SUPER BOSS (スーパーボス)

  • 日経BP (2016年4月1日発売)
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感想 : 11
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☆☆☆☆『スーパーボス』(シドニー・フィンケルシュタイン)
☃現代の人材教育が「促成栽培ができ、教育投資が速く回収できるシステムに向かっていて、組織にdamageを与えるリスクの少ない者の数を増やすことを優先」している。
このような、人材育成の方向性の限界、誤りにいち早く気がつき始めた企業は、“スーパーボス”を社内のなかで発掘し、それをロールモーデルとして評価し、彼等に活躍の場としてのフリーハンドの領域を与え始めている。でも、それは人材開発に投資する余裕があり、人材の価値が企業の価値であるという信念をもとに従業員を見つめることのできる経営者を持つ企業に限られている。そしてそういった企業であっても、全員がスーパーボスのように振る舞い、実績をかさねづけることはできない。
スーパーボスの存在はそれに魅了された人々が、その憧れに近づくために必死でもがき、自分の能力の限界にぶち当たった時に発生し、開眼する各自の才能を掘り起こすことにこその目的がある。

この本は、「スーパーボス」を部下とのかかわりからの視点で、描き出している。各界の著名なスーパーボス及びその部下たちを多数取材して、そこに存在する共通の要素を著者の経験をとおして表現しています。
社会人として働いている読者であれば、ここに描かれているスーパーボスの一端を備えている上司に巡り会えた人も少なからずいることだと思う。社会人経験が浅い人のなかには、今まさにその環境に置かれていながら、気付くことができない人もいるかもしれない。
そんな人にとっても、これから揚げる幾つかの
、スーパーボスと部下たちの関係を描いた描写に暑いものを感じ、心の隅にポスターの様に貼って、スーパーボスとの出会いを楽しみにしてもらえたらと思う。

・スーパーボスは自信に溢れているので、知性と創造力に優れた押しの強い部下に驚異を感じることも、追い越される可能性を意識することも全くない。自分よりも優秀な部下がいてもなんとも思わない、そもそもそんな人間がいるという考えを持っていない。
スーパーボスは自己意識が強いので、どれほどレベルの高い能力を見せられてもぐらつくことがない。そればかりか、新人からの挑戦を楽しみにさえする。その挑戦が優れた洞察に裏付けられている場合は特にそうで、自分の理解が深まり、、能力が上がり、より良い解決策が浮かぶきっかけになれば、ありがたいと考える。

・『ルールを変え、リスクを恐れず、高い目標を達成しようと本気で考え、部下を参加させようとする上司のもとで働いているときは事情が違う。そうした上司から指示を受けたり、力強く叱咤激励されたり感化されたりすると、『プレッシャーのような重荷ではなく、きわめて重要な使命の一端を担っている実感』だと受け止める。このプレッシャーは生きがいになり、部下も上司と同じように使命に没頭することになる。
つまり、有能な部下に不可能なことをさせる秘密は、『スーパーボスが大きな期待と向上心を兼ね備えている』ことにある。スーパーボスのもとで部下は、【業績を上げる正のスパイラルが発生する。強烈な環境で生き残り、成長することに慣れると野心が膨らむ。成功が病みつきになり、さらに困難な業務を求めるようになる。そしてスーパーボスの期待どおりかそれ以上の成果をらあげることに快感を覚え、それを何度でも繰り返したくなる。スーパーボスにもっと近づいてインスピレーションとエネルギーを得たいと考え、スーパーボスの近くにいる為ならなんでもする。プレッシャーが成功を呼び、成功すれば称賛され、称賛を受ければ自信がつき、自信がさらなる成功につながるという好循環だ。』

・部下の存在理由は「仕事を終わらせること」だけではないし、マネジャーの役割も監督することだけではない。会社を成長させる長期的なアイデアを協力して見つけるのがあるべき姿だ

・部下を信じていないせいで権限移譲におよび腰なマイクロマネジャーと、真剣さや能力がないせいで仕事を丸投げするフリーライダーではなく、【関与型権限移譲】を遂行する。効果的に仕事を部下に任せられるのは、細かいことに目を光らせているからなのだ。また、明確なビジョンを共有しているのでチームメンバーは基本を正しく理解するという確信がある。

・スーパーボスが最終的に部下に求めるものは、学習と成長を日々意識して、自分の責任で能力を開発するレベルまでステップアップすることだ。
許可を求めるような部下は「木になったまま枯れた」ブドウのようなものだ。「水をかけてくれないと育ちません」という態度の社員と、「木からなんとか水分を吸って育ちつづける」社員とが存在した。

・スーパーボスのビジョンについていくと決めた部下たちは、ビジョンを共有しない人間、あるいは不幸にもビジョンを持たないリーダーのもとで働いている人間と自分たちとは違うという意識を自然と抱くようになる。スーパーボスは部下のあいだに一種の内部者意識を生み出すために、これほど特別な逸材がそろっている集団はほかにいないと繰り返し言い聞かせる。
スーパーボスが「選ばれた人間」の素質としてもっとも重視するのは、業界の基準をみずからつくる能力だ。部下はリーダーであって、フォロワーではない。

本書で紹介されているスーパーボスはビジネス、芸術、メディア、レストラン経営といった土台で活躍して、それを軸にネットワークを築き上げていますが、それらの領域は例えて言えば、共通言語の様なもので、その領域での成功や頂点が、彼等の目標ではなく、『スーパーボスという現象の本質は、知識、知恵、成功を次の世代に伝えることにある。ノウハウだけでなく、考え方や生き方も伝えるのだ』と語っています。

読み終えたあとに、この本の表紙を再度眺めながら、感じるのは古代ギリャの哲学者や、ルネッサンス期の芸術家のこと。
難しい理論やテクニカルな技の伝承ではなく、人の心を魅了してしまうものを自らのなかに育てられたかを確認せざるおえない死の床が迫っている。

読書状況:読み終わった 公開設定:公開
カテゴリ: 未設定
感想投稿日 : 2016年7月14日
読了日 : 2016年7月14日
本棚登録日 : 2016年7月7日

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