人はいないと思うよ」。こんな風に考えて生きたいと思わずにいられない。
ダウン症をはじめ、障害者は生まれない方がいいと思っている人は結構いると思うけど、そういう人にも読んで欲しい。こんな風に生きている人たちやその周りの人たちは不幸だろうか?障害がなくても不平不満を抱えていたり、他人を攻撃して溜飲を下げている人なんかよりずっと人生を楽しみ、他人にも笑顔を与えていると思う。
とても自然で、登場人物の人柄も伝わるいい訳だった。さすが関口さん。

読書状況:読み終わった 公開設定:公開
カテゴリ: 未設定
感想投稿日 : 2017年12月24日
読了日 : 2017年12月24日
本棚登録日 : 2017年12月24日

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