深潭回廊 (ポーバックス Be comics)

著者 :
  • ふゅーじょんぷろだくと (2020年2月23日発売)
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本棚登録 : 149
感想 : 8
5

▼あらすじ
人を放棄したくて、モッさんと呼ばれていた。
同性が恋愛対象であることに苦悩してきた柳田(やなぎだ)。
教師だった頃に生徒相手にレイプ未遂事件を起こす。
彼はその場から逃げて、逃げて、いつの間にかモッさんになっていた。
それは自分の過去も名前も捨てたのに、生き続けるしかない悲しい妖怪。
何もかもを失ったかのように思えたが一人の少年が手を差し伸べる。

痛くて愛おしい青春を描いた『スメルズ ライク グリーン スピリット』から7年。
あの時、こぼれ落ちてしまったキャラクターの物語。

***

ストーリーの完全度:非常に高い
トーン:シリアス・ダーク
エロ度:低い
萌え度:非常に高い
総合評価:★5.0

2014年度「このBLがやばい!」で第7位を獲得した名作「スメルズ ライク グリーン スピリット」のスピンオフ作品。
まさかスピンオフが連載されていたなんてコミックスの発売情報が出るまで知らなかったのでめちゃくちゃ驚いてしまいました。

今作は「スメルズ〜」で教師の立場でありながら教え子である三島に性的暴行を加えようとした柳田が主人公のお話です。
事件後に行方をくらました柳田は、あれから死に場所を探し求めて各地を転々としていたご様子。髪も髭もボーボーで目は血走り、その形相の恐ろしさから目撃した小学生達の間で「モッさん」という妖怪に仕立て上げられある意味有名な存在になってしまいます(笑)

このままではまずいと床屋で身なりを整えた柳田は見違えるほどのイケメンに大変身。おばさま達にちやほやされて愛想良く対応しながらも、一人になった途端に真っ黒に塗り潰される柳田のその鬱屈とした心情と二面性の描き方が圧倒的でさすが永井先生だと思いました。

死に場所を求めていたはずなのに気が付けば生きようととしている自身の行動の矛盾に悩みながらも貯金を切り崩しながらぼんやりと日々を過ごしていく柳田。周りに愛想良く振る舞いながらも相手に聞こえないように呪詛を吐くのも忘れません(笑)
そんな彼がある時出会ったのが、村の中学校に通う一人の少年、渚です。
入江でぼんやりとしていた柳田の前で突如海から上がった全裸の少年は柳田を見て、何を思ったのかにんまりと笑うのですが…この時の渚の妖しさと中学生とは思えない色気にゾクッとしてしまいました。

一方、そんな渚の顔を見た柳田はトラウマを刺激され、大いに動揺。その場から逃げるように去るのですが、後日また再会します。
渚は柳田が誰にも聞かれないように吐いていた呪詛を聞いてしまったのがきっかけで彼に興味を持ったみたいですね。
友達同士で馬鹿騒ぎする渚の様子は一見するとどこにでもいる普通の男子中学生なんですが、柳田に対しての態度がもうただの子供のそれじゃないんですよ。目つきといい表情といい魔性のそれなんです。

その証拠に、何と渚の方から柳田を襲います。
最初に襲い掛けたのは柳田の方なんですが、三島の時と違って今度はギリギリ自制して渚を逃します。
しかし、自らの意思で柳田の元に戻って来てしまった渚。「なんで…」と問う柳田に「辛そうだったから」と返した渚は、柳田の口から“南條くん”の話を聞きます。
「好きだったの?」っていう渚の質問に柳田は「憎んでる」と答えましたが、渚は多分、柳田が抱えている感情が憎しみだけじゃないって分かったんじゃないのかな。それとも、苦しむほど柳田に想われてる“南條くん”が羨ましくなって奪ってやろうって気になったのかな。

ともかく、その場で全裸になった渚は動揺のあまり動けずにいる柳田の上に乗っかってそのままエッチしてしまいます。
そんな直接的な描写はあまりないんですが、それでもめちゃくちゃエロく、興奮しまくりでした(笑)
渚は柳田を堕落させる美しい悪魔ですよ。柳田を食ってる感じがたまらなくエロくて、いいぞもっとやれって感じでした(笑)

こんなふしだらな事してるのに、学校では相変わらずやんちゃで子供っぽいイメージの渚。(そういうの大好き笑)
クラスメイトには「家に内緒でペットを飼い始めた」と説明して柳田に会う為に一目散に帰宅するのですが、そんないつもと違う渚の様子を離れたところから見ていた親友?の男の子が何やら思うところがありそうな気配…。
そして最後の方でその親友の父親と渚が肉体関係にあると判明。いや、まだ確定ではないんですけど多分そう。

渚は家庭も訳ありっぽいですし、本人もウリをしている事からかなり闇が深いキャラクターだと思われます。
正直、2巻はもっと苦しい展開になると予想しているのでここで満点評価にするのはどうなのかな…と思ったのですが、「スメルズ〜」の時から変わっていない永井先生の圧倒的な表現力に感動したのと、既に何度も読み返すほどストーリーが面白かったので満点評価にしておきます。

ただ、この作品…場合によっては心中ラストもありそうなのでそこだけが不安です。(ほら、海がある村だしね…?)
途中、どれだけ辛くてもいいから死ネタだけ勘弁していただきたい。メリバとかそういうんじゃなくて、この二人がちゃんと幸せになってくれますように。最後はハピエンである事を望みます。

読書状況:読み終わった 公開設定:公開
カテゴリ: サイン本
感想投稿日 : 2020年10月15日
読了日 : 2020年7月31日
本棚登録日 : 2020年7月31日

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