名画の言い分 (ちくま文庫 き 33-1)

著者 :
  • 筑摩書房 (2011年6月10日発売)
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感想 : 21
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「西洋美術は見るものではなく読むものだ」だそうである。特に近代より前の作品には必ず何らかのメッセージが込められていると。作品の描かれた(作られた)当時の時代背景を押さえておかなければ、見ることは出来ても、読み解くことはできない道理なのだ。

では、西洋美術鑑賞のためにはどんな知識を押さえておけばよいのか?基本的にはキリスト教のようだ。ヨーロッパ中世では絵画と言えば宗教画のことである。ルネッサンスから近代にかけて、肖像画、歴史画が現れて、そして最後に静物だの風俗だの風景だのが描かれるようになる。宗教画方面の知識に加えて、近代に向けてキリスト教要素が徐々に薄まっていく社会背景(宗教革命、ブルジョアジーの台頭など)や各国の歴史を押さえておけば、それなりには読み解けると言った所か。もちろんキリスト教以前のギリシャ時代のものであれば、神話の知識があると良い。

近代より前の西洋美術に限らず、美術が時代背景、社会的文脈や技法的制約からフリーであることはないと思う。ただ、西洋美術については資料も豊富で、研究も進んでいるため、読み解くための下地が十分にあるわけだ。この本にあるような背景知識の有無で美術館巡りもだいぶ違った経験になるだろう。

はじめて訪れるパリで一日だけ観光をする機会があったので、美術館でも行こうと思って本書で予習した。実際にルーブルを半日程度で見学したのだが、いろいろな「実物」にもお目にかかれたし、予習の甲斐はソコソコあったような気がする。あんまり読み解き系の作品ではないが、『サモトラケのニケ』は素晴らしかった。

しかし本書は、初歩的な背景も含めた西洋美術の歴史を300ページ足らずの文庫本で縦断しようという試みなので、個々の作品に対する掘り下げは限定的である。仕方ないことではあるが、その点は少し物足りない。

以下、「へー」と思った豆知識。
・初期ギリシャ彫刻のアルカイックスマイルは、「生きて息をしている人間なんです」というサイン
・新プラトン主義「神は光だ」→聖なる人物は宝石の色(ルビーの赤、エメラルドの緑、サファイアの青、ゴールドの金)で表現することに。マリア様の場合は、赤=神性、慈愛、青=聖なる知恵、背景の金=信仰の不変、神のエネルギー、天国。
・ゴシック様式はルイ7世の治世下の1137年から1144年の間に、フランス国家統一のためにサン・ドニ王室修道院主導で計画的に作られた。ゴシックとマリア信仰がくっついてノートル・ダム大聖堂が各地に作られる。
・中世は「この世は悪魔が作ったような罪深いところ(グノーシスっぽい?)」。近世になって「神様が作り給た」で写実的絵画へ。
・肖像画の正面顔は本来キリストだけのもの。デューラー自画像はその点で破格。ふつうの肖像画は横向きから斜め向きへ。
・オランダは象徴主義的。静物画のヴァニタス。
・市民階級の台頭したオランダで風俗画や集団肖像画が登場。
・イギリスは絵画の発展が遅い。脱カトリックしたので宗教画は少ない。オランダの画家により肖像画や風景画がもたらされる。
・フランスの美の正統は芸術アカデミー。写実的な歴史画の大作など。印象派はアンチのムーブメント。

読書状況:読み終わった 公開設定:公開
カテゴリ: 本・雑誌
感想投稿日 : 2018年11月5日
読了日 : 2012年9月22日
本棚登録日 : 2018年11月5日

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