人食い: クラウス・コルドン短編集

  • さ・え・ら書房 (2001年12月1日発売)
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感想 : 2
4

児童文学の短編集で良いものは少ないのだが、これは良かった。
まだ、ドイツが東西に分かれていた頃の物語だが、今読んでも古臭くない。
「飛んでみたいか?」では、トルコに住む貧しい少年の憧れと絶望と希望を鮮やかに描いている。オスマンは空港の掃除夫をしている少年。毎日外国へ行くエリートたちを横目で見ながら、いつか自分も外国(先進国)に行きたいと夢見ている。父も毎日の生活費を稼ぐので精一杯のタクシードライバー、飛行機で外国へ行くお金があるはずがない。しかし誕生日が近づいて、父が「お前も飛行機に乗ってみたいだろう」と言った言葉に期待を抱き始める。もしかして、自分の為にお金を貯めているのでは?と。それだけに、父の心のこもったプレゼントにガッカリを通り越して、自分の未来の希望が全て消えてしまったような絶望を抱く。この短編がいいのは、最後に救いがあること。現状に満足しているように見えた幼なじみの少女も同じように未来に希望を抱けずにいること、彼女の振る舞いで父に向けた感情の誤りに気付き、少女と心を通わせることで、未来への希望がよみがえる。これは少年が大人になる瞬間を描いた小説なのだ。はじめ少年は自分の将来が暗いことは父を含めた大人の責任で、自分は犠牲者だと感じている。しかし最後の場面では、自分の将来を自分で変えていこうとしている。こういうことを短い枚数でさらっと書けるのは、相当な腕だと思う。
表題作、「一輪車のピエロ」も良かった。どれも深い余韻を残す作品で、こういう作品が教科書に載ったらいいのでは、と思った。読み飛ばさず、丁寧に読ませないと、普通の子どもには読み取りが難しいかもしれない。
表紙絵、挿し絵が、良くない。これでは今どきの子どもは手に取らないなあ。

読書状況:読み終わった 公開設定:公開
カテゴリ: 未設定
感想投稿日 : 2016年7月31日
読了日 : 2016年7月30日
本棚登録日 : 2016年7月30日

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